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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.08.26

QC活動でモノづくりの底上げを目指す―フジテック

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 エレベータ・エスカレータ大手のフジテックは、QC活動を通じたモノづくり、人づくりに取り組んでいる。少子高齢化を背景とした人手不足、高齢化、技能継承などの課題に直面する中、小集団活動によって職場の困りごとを解決できる人材を育成し、現場、間接部門も含めた全社的なボトムアップを図るのが狙いだ。昨年からは国内外の拠点ごとの活動に加え、社外のQCサークル大会への参加や異業種企業との交流にも着手。他業種の取組みを学ぶことで自らのレベルアップに結びつけようとしている。トップダウンでなく、従業員1人ひとりが考える自主性を活かした取組みを継続し、グローバルでの改善文化の定着を目指す。

QC 活動を本格化

 フジテックの創業は1948 年。エレベータ専業メーカーとして発足、早くから「世界は1 つの市場」とのスローガンを掲げ、64 年の香港進出を皮切りに韓国、シンガポール、ベネズエラなどへ現地法人を設立。現在は国内(2 個所)、中国(3 個所)、韓国、台湾、インド、米国、メキシコに製造拠点を置き、エレベータ、エスカレータ、動く歩道を手がける世界的メーカーへと成長してきた。

 滋賀県の彦根市と米原市にまたがる敷地面積15万㎡の本社(ビッグウィング)はエレベータの主力拠点として研究、開発、設計、調達、生産機能を集約。グローバル市場と連携したモノづくりを行うマザー拠点と位置づけられている。JR 東海道新幹線の米原駅から京都駅へと向かう右手の車窓に白く映える塔は、同社が誇る世界最大級(170m)のエレベータ研究塔である。

 本社工場は年間約4,000 台の生産能力を持ち、鋼材の加工から塗装、制御のシステム開発、プリント基板の実装・組立まで手がける。製造部門を統括する高杉信秀生産本部ビッグウィング製作所長は「エレベータは1 台に数万点の部品が使われています。基本となるモデルはあっても建物に合わせてすべてカスタマイズが必要で、一品一様のモノづくりが求められます。それだけに手作業に頼る部分が多く、自動化が『永遠の課題』となっています」と建築設備特有のモノづくりの難しさを説明する。

 特に近年の少子高齢化を背景にした採用難、従業員の高齢化は技術伝承にも影響を与えている。同社にとってもベテランの技術・技能を継承するとともに市場環境の変化に対応した柔軟なモノづくりへの取組みが急がれる。その課題へのアプローチとして着目したのがQC サークル活動である。「QC 活動の良さは自らの困りごとをQC 手法の活用で理路整然と物事を整理し、解決していく力をつけられることです。QC はゴールでなく手段。1 つのテーマをやったら終わりでなく、常にブラッシュアップを図っていけるところに魅力があります」(高杉製作所長)
ロゴ投影ライトを使った工場入り口のデザインの一例。QC活動から生まれたアイデアで、工場見学のお出迎え、作業者への安全喚起などが映し出される

ロゴ投影ライトを使った工場入り口のデザインの一例。QC活動から生まれたアイデアで、工場見学のお出迎え、作業者への安全喚起などが映し出される

 同社は7 年ほど前からQC 活動を実施してきたが、本格的な取組みが始まったのは昨年からだ。2022 年に就任した高杉製作所長の呼びかけで翌年12 月に開かれた日本科学技術連盟(日科技連)のQC サークル京滋地区発表大会への参加がきっかけとなった。「それまでも拠点ごとにQC 活動を実施し、国内外のオールフジテックでQC サークル成果発表会なども開催してきました。ただ、社外の大会にエントリーするのは初めてで、参加を機に取り組む雰囲気が変わってきました」とQC サークル活動の事務局を運営する柏山泰寿ビッグウィング製作所品質管理部市場品質課主事は振り返る。
塗装ラインの室内環境の見える化。高温の作業場で熱中症予防としてQC活動で発案

塗装ラインの室内環境の見える化。高温の作業場で熱中症予防としてQC活動で発案

チーム数が1 年で18 から24 に増加

「私は他流試合といっていますが、まずは世間を知り、自分たちのレベルを把握することが大切です。昇降機業界だけでなく、他業種を勉強して自分たちに活かせるものを見つけ出してもらいたい。実際、京滋地区発表大会では自動車メーカーや自衛隊などさまざまな業種のすばらしい発表を聞くことができ、特に参加した若手たちのモチベーションが高まったようです」(高杉製作所長)

 QC サークル京滋地区大会に加え、マネジメントクラスでは日本能率協会が主催する「第一線監督者の集い」の福岡大会へも参加。他流試合が同社のQC サークル活動を大きく活性化させてきた。

 その成果の1 つとして挙げられるのがガイドレール加工の自動化だ。エレベータのカゴの昇降を支える重要部品で、数メートルのレールを建物の高さに合わせてつなぐため上下の数ミリのズレが振動の原因となり乗り心地を大きく損ねる。従来、穴開けや切削は旋盤など人手に頼っていた。これを改善活動の一環としてベテラン、若手がアイデアを出し合い専用機を導入。「永遠の課題」である自動化の一歩を踏み出すことに成功した。
人手による工程が多いのが特徴。レール加工も穴開けなどほとんど手作業に頼っていた(ガイドレール加工の改善前)

人手による工程が多いのが特徴。レール加工も穴開けなどほとんど手作業に頼っていた(ガイドレール加工の改善前)

ガイドレール加工の自動化ライン。従来、手作業だった工程をベテラン、若手のアイデアで実現(ガイドレール加工の改善後)

ガイドレール加工の自動化ライン。従来、手作業だった工程をベテラン、若手のアイデアで実現(ガイドレール加工の改善後)

 また、管理部門でも工場見学後のアンケートの用紙を手書きからQR コードを使ってスマートフォンで読み取る形式に変更。アンケート結果によるお客様満足度も5.0 満点で4.5 以上をキープするなどの評価を得ている。

 こうした目に見える成果が本社全体の勢いにもつながり始めた。「24 年度はこれまで参加していなかった資材部や生産管理部からもチームの登録があり、本社だけで昨年の18 チームから24 チームに増えました。この数字は明らかに活動の質が変わってきた証だと見ています」と柏山主事は気運の高まりを確信する。
QC活動の1コマ。今年は本社全体で24チームが参加

QC活動の1コマ。今年は本社全体で24チームが参加

 また、社外での活動を通じて始まった異業種交も大きな収穫である。QC サークル京滋地区大会、第一線監督者の集いで知り合った建機メーカーと相互に工場を見学し、交流を持ち始めた。「同じモノづくり企業でも異業種だと目線が違う。『何でそうしているのか』といった率直な意見をもらえ非常に勉強になります」(高杉製作所長)と新たな視点からヒントを得ることも少なくないという。現在はマネジメントクラスを中心に交流を進めているが、今後はリーダークラスへと広げ、若手育成にも活かしていく考えだ。

QC サークル全国大会にエントリー さらなるレベルアップへ

 今後の取組みとしては社内的にはグループ全体の底上げを進めていく。特に海外市場の比率が高まる中、海外拠点での活動の強化は必須である。「事務局では海外のQC 活動の支援として資料のつくり方指導や現地語への翻訳などを行い、グループ全体への情報発信を行っていきます」(柏山主事)とサポート体制を整える。

 オールフジテックとして年2 回開催するグローバルQC サークル合同発表会には海外拠点からもリモートで参加する。今年5 月の発表会では50 チームから選抜された11 チームが出場。海外からは中国(3 チーム)、インド、韓国、台湾がエントリーした。すでに中国は過去に(最高賞の)金賞を連続受賞するほどレベルが高まっており、急成長するインドは今回初参加となった。授与するトロフィーをクリスタルの盾に変えるなど参加者のモチベーションアップにも工夫を凝らす。

 同社では国内外の次世代リーダー育成を狙いとした人材育成研修「Global Manufacturing Training」(GMT)を実施している。年に1 度集合研修を行い、生産における課題を共有し、改善に取り組む。集合形式はコロナ渦で中止していたが、今年2 月に3 年ぶりに開催。国内外の8 拠点から参加し、改善発表に加え、本社工場や近隣のエアコン工場の見学も実施した。「GMT では20 ~ 30 代を中心に設備保全や加工方法、作業方法などについても議論します。技術革新とQC 活動を同時に進め課題解決に向けた改善に取り組みます」(高杉製作所長)とGMT による改善活動の強化に期待する。

 また、対外的にはQC サークル活動のレベルアップを図るため日科技連のQC サークル全国大会にエントリーを決めた。「QC ストーリーのつくり方、QC 手法の活用、発表の表現方法など全国大会のレベルは非常に高い。9 月の京都大会を目標にブラッシュアップを図ってもらいたいと考えています」(高杉製作所長)。

 他流試合での切磋琢磨が同社のモノづくりを鍛え上げていく。

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