工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル Season2」
2026.05.20
第3回 改善のスキル育成② 今よりも楽につくれるスキルを高める
ジェムコ日本経営 古谷 賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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「改善のスキル育成」の2 回目は、入社をして数年目といった若手社員に対して、どのようにして改善のスキルを教育すればよいのかを、「楽につくれる(生産できる)」ことをテーマにして解説する。一般的な表現だが、「楽ではない作業」と「楽な作業」があれば、どちらが早く作業ができるだろうか、どちらがミスや事故なく作業ができるだろうか。答えは言うまでもない。当たり前の視点だが、実際の生産現場では、その「当たり前」が顧みられずに、楽ではない作業が問題と認識されないまま放置されていることは珍しくない。
たとえば、「中腰になって作業をしている」「目視しづらい個所を、体をよじって確認している」「高い場所にモノを積み上げる(積み下ろす)」といった作業は、現場の至るところに存在しているだろう。ところが、長年その環境下で仕事をしてきた人にとっては、それは日常の「当たり前」の光景であり、問題とは意識されていないのだ。
知識の付与① 楽な動作を考える
「楽な動作」といっても難しく考える必要はない。シンプルに、作業者の動作そのものが「楽」であることだ。残念なことに、「楽な動作」というと、ベテランの先輩社員の中には、自分が苦労してきたことを否定されたと感じるためか、「楽な動作=手抜き」といったゆがんだ印象を持つ人もいる。もちろん、「手抜き」によって、生産性・品質・安全などが阻害されてしまうことは許されない。しかし動作が「楽」になることの本質を忘れないで、冷静に考えて欲しい。
楽な作業とは、人間の動作が極力少なく、無理な姿勢を強いることなく、過度な注意力を要求しない作業のことだ。たとえば、腰をかがめて床のモノを取る、背伸びして高い場所にあるモノを取る、不安定な姿勢で作業するといったことを想像するとよいだろう。いずれも、身体に無理がかかる動作で、疲労、ミス、トラブルの発生につながることは容易に想像できる。
手を伸ばす、歩く・走る、身体を大きく動かす、といった作業者に負担となる動作を極力減らし、作業しやすい、取りやすい、動かしやすい、見やすい、といった「楽」を追求する視点は、改善活動の基本になる(図1)。
知識の付与②力を使わない作業を考える
ある海外工場の事例を紹介する。溶けた鉄を流し込む作業や、重量物を運ぶ作業などがある、大規模な鋳物工場だ。読者諸氏は、力自慢の男性作業者たちが汗まみれになって働く現場を想像するだろう。しかし現実は違う。その工場では、多くの女性作業者が男性と同様に働いており、「腕力にモノをいわせた作業」ではなく、台車などの搬送用具の積極的な活用、治工具の工夫などによって、多くの作業が、女性作業者でも対応できる状態がつくり上げられていた。しかも、他社よりも高い生産性を実現していたのだ。重厚長大の現場は男性社員でなければ難しいという固定概念を大きく崩した光景に、感銘を受けた記憶がある。
海外の工場では、女性作業者がこのような現場で働くことはそれほど珍しい話ではないが、これを「海外だから」と特別扱いすべきではない。日本の工場では、現場作業のなり手となる若手作業者が減少しており、生産活動を維持するために、人員不足を大きく改善することは喫緊の課題となっている。そのためには、「力のある男性作業者」のみを考えていては、人員不足の解決は難しいと考えるべきだ。
これも「当たり前」だが、重量物を「苦労して運ぶ」のと「楽に運ぶ」のとでは、どちらの方が作業性・品質・安全の面で有利かはいうまでもない。しかし現場では、20kg の紙袋を何個も運ぶといった作業をしなくてはならないことがある。「必要だから仕方ない」と考えるのではなく、なるべく力を使わなくてもよいように、作業台や置き場を改善する、搬送道具をうまく活用する、作業方法を改善するなど、「力を使わなくてもよい」作業を考えて欲しい(図2)。
経験の付与を考える
ここで紹介をした「楽な動作」と「力を使わない作業」という視点は、かなり広範囲に活用が可能だ。生産改善が進んでいる工場においても、「従来からやっている、当たり前の作業」と認識されてしまうことも珍しくはない、意外に気づかない点だ。しかも、このような作業は「楽ではない動作をがんばっている作業者」や「体力を酷使してがんばっている作業者」たちがいるために、良くも悪くも「とりあえず何とかなっている」状態にある。
しかし、人手不足が続き、作業者の多様化も進む現場において、改めて見直してみることが必要だ。従来からの作業に慣れていない若手社員の視点は、問題点をあぶり出すためにとても役に立つ。たとえば、長時間の作業で姿勢が辛くなる作業、何度も繰り返すとミスが起きやすい細かな作業、身体を大きく動かさなくてはならない作業など、いくつかの視点をテーマに挙げて、作業教育や作業実習の中で気づいたところを指摘してもらうことを実施してみるとよい。
この場面で注意しておくべきは、ベテラン作業者の「この作業はそういうものだ(諦めて受け入れろ)」といったダメ出しだ。せっかくの若手社員の新鮮な視点を受け入れることなく切り捨てることはせず、冷静に自分たちの作業を見つめなおす機会にしよう。
次回までの振り返り
今回紹介した2 つの知識、「楽な動作を考える」と「力を使わない作業を考える」を、若手社員に対して実際に教育をしてみよう。できるだけ先輩社員の体験談で、「これは作業がしにくかった」といった実体験の話や、「この作業で腰痛がひどくなった」といった労災一歩手前の事例など、その職場で過去にあったさまざまな問題点を、事例(写真や動画があるとなおよし)として説明することが有効だ。知識の付与ができれば、経験の付与として、ぜひ実際に生産現場での問題点の洗い出し、そして若手社員が考える対策の前向きな検討などを行って欲しい。
今月の検討課題
・知識の付与を行う
楽な動作とは何かを知ってもらう
力を使う作業とは何かを知ってもらう
面倒な作業の問題点を知ってもらう
・経験の付与を行う
実際に現場の問題点を抽出してもらう