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プレス技術 連載「EV化を再検証する」

2026.07.01

第5回 中国の「自動車強国」政策と現状

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裾野産業アドバイザー 前川 佳徳

プレス技術関連企業経営者の見解

 本連載では、プレス技術関連企業経営者の見解を聞き対話をしていくが、今回は中国のBEV に対しての見解を紹介したい。プレス技術関連の読者にはなじみのある伊藤製作所代表取締役会長・伊藤澄夫氏の見解である。伊藤氏はこれまでに『モノづくりこそニッポンの砦』と題して3 冊の本を出版しており(写真1)、2026 年早々にその第4弾が出版されるとのことで楽しみである。
写真1 伊藤氏著作第3 弾

写真1 伊藤氏著作第3 弾

 以下は東海ラジオの番組「伊藤澄夫の天下の一大事」での伊藤氏の談話をまとめたもので、筆者の連載への見解である。BEV の問題点や中国での展開、日本の自動車メーカーの取組みなどに対し、わかりやすい解説・意見である。

以下、伊藤氏の見解*****************************************

 日本が弱いとされるBEV だが、これはエンジン車やHEV(ハイブリッド車)では日本に勝てないがBEV であれば日本より上に行けるだろうということでヨーロッパとアメリカ、そして中国がやり始めたものだ。特にBEV と言えば今や中国である。世界のBEV メーカーベスト10 の中に6社が入っているほどで(表3 参照)、習近平国家主席、つまり中国政府はBEV で世界のシェアを全部取ろうという考え方でいた。しかし実は、後述するように最近この目論見は完全に崩れている。

 中国政府は今後、BEV の時代になるからBEVで世界一になるんだという意気込みで民間の企業300 社に莫大な補助金を注入した。リチウムイオン電池も中国が強い。リチウムイオン電池の半分以上は中国で生産されており、アフリカのコンゴにあるコバルトの鉱山も中国に買い占められたと言われる。

 ただし政府からの大量の補助金によってBEVがどんどん開発され、どんどんつくられた中国も、販売の面では中国国内でも陰りが見えている。補助金を目当てに多くのBEV メーカーが乱立した結果、過剰な生産、品質の低下が顕著だ。火災や水没などのBEV のネガティブな事故も多発し、目に見えて多大な損害が発生した結果、墓場と化したBEV 置き場が中国国内に6 カ所あるという。BEV が廃車になって電池の中のリチウムが漏れ出たら大変なことになる。リチウムはスプーン一杯でプールが泳げなくなるというほどの猛毒なのだから。大丈夫なのだろうか。

 またBEV はエンジン車と比べてだいたい30%くらい重量が重くなるから、タイヤから出る粉塵が増えるということもちょっと問題になっている。BEV の電池は8 年、あるいは10 年くらいで取り替えないといけないが、米国テスラの場合、新車を買うくらいのコストが必要だという。そうなると、今後どんどんスクラップが出てくることになるが、その処理方法、つまり公害対策はまだ世界で確立していない。こうしたことでBEV の評価は世界的に下がっている。もちろん、最大マーケットであるアメリカでも同様に下がってきた。

 またBEV を製造する際のCO2 の排出量はエンジン車と比べてかなり多い。さらに、BEV は10年余りでバッテリー交換をするか、あるいは廃車という選択をすることになる。ガソリン車なら一台つくれば20 年
以上使える。長く使うことも環境を考えるうえでは大切だ。こうしたことからEBV はやはりかなり不利な乗り物だと思う。

 BEV が実際にいいのか悪いのか。「何にしても、まず自分で体験しなければならない」との思いから、自ら購入して乗ってみた。BEV は確かに静かで乗り心地がよく、出足もよいという長所があった。

 一方、長距離運転となるとやはり不便さが目立ち、日本では充電設備の未整備や冬場のバッテリー性能低下といった問題が浮き彫りになる。特に1,000km を一気に走ろうとすると、ガソリン車なら12 ~ 13 時間あれば済むが、BEV では何度も充電しなければならず、そのたびに時間を取られて一昼夜かかってしまう。

 雪国や極寒地では、渋滞や立ち往生の際に電力を使い果たせば命にかかわる危険すらある。ガソリン車ならポリタンクで補給できるが、BEV はレッカー移動しか方法がない。-30℃で一昼夜止まれば凍死の危険すらあるだろう。

 バッテリーの材料も問題だ。リチウムの価格は高騰を続けている。希少金属のコバルトはコンゴでの産出に依存し、しかも前述のように中国が鉱山を押さえている。これがBEV 普及のボトルネックになるだろうと強調しておきたい。そして今後もし、何千万台規模でBEV が走るようになれば、材料費は跳ね上がり、価格は年々高騰するだろう。ユーザーとしては将来に不安を抱かざるを得ない。

 半導体や造船、家電といった分野でシェアを失ってきた日本にとって、自動車産業こそが最後の砦である。もし日本の自動車メーカー8 社がつぶれれば、税収は激減し、外貨も稼げなくなり、燃料も食料も買えなくなる。だからこそ、EV 化を一律に進めるのではなく、HEV やガソリン車など多様な選択肢を残すべきだ。いいものを自由に競わせ、その結果として選ばれるのが本来のモノづくりの姿だ。国や政治が無理にBEV へ誘導するのは間違いだと、はっきり指摘したい。

 何より重要なのは日本車の信頼性の高さを守ることだ。アメリカでトヨタのガソリン車「タンドラ」が160 万km を走破し、トヨタがその車を新車と交換して調査したが、問題はなかったという。BEV が同じ耐久性をもてるのか。数年で性能が落ち、十年も経てばバッテリー交換が必須になる。それが果たして経済的に成り立つのかと疑問を感じざるを得ない。やはりエコカーの主力はHEVになっていくだろう。そして、モノづくりの国・日本にとっては「現場に根ざした現実主義」の視点から自動車産業を守り、多様な技術を育てていくことこそが未来を切り拓く道である。

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 かなり長く紹介したが、元の見解はもっと長く、一部省略させてもらった。自らBEV を購入し、体験して評価していることに敬服である。具体的な指摘で参考になることが多い。「国や政治が無理にBEV へ誘導するのは間違いだ」と指摘されている点に筆者はまったく同意である。中国では国策によるBEV 振興策でメーカーやユーザーにBEV への誘導を行っている。このことについて次に検証しておきたい。

中国での国策とメーカー戦略

 自動車に限らず、製品の動向はユーザーニーズとそれに応える技術イノベーションによって決まるものと考えるが、現実はそうではない。特に自動車産業はその国の工業化、技術振興にとって重要なので、自動車の動向はほかの要因から大きな影響を受けている。

 具体的には、①そのときの社会(世界)の要請、②社会要請を考慮した各メーカーの戦略、③自国メーカーの戦略を支援する各国の国策、④メーカー戦略と国策に商機を見いだそうとするインフラ事業の参入などによって、自動車の動向が決められてきたように思える。

 今の状況を中国を例に見てみると、社会要請として2015 年のパリ協定以降の世界的な温暖化対策で脱炭素に貢献する自動車が求められてきた。その脱炭素要請を錦の御旗に、ディーゼル・ゲート(2015 年に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス不正問題)で落ち込んだドイツ自動車メーカーは、そこからの立直りにHEV では日本に勝てないので、BEV の開発・生産戦略を採った。中国自動車メーカーも、ガソリン車やHEV より後追いしやすい後発のBEV 開発・生産に舵を取った。

 中国におけるBEV 開発・生産政策は、自動車メーカーの戦略を国が支援したというより、国策が先にあって、国からの各種支援に自動車メーカーが参入してきたようである。中国の成長方式では、国の政策指針がまず出て、それに企業が参入する。参入企業を競争させ、過剰生産の中で他社を淘汰し生き残った企業に国が全面的に支援を行い、強者のメーカーとして育成する。国策として出されたBEV による「自動車強国政策」に勝ち残ったのが先に紹介したBYD であり、中国政府は今、強力にBYD を支援している。

 そのBYD でも、前述のように2025 年度は8%の最終減益となった。図1 で示したように2025年のBEV 販売台数は伸びているにもかかわらず、利益は確保できていない。一方、中国でおかしな現象も出てきている。2024 年、中国はガソリン車の輸出台数でも日本を抜き、世界一となったのである。「中国と言えばBEV」と思っていたら、低価格のガソリン車もしっかりつくっていたのである。

 BEV 開発では、車載バッテリーのみならず、車体の軽量化(バッテリーが重いので)や部品の低コスト化(バッテリーが高価なので)にも力を入れる。これらはガソリン車に対しても有用な開発技術で、BYD がガソリン車を扱うようになれば強力な開発メーカーになれる。

 しかし、国の強力な支援を受けているBYD としては、BEV が減速し始めても、国策が変更されない限りガソリン車生産には戻れない。政府によるポリティカルパワーが強力な中国での自動車メーカーの戦略構築の難しさでもある。

 中国ではガソリン車もしっかりつくって輸出していると先に指摘したが、表3 の3 位、4 位のWuling(上汽通用五菱汽車)やGeely(吉利汽車)などの大手メーカーが、ロシアや中東、南米など新興国市場にガソリン車を多く輸出している。Wuling やGeely の2024 年の生産では、新エネルギー車(NEV=BEV+ PHEV)生産がガソリン車生産より上回るようになってきたとあるが、NEVはほぼ中国国内販売向け、生産の半分近くのガソリン車は輸出向けになっている。この状況を中国政府はどう評価しているかについて、新興国への輸出はガソリン車の方が向いているので、ガソリン車生産を(国としては表明せずに歓迎し)許容しているのだと推測する。日本の自動車メーカーは、中国のBEV 生産の勢いよりも、このガソリン車輸出の勢いの方に警戒をしなければならない。

中国と日本のポリティカルパワー

 ポリティカルパワーとは広範な概念で、上記で意味してきたのは、政府権力が政策決定やルール形成によってそれを実行させる強制力である。

 中国では国策でBEV 生産に資金支援し、ユーザーには半ば強制的にBEV を買わせるような施策を取ってきた。国策はメーカーやユーザーの意向に関係なく「一党(共産党)独裁」の政府によって決められ、その強制力は格段に強力である。最近では「一人(習近平)独裁」で決まっているのではとも言われる。そこで決定ミスが起こると、ポリティカルパワーが強力な中国だけに、失敗による危惧は大きい。

 一方、日本でも政府は環境・エネルギー対策に関連してBEV 販売への補助金などを出すが、メーカーやユーザーに強制力を与えるような施策はしていない。日本のメーカーは適切と考える独自の戦略を立てられるが、資金支援がなく、政策面での支援も少ないので、中国車との競争では日本車は不利になっている。

 日本では高市政権がスタートしていろいろ動きに変化が出ている。自動車産業に関連の深い通商政策に関連しては、加藤康子氏が内閣官房参与に就任した。加藤氏は町工場を歩いてきて、日本のモノづくりを応援してきた人である。電気自動車と再生可能エネルギーには反対の姿勢を強く打ち出している。『EV(電気自動車)推進の罠「 脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス、2021 年11 月10 日)のような本の企画もしている。ポリティカルパワーが大きくない日本では強力な影響力を出せないが、加藤氏の働きに注目しておきたい。
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