プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2026.06.26
第21回 独自のプレス加工で板材に差厚のある自動車部品を成形する─ヨロズ
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
大手自動車部品メーカーのヨロズ(横浜市港北区)は、プレス加工だけでテーラードブランクと同様の差厚鋼材を成形する特許工法「げんにくん」を開発した(写真1)。これにより、従来は溶接で接合していたテーラードブランクを塑性加工(プレス加工)だけで成形でき、部品の軽量化とコストダウン、二酸化炭素(CO2)の排出削減を可能とする。
写真1 プレス加工だけで差厚鋼板を成形する工法「げんにくん」(写真提供:ヨロズ)
同社はサスペンションやリヤビーム、リンクなどの部品の開発・製造を手がけ、主力製品のサスペンションの一部では、部位ごとに必要な強度に応じて板厚に差を設けた、差厚一体構造を採用している。均一な板厚ですべての部位を同じ強度にするよりも軽量化につながるからだ。
その製法は、薄板と厚板を溶接で接合してからプレス加工する、テーラードブランクと言われる方法を用いている。テーラードブランクは、強度が必要な箇所は厚く、必要でない箇所は薄い複数枚の鋼板を溶接し、1枚のパネルにしてからプレス加工するもので、補強部材を不要にでき材料歩留まりや部品点数の削減によるコスト低減と軽量化も実現できる。
ただ、テーラードブランクには部品専用の溶接工程が必要であり、それに伴うコストが課題だった。また、溶接熱によるひずみや接合部と平板との塑性特性の違いによる成形品質への悪影響が懸念される。特に成形度合の大きい箇所に接合部があると割れやしわなどプレス成形上の品質の不具合が生じやすく、それによって設計の自由度が制約されてしまう。
「サスペンション部品では、お客さまから求められる強度・耐久性などの性能を満たせれば、さらにメーカー独自の技術を付加することより軽量化とコストダウンを図る方が歓迎されます」(森脇義宏上席理事・設計部長・カーボンニュートラル推進室付部長)
そこでテーラードブランクの課題を解決し、かつプレス加工でコスト低減の基本である材料歩留まり率の向上・スクラップの最小化を達成するため、あらかじめ板材を引き伸ばして部位ごとに差厚をつけてからプレス加工するという工法を発想した。
板材を引き伸ばすポイント
げんにくんは、1 つの機械(大型トランスファプレス機)の中で差厚鋼板を生産する。
まず、カム機構を設けた金型で板材を引き伸ばす。カム機構は上部にカムスライダ、下部にカムドライバを設け、プレス機の上下力を左右の引張力に変換して板材を引き伸ばす。ポイントは、板材の引張長さ=カムのスライド量を決める金型の高さ(ダイハイト)と引き伸ばす板材を確実に把持する力だ。そのためダイハイトは厳密に管理する。また、板材をしっかりグリップするためには一定以上の把持力が必要だが、プレス機の上下力で把持するため、過大な把持力を設定するとプレス機の加圧能力を超えて機械が停止してしまう。
そこで板材を安定した品質で引き伸ばすためにランクフォード値(材料を引っ張った際の幅方向のひずみと板厚方向のひずみの比)を活用する。板材ごとに伸びやランクフォード値の特性に違いがあるため、いかに板厚を安定的に薄くするかが品質保証のポイントになる。そのためプレス成形解析技術を駆使してランクフォード値などを活用しながら板材の把持力と引張長さなどプレス加工全体で最適な加工力を導出する。
次に引き伸ばして差厚化した板材を所定の形状にプレス加工する。1 台のトランスファプレス機で差厚成形からトリミングまでできるため、通常のプレス加工と同じような速度とコストで生産できる。それがげんにくんの大きな特徴だ。
薄くしても硬くなる
「一般的に板厚が薄くなれば強度は下がるのではないかと懸念されますが、げんにくんでは『薄くなって硬くなる』、つまり引き伸ばした材料に加工硬化が生じるため強度は上がります」(松本正春理事・先行開発部)
加工硬化とは、変形によって金属の結晶構造に転位(結晶格子のずれや乱れ)が増えたり絡み合ったりすることで硬度が上がることだ。げんにくんで板材を引き伸ばした際、加工硬化が生じて板厚減少率よりも引張強さの割合のほうが大きくなる。つまり、板材を薄くしても強度は上がるというわけだ。同社が440MPaの鋼板で実験した結果、板厚を10%薄くしても引張強さは19%向上した。これは見方を変えれば、従来と同じ強度を前提とした場合、引き伸ばすことで軽量化が可能になるということになる。
ただ、引き伸ばした後のプレス工程で加工硬化した箇所が割れたりしないようにプレス成形解析技術で事前に検証することも重要だ。また、剛性(断面二次モーメント)は板厚に依存するため、同じ剛性を確保するにはリブの配置や断面形状の見直しなど製品形状を最適にする必要があると言う。
同社は、げんにくんで590MPa 高張力鋼板でトーションビーム(FF 車のリアサスペンション部品)の中央部材を試作した(写真2)。板厚を10%(5.5 → 4.9mm)、重量を7%、材料の使用量を9%低減した。また、同試作品では剛性を担保するためにねじり方向の剛性を調整する部材(ロールバー)を少し太くし、それにより機能等価(剛性等価)で重量6%減の軽量化効果を達成できた。
写真2 げんにくんで試作したトーションビームの中央部材(手前)と従来の同部材(奥)
現在、げんにくんは量産工程へ導入するための開発を進めている。そのため金型に関する課題やワークの搬送、インライン検査の実装などいくつかの技術テーマに取り組んでいる。