工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」
2025.03.24
第9回 作業教育の実施:初級作業と作業標準書
ジェムコ日本経営 古谷賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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今回は、作業教育の重要なツールである作業標準書の考え方について解説をする。知識や経験がない新入社員に対して教育をする場合、まずは初級作業(難易度の低い作業)からになる。初級作業とあなどって、「作業標準書などは不要、口頭で説明すればよい」といった手抜き教育をするならば、相手の誠実さを敏感に感じ取る「Z 世代」の新入社員は、先輩たちの教育に対する姿勢をすぐに見抜いてしまう。この連載でも教育ツールの必要性を説いてきたが、せっかく入社をしてくれた新入社員に作業標準書もなしに中途半端な教育を始めると、「何も教育の用意をしていない」「教える人によって、言うことが違う」、あるいは「いろいろ言われても覚えきれない」といった不満を持たれてしまうことは避けられない。
このような難易度の低い作業は、新入社員だけではなく、アルバイト作業者などに教育することも多い。それゆえ、難易度の低い初級作業といえども適切な作業標準書を作成しておくことは、職場に加わった新しい作業者をすみやかに生産活動に従事できるようにするためのカギとなる。
作業標準書を作成すべき初級作業
作業標準書がなくても教育ができる簡単な作業は多い。たとえば、「部品を机の上に並べる」「箱を指定場所に運ぶ」といった作業は「付帯作業」と呼ばれ、その多くは特段の注意点がないもので、教育はすぐに完了する。しかし、このような作業を優先的に作業標準書にすることは、あまりお勧めできない。作業標準書の作成には時間がかかるが、作成した作業標準書が実際の教育場面では活用されないことも多いからだ。ひと言、説明すれば教育は完了するのに、同じ内容が書かれた作業標準書をわざわざ参照する必要性は低い。
原則論でいえば、すべての作業に対して作業標準書を作成するべきだ。しかし、限られた工数や時間の中で、何を優先して作業標準書を作成するのかを考えることも重要だ。新入社員を念頭に、優先して作業標準書を作成するべきは、初歩的な「加工作業」だ。加工作業とは、切る、曲げる、組み立てる、貼る、混ぜる、といった作業を指し、付加価値を生む作業のことだ。加工作業の中でも、覚えることが比較的少なく、練習の難易度が低いものを対象にするとよい。その作業に対して、覚えなくてはならない作業手順、注意すべきポイントなどを明確に示すのだ(図1)。
新入社員とベテラン作業者の間にあるギャップ
作業標準書には、根本的な悩みどころがある。それは、作業標準書を作成するベテラン作業者は作業を熟知しているが、作業標準書を使って教育を受ける新入社員には、知識や経験が何もないということだ。このような、知識や認識のギャップが存在することを、作業標準書の作成に際しては十分に気をつける必要がある。
作業を熟知しているベテラン作業者には、知っていることが当たり前のこと、できて当たり前ことがたくさんある。ベテラン作業者が「この内容で十分だろう」と考えて、ていねいに作成したつもりの作業標準書であっても、教育を受ける新入社員にとっては、注意すべきポイントやコツなどの説明が足りずに、まったく理解ができないことがある。このような作業標準書は、「わかる人にしか、わからない、残念な作業標準書」と揶揄されることもある。残念な作業標準書を新入社員の教育に使ってしまうと、必要なことが十分に書かれていないため、作業標準書を用いて教育をしても正しい作業ができるようにはならない。教える方も、教わる方も、役に立たない作業標準書を活用するよりも、最初からベテラン社員が口頭で教育をした方が早いということになり、作業標準書はまったく意味をなさなくなってしまう(図2)。
作業標準書は誰でもわかる内容になっているか
新入社員に向けた作業標準書を作成するときに、意識して欲しいキーワードは「読めば誰でもわかる」だ。もちろん、これには前提条件がある。本連載で解説したとおり、基本技能や要素作業といった、必要な予備知識が確実に教育されていることは必須だ。「誰でも」というのは、用語がまったくわからない人、基本的な知識や技能がない人、作業とは無関係な通行人などといった極端なものではない。
その教育を受けるに足るだけの、必要な知識や基本的な技量を保持している人であれば、誰でも読めばわかることが重要なのだ。たとえば組立作業の作業標準書であれば、ドライバーの持ち方、ねじの扱い方、部品の持ち方、といった知識や技量がある人ならば、誰が読んでも作業の手順や、注意すべきポイントやコツなどを理解することができて、実際に作業標準書に描かれたとおりに作業の練習を繰り返せば正しい作業ができるようになっていればよい。
「読めば誰でもわかる」ような作業標準書を作成するには、いくつか手法がある。まず、作業標準書を作成したベテラン作業者と同水準の知識や経験を持った人に、「何も知らない」つもりになって読んでもらい、その内容どおりに作業ができるかを試してもらうことだ。スキルの高い作業者にチェックをしてもらうことで、追加すべき新たな知見を盛り込むことも期待できる。他職場の経験が少ない作業者に、その内容どおりに作業ができるかを試してもらうことも有効だ。経験の少ない作業者にチェックをしてもらうことで、説明が不足している点を洗い出すことが期待できる。
次回までの振り返り
前回検討した要素作業を含む、何か1 つの初級作業を選び、基本技能など最低限の知識と技能しか持ち合わせていない新入社員に対して、知らない、できない、を念頭において、「読めば誰でもわかる」レベルの作業標準書を考えてみよう。そして、そのような作業標準書を作成したら、ほかのベテラン作業者や別部門の経験の浅い人たちが読んで、確実に作業内容を理解できるのかを検証してみて欲しい。
今月の検討課題
初級作業にふさわしい作業とは何か、初級作業の教育に用いる作業標準書はどのように書くべきなのかを踏まえ、
・実際に作業標準書を作成する。
・その内容が適切かを検証する。