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工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」

2025.06.26

第14回 作業実態と教育内容の乖離を防ぐ!

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ジェムコ日本経営 古谷賢一

ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
https://www.jemco.co.jp
 どのような作業も、時間の経過とともにその内容は変わっていく。たとえば、改善活動によって従来よりも良い作業方法が編み出されたとき、工程内での品質トラブルや顧客からのクレームの対策で作業方法や管理方法が変更されたとき、あるいは注意すべきポイントが新たに見つかったときなど、生産活動を継続していれば、必ず作業の方法は変わるものだ。しかし現実には、はるか昔に作成された作業標準書が、一度も改定されず、現在の作業内容から大きく乖離していたりすることは、歴史の長い工場では「あるある事例」といっても過言ではない。

 作業方法や管理方法などが変更されたならば、適切にその内容を作業標準書、作業の教育方法に織り込まなければ、作業教育の内容と実際の作業とに乖離が生じてしまう。「Z 世代」の新入社員は、指導内容の矛盾にはきわめて敏感だ。教えられたこと(作業標準書の内容)と、実際の作業に乖離があると彼らは何が正しいのか混乱するだけでなく、教育内容や指導内容への信頼も失ってしまう。徒弟制のように「俺の言うことだけを聞けばよい」といった押しつけの教育方法はもはや通用しない。

過去の不具合を反映させる

 生産活動を行っていると、残念ながら、多かれ少なかれ、工程内での品質トラブルや顧客からの品質クレームが発生する。このような品質問題が発生すると、その原因を追求して、問題の再発を防ぐために適切な対策が取る必要がある。さらに、その対策は適切な形で作業標準書や作業の教育方法に織り込まれなくてはならない。「Z 世代」の新入社員に対する教育活動を進めているあいだも、現場では生産活動が続いているので、このような作業標準書の改定や、作業の教育方法の改善は日々進んでいる。

 今年度に実施した作業教育の内容を陳腐化させず、次年度の新入社員教育の質を向上させるためにも、今年度に発生した不具合に着目して、その対策が適切に作業標準書に織り込まれているかの振り返りをするべきだ。まずは、工程内で発生した品質トラブル、そして顧客からのクレームをリストアップして、不具合対策の内容が適切に作業標準書に織り込まれているのかを確認してほしい。

 マネジメントシステムが正しく機能しているならば、不具合対策の内容は標準書類に織り込まれているはずだ。しかし現実には、品質問題の混乱で、作業標準書の改定といった標準化が後回しになっているケースは珍しくはないため、このプロセスはぜひ実施するべきだ(図1)。
図1 過去の不具合内容を振り返る

図1 過去の不具合内容を振り返る

過去の改善活動を反映させる

 作業方法や管理方法の変更は、品質トラブルやクレームを起点にするものだけではない。日常的に、生産現場では改善活動を行っており、作業性や品質の向上、あるいは安全確保のために、作業方法や管理方法には変更が加えられている。そうすると当然ながら、作業標準書の内容への改定も必要となってくるはずだ。

 しかし、現実には改善活動を行って成果が出れば「よし」としてしまい、そこで考えられた新しい作業方法や管理方法を、作業標準書などの標準書類に織り込むことなく、改善活動を終えてしまうことが珍しくはない。改善活動は、改善した内容を「標準化」してようやく完了だ。しかし、多忙を言い訳にして、現場では標準化に対する活動が手薄になってしまうものだ。その結果、現場の作業と作業標準書の乖離が生じてしまうことに、留意しておく必要がある。

 現場では、各職場がそれぞれ改善活動を実施していることも珍しくはない。そうすると、すべての改善活動を把握している人が誰もいない、といったことが起こり得る。年に一度でも、各職場で実施した改善活動の内容を洗い出し、その内容が適切に作業標準書に織り込まれているかを確認するべきだ。

変化点を正しく教育に反映させる

 4 月からの新入社員教育で活用した作業標準書や作業の教育方法に対して、前述したような、不具合に対する対策内容、あるいは、改善活動による改善内容などがあれば、作業方法や管理方法に何らかの「変化点」があるということだ。その変化点の内容は、新入社員に正しく再教育をすることが必要だ。たとえば、「作業教育を実施」したあと、「後日、何らかの改善活動で作業方法が変更になった」ならば、作業方法が変更となった時点で作業標準書の内容を、作業者に対して再教育をすることが求められる。

 これも、“建て前”では、マネジメントシステムによって、作業標準書が改定された場合は、関係者に再教育を実施することになっている。しかし現実には、必ずしも関係者全員に対して再教育が行われているわけではない。これが原因で品質不具合に至った経験をもつ読者諸氏も少なくはないだろう。まずは作業方法や管理方法の変化点の明確化、そして、それぞれの変化点の内容を誰に再教育したのか否かを確認して、もし再教育が適切に実施されていない場合は、計画を立てて再教育を実施するのだ。

 本連載は、「Z 世代」の新入社員への教育をテーマにしているが、これは新入社員に限定されるものではない。べき論では、すべての作業、そしてすべての作業者に対して、作業方法や管理方法の変更に対する再教育を確実に行う必要があるが、まずは新入社員に対する教育の適正化を優先すべきだろう(図2)。
図2 実際の作業と教育内容の乖離をなくす

図2 実際の作業と教育内容の乖離をなくす

次回までの振り返り

 教育訓練を「やりっぱなし」にしないために、定期的に教育内容と実際の作業内容が乖離していないかを確認することが重要だ。過去1 年程度を振り返り、不具合の対策や改善活動によって作業方法や管理方法が変更された場合、それらが適切に教育内容に織り込まれているかを確認してほしい。もし実際の作業と教育内容に乖離があるならば、速やかに乖離をなくす取組みを始める必要がある。
今月の検討課題
・ 過去1年間の不具合対策や、改善活動による作業方法や管理方法の変化点を洗い出す。
・ 変化点の内容が、適切に新入社員に対して再教育を実施できているかを確認する。

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