工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル Season2」
2026.07.21
第5回 改善のスキル育成④ 今よりも安全につくれるスキルを高める
ジェムコ日本経営 古谷 賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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「改善のスキル育成」の4 回目は、入社して数年目といった若手社員に対して、どのようにして改善のスキルを教育すればよいのかを、「安全につくれる(生産できる)」ことをテーマにして解説をする。職場の安全確保は、製造業のみならずすべての職場における最も重要な課題だ。残念なことに、厚生労働省の『令和5 年における労働災害発生状況』によると、令和5 年度には製造業で27,194 人もの死傷災害(死亡災害お呼び休業4 日以上の死傷災害)が発生している。
危険な現場といっても、機械装置が動いている現場や、縦横無尽にフォークリフトなどが動き回る現場といった、危険だとわかりやすい職場だけが対象ではない。どんな現場にも危険が潜んでいる。読者諸氏も、小さな段差で足をくじいたり、小さな突起物で脇腹を打ったりした覚えがあるだろう。今回は、このような大小の危険を排して、安全な職場をつくり上げるための基本的な視点を解説する。
知識の付与① 不安全な行動をなくす
安全な職場をつくるための1 つ目のキーワードは「不安全行動」だ。文字どおり、安全ではない行動を作業者がとってしまうことを意味する。労働災害が発生する原因の1 つは不安全な行動によるもので、「(危ないので)触ってはいけないところを、つい触ってしまった」といった禁止されていることをやってしまうことがその代表例だ。
しかし、職場での経験が少なく、知識も限られている若手社員には、何が不安全な行動なのかわからない。そのため、先輩社員に「安全には気をつけろ」といわれても、どうしてよいかわからない。たとえば、「鋭利なナイフの刃を触るとケガをする」といったような、日常生活の中での経験があれば、不安全な行動を回避する(=ナイフの刃を触らない)ことができる。ところが、工場の中にある機械装置や治工具などの知識がない場合や、その職場での作業の経験が少ない場合は、何が不安全なのかわからないので、適切な行動をとることはできないのだ(図1)。
まず、若手社員に対しては、「不安全な行動とは何か」を具体的に示すことから始める必要がある。経験が豊富な先輩社員にとって、不安全な行動(危険な行動)は何かというのは、知識というよりも経験で体得した常識レベルのものだ。しかし、新入社員はそのような常識は持ち合わせていない。実際の生産現場における不安全な行動とは何かを具体的に示し、もし不安全な行動をとった場合にはどのような事故につながるのか、そして、危険を回避するために守るべきルールは何かを、正しくていねいに教えることが重要だ。
知識の付与② 不安全な状態をなくす
安全な職場をつくるための2 つ目のキーワードは「不安全状態」だ。これは、事故が発生し得る危険な状態があることを意味する。「触ると危ないところが、容易に触れるような状態になっている」ことがその代表例だ。不安全な行動だけを注視するのではなく、労働災害が発生する原因の根本には不安全な状態があることを認識しなくてはならない(図2)。
たとえば、設備の一部に「触るとやけどする」ような高温になる場所があり、触るなと指示されているにもかかわらず、人が触って火傷を負ってしまうことは不安全な行動といえる。しかし問題の本質は、そもそも「触るとやけどする」ような個所が、容易に触れられるような状態になっていることだ。このような不安全な状態を改善せずに、作業者の注意力を責めるような活動をしている限り、いつか必ず事故は起きると考えて欲しい。
不安全な状態を是正してより安全な職場にすることは、管理者の最大の責務だ。しかし、現場のどこに不安全な状態があるのかに気づけるのは、現場をよく知った現場の作業者たちだ。若手社員もその一員として、不安全な状態とはどんなものなのか具体的な知識を教育しておく必要がある。
経験の付与を考える
「何が不安全な行動なのか」「何が不安全な状況なのか」を、実際に危ない目に遭って経験してもらうことができないだけに、経験の付与は間接的にならざるを得ない。使い古された手段ではあるが、実際の事故事例を題材にすることを考えてほしい。
他社の事故事例であれば、厚生労働省が運営する「職場の安全サイト」に数千件にのぼる事例が、事故の原因別に紹介されている。イラスト付きで、どのような事故が発生したのか、何が原因だったのか、どのような対策をとったのかが詳しく説明されている。自社の事故事例であれば、さらに詳しく、どのような状況だったのか、そして、どのような作業や動作を行って事故が起こったのかを示すことができるはずだ。
具体的な事故事例を若手社員に見せて、どのような不安全状態があったのか、どのような不安全行動があったのかを考えさせてみるとよい。さらに、どのような対策をとるべきなのかを議論させて、先輩社員が講評するのも良い手段になる。
次のステップでは、現在、生産現場で使用している作業標準書の振り返りもしてほしい。作業標準書に書かれた安全上の注意点は十分なのか(不十分なのか)を、若手社員に考えさせるのだ。「安全のルールは血で書かれている」といわれるごとく、過去の苦い経験をもとにした内容が、適切に作業標準書に織り込まれていなければならないのだ。
次回までの振り返り
今回紹介した2 つの知識、「不安全行動」と「不安全状態」を若手社員に対して実際に教育をしてみよう。まずは、先輩社員たちで自職場を振り返り、考えられる不安全行動、考えられる不安全状態を洗い出す。その際は過去の経験も合わせて参考にしておくとよい。洗い出したものを若手社員にできるだけ具体的に教え、その知識を定着させるために、他社事例などを題材に討議を重ねるとよいだろう。さらに一歩進めるならば、現在の作業標準書の見直しにまで踏み込めるとなお良しだ。
今月の検討課題(振り返り)
・知識の付与を行う
自職場の不安全行動を洗い出す
自職場の不安全状態を洗い出す
それらを若手社員に教育する
・経験の付与を行う
実際の事例を題材に議論をしてもらう