工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル Season2」
2026.06.24
第4回 改善のスキル育成③ 今よりも早くつくれるスキルを高める
ジェムコ日本経営 古谷 賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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「改善のスキル育成」の3 回目は、入社して数年目といった若手社員に対して、どのようにして改善のスキルを教育すればよいのかを、「早くつくれる(生産できる)」ことをテーマにして解説をする。生産活動に必要なコスト(費用)の多くは人件費であり、人件費は「〇円/ 時間」といった形で発生をする。そのため、できるだけ早く作業を完了させたほうがコストを安く抑えられる。
また、より多くの製品を生産したい場合、残業や休日出勤をすれば可能だが、生産にかかるコストが増えてしまう。もし1 個当たりの生産時間を早くすると、余計なコストを安く抑えつつ、1 日に生産できる製品の数は増えるので、より多くの注文にも対応ができる。
より早く生産を行うためには、作業方法の改善や設備の改良などさまざまな手法があるが、本稿では、若手社員に対して、早く作業するために押さえておくべき視点について、「人の作業」に的を絞って解説をする。
知識の付与① ムダ・ロスの視点
早く作業をするための、最も簡単で安直な方法は「急いでやる」だ。「ダラダラせずに早く手を動かせ!」と怒鳴り散らせば、確かに作業は早くなるかもしれない。しかし、そのような工場はすぐに若手社員から見放されてしまうだろう。
まず若手社員が知っておくべきは「ムダ・ロス削減」の視点だ。これは、不必要なことを極力排除すれば作業は早くなる、という考え方だ。余計なことをするから時間がかかる、余計なことをするのをやめる(極力排除する)ことで、作業時間の最短化を目指すのだ。
JIS(日本産業規格)では、作業の要素を加工、運搬、停滞、検査の4 つに区分している。「加工」はモノの形状や性質に変化を与えることで、切る、曲げる、塗る、組むといった作業で価値を生み出す重要なものだ。「運搬」はモノの位置に変化を与えることで、モノを動かす動作のすべてを含む。工程内でモノを運搬すると手間はかかるが、モノの価値は増えない。
「停滞」は、モノが貯蔵されている、あるいは計画に反して滞留していることだ。モノの停滞は生産の邪魔になるだけでなく、保管や管理の費用が発生するが、これもモノの価値は増えない。「検査(確認)」はモノの品質特性を試験し、その結果を基準と比較して合格・不合格を判定することだ。確かに、検査をしなければ不良品が出荷されてしまう危険性があるが、検査そのものは、手間がかかるだけでモノの価値は増えない。このように、手間はかかるがモノの価値が増えない「運搬」「停滞」「検査」の3 つの要素を、工程内から徹底して減らす活動がムダ・ロス削減なのだ(図1)。
知識の付与② 付加価値の有無を見極める
早く作業をするためには、「付加価値の有無」の視点も有効だ。「付加価値」とは、何か作業をする前と後でモノの価値が高まることだ。100 円の材料を買って加工すると120 円で販売できるならば、この作業で20 円の付加価値が生まれたことになる。
前述の「加工」は付加価値を生み出すが、たとえばプレス作業で考えると、厳密にはプレスをしてモノの形が変わるところだけが、付加価値を生み出している。材料をプレス機械に取り付ける、プレス機械から加工済の材料を取り出す、といった動作は、プレス作業において必要なことだが、付加価値が生まれているわけではない。
現場の作業には、このような作業や動作がいたるところに存在している。必要な作業や動作だけれども、付加価値を生んでいるわけではない作業や動作に着眼をし、それらを簡素化する(あるいは省く)ことを考えよう。たとえば、プレス機に材料を組み付ける場合、組付前の材料を取りやすくする、置く位置や高さを工夫する、といったことを考えるのだ。付加価値を生んでいない作業や動作は、手間はかかるが、顧客への価値は生まれていないことを意識することが大切だ(図2)。
経験の付与を考える
実際に、「ムダ・ロス」とは何かを、そして、「付加価値を生み出す作業や動作」とは何かを若手社員に教えることができたなら、それぞれの項目について、現場の作業を動作レベル(細かな作業者の動き)で観察をしてもらうことだ。「先輩作業者は、どのような作業をしているのか」「どのような動作をしているのか」、そして「どの動作が、付加価値を生んでいるのか(生んでいないのか)」を探してみることを実践してみるのだ。
経験の豊富なベテラン作業者は、現状の作業が身体にしみ込んでいるために、現場の作業に潜んでいるムダ・ロスに気がつかないこともある。また、現在の作業に対して保守的になり、作業の問題点を冷静に受け入れられないこともある。それに比べて若手作業者は、作業に対する固定概念が形成されていないため、作業に含まれるムダ・ロスを客観視しやすいものだ。
もう1 つ、実際にムダ・ロスがある作業と、ムダ・ロスのない作業をそれぞれ実際に体験させてみて、ムダ・ロスの有無が作業のやりやすさ(作業時間、作業による身体的な負荷)にどのような違いをもたらすのかを、認識させてみることも有効な手段だ。ムダ・ロスがある作業には、時間のかかる面倒な動作が多く含まれていることを、身をもって体験することで、ムダ・ロスへの意識を高めることができる。
次回までの振り返り
本稿で紹介した、2 つの知識「ムダ・ロス視点」と「付加価値の有無の視点」を若手社員に対して実際に教育をしてみよう。価値を生み出さない作業や動作は、手間がかかり(時間がかかり、疲労もたまる)、コスト(費用)も余計にかかってしまう。早く作業をするためには、ただ動作を早くするのではなく、余計な動作を減らすことで、結果としての作業時間を早くすることがポイントであることを、若手作業者もベテラン作業者も、職場の中で共通認識として欲しい。
今月の検討課題
・知識の付与を行う
ムダ・ロスの考え方を理解する作業や動作が付加価値を生んでいるかを理解する
・経験の付与を行う
実際に現場の作業を分析してもらう