まえかわ よしのり:1971 年同志社大学大学院工学研究科、1996 年同大学院神学研究科修了。工学博士、神学修士。大阪府立産業技術総合研究所(現・大阪産業技術研究所)研究員、大阪産業大学デザイン工学部情報システム学科教授などを経て、2015 年よりモノづくり企業を支援するアドバイザーとして活躍。元型技術協会会長、名誉会員。
自動車産業での大変革(その一つがEV 化)は現在も進行中だが、本連載は今回で終了となる。そこで現時点でのEV 化の現状を総括し、自動車の将来動向予測を示すとともに、プレス部品メーカーへの提言を行いたい。
プレス部品メーカーの関心事は、これまで稼がせてくれ、投資をしてきたプレス部品製造で今後も生きていけるのかどうかということだろう。最大の顧客は自動車部品だが、その自動車で大変革が起こっている。なかでも、プレス部品メーカーに直接影響してくるのがEV 化である。
2020 年頃から地球温暖化対策としての「脱炭素」を名目に、2035 年頃を目標にして「新車販売をすべてEV にする、内燃機関搭載車の販売を禁止する」などの動きが出てきた。部品ニーズが大きく変わるので、プレス部品メーカーではその対策に迫られていた。
悩ましいのは、そのEV 化の動きが2024 年頃から減速・停滞しているとの状況が、EV 化を牽引してきた自動車メーカー側から出てきたことである。一方、世界の新車販売統計では、EV が20%を超えるところまできてまだ上昇傾向にあると報告されている。プレス部品メーカーは、自動車メーカーの状況とEV 販売状況のどちらを考慮して対策してよいのか苦慮している。
本連載も、そのことへの見解を求められていると理解して始めた。いろいろなレポートやメディア報告をチェックすると無難な見解が多く、「脱炭素」の流れは変わらず、今停滞しているEV 化は長期的には成長に向かうとの予測が多い。
最終回にあたりEV 化の総括から始めるが、無難な結論は避けて個人的見解と断ったうえで明確な結論を提起していきたい。
「EV」と「EV化」の確認
本連載では、表1 に示すようにEV を定義してきた。
EV はElectric Vehicle の略で、日本語では「電気自動車」になる。一方、EV 化の対象としては、表1 のBEV、FCEV、PHEV とする場合がある。これらは「電動車」と呼ばれ、「xEV」としてEV と区別されたりする。この場合、電気自動車はBEV のみを指す。本連載では、xEV の表現は用いず、基本的にEV = BEV、EV 化=「電動車」化とした。
70年代、90年代に電気自動車は注目された
自動車と言えばガソリン車(内燃機関搭載車)の時代が続く中、1970 年代と1990 年代の二度、電気自動車は注目された。
1970年代には、1973年と1979年のオイルショックにより、石油への過度な依存の危機感から電気自動車が再評価されたが、バッテリー技術の未成熟で1980 年代には関心が低下した。
1990 年代初頭には、米国カリフォルニア州の大気汚染対策でZEV 規制(自動車販売台数の一定比率をゼロ・エミッション車にするよう義務付ける)が導入された。これに対し、1996 年頃から各社がBEV のリース販売を開始したが、コスト高やバッテリー性能の限界から、2000 年代初頭に撤退を余儀なくされた。
上記二度の電気自動車の撤退は、バッテリー性能が大きな理由であったことを押さえておきたい。
三度目の注目は2010年代から
1997 年の京都議定書で、地球温暖化対策(CO2削減)の国際的目標が設定され、自動車からのCO2 排出削減が世界的な課題となってきた。それを受けて、2009 年7 月にリチウムイオン電池を採用した世界初の量産電気自動車「i︲MiEV」が三菱自動車工業から発売された。続いて2010 年12 月に日産自動車が「リーフ」を発売し、リチウムイオン電池の自動車への本格的普及を推進した。
日本の自動車メーカーによって本格的なBEVがスタートしたのだが、i︲MiEV はルノー・日産・三菱アライアンスの方針で2020 年に生産終了となった。日本ではBEV が伸展しなかったが、BEV 生産の潜在能力を有していることは押さえておきたい。
一方、2003 年創業のテスラが、2008 年に高速道路走行可能な電気自動車として、スポーツカー「ロードスター」を発売し、注目を集めた。経営者のイーロン・マスクの発想で、BEV は価格が高くなるから贅沢品の高級スポーツカーから販売を開始し、2012 年に高級セダンのモデルS を発売、2017 年に初の量産型エントリーモデルのモデル3 を順次発売した。この戦略は成功して、ほかの自動車メーカーにEV 市場の可能性を示唆するものとなり、BEV普及を牽引した。
2018 年頃から、日本ではマスメディアによってEV 化が「世界の潮流」であるとして盛んに取り上げられた。マスメディアは日本の自動車産業(特にトヨタ自動車)の取組みが遅れており、このままでは衰退あるのみと指摘してきた。
BEV が世界で本格的に普及するのは2020 年代に入ってからである(図1)。
図1 世界のEV(BEV + PHEV)販売台数の推移
引用元:
IEA「Global EV Outlook 2025」
2020〜23年の「EV化の本質」と取組みでの過ち
2015 年に、2020 年以降の地球温暖化対策に関する国際的な枠組みの「パリ協定」が採択された。それが原動力となり、「EV 化」という表現での電動車の導入が、2020 年以降から本格的に始まった。
①「 EV 化の本質」は、電動車の導入推進に加え、内燃機関搭載車の新車販売禁止を含んでいた。EV 化の目的はCO2 排出量削減なのに、手段がBEV シフト一辺倒であり、内燃機関搭載車の全面排除はおかしい。そこには多分に欧米や中国による「日本車(特にHEV)つぶし」戦略が入っていた。
この戦略で欧米が誤ったのは、中国の急速な追い上げを予測できず、日本のHEV つぶしの前に自国のBEV が中国製BEV によってつぶされたことである。
② コロナ禍で落ち込んだ経済の立直しにEV 化を利用しようと、国策としてEV の生産・販売に優遇措置や規制を行ってきたが、車のユーザーニーズから離れる結果となった。補助金や優遇措置がないと売れないような車はおかしい。
国策は、国のトップが変わると方向が逆転することがある。米国のトランプ大統領の脱炭素やEV 化からの撤退宣言、ドイツでは緑の党の後退によってEV 化の見直しが行われていることなど、政治動向にも留意したい。
③ 2020 年7 月1 日、テスラがトヨタ自動車を株式時価総額で抜いて、世界一の自動車メーカーになったと騒がれ、これをきっかけにBEV への関心と期待が高まった。テスラは電気自動車として評価されたのではなく、OTA(OverThe Air)機能などソフトウェアを軸とした新しいビジネスモデルの先行が評価されたのだが、結果として、世界はBEV が未来の自動車と信じてしまった。責任は、そのようにテスラを称賛したマスメディアにある。
※ SDV(Software Defined Vehicle)
④ BEV を「電気自動車」と呼ぶが、本質は「バッテリー自動車」であり、電気によってモータを駆動することに問題はなく、その電気をバッテリーで供給することに課題が多い。「電気自動車」というとクリーンでモダンなイメージをもつ人がいて誤解を生んだ。バッテリーには劣化、発火、高価の3 つの「か」の課題がある。全固体電池の開発によってその課題は解決されるとの見方が強いが、重いという欠点もあり、車の動力源としては向いていないと筆者は評価している。
リチウムイオン電池は1991 年にソニーが世界で始めて実用化したが、今ではすっかり中国にお株を奪われた。
2024年頃からEV化の減速・停滞感が始まった
EV 化は「世界の潮流」と言われ、2020 年から本格的に普及を始めたBEV だが、2024 年に入りEV 化を牽引してきた自動車メーカーから停滞感が出てきてBEV は後退し始めた。以下に各国の状況を示す。
1.ドイツの状況
例えば、メルセデス・ベンツは2024 年2 月、2030 年までに新車販売のすべてをBEV にするという2021 年に掲げた目標をわずか3 年で撤回した。2030 年以降も当面は内燃機関搭載車(ガソリン車やディーゼル車)の販売を継続する方針。
2023 ~ 2024 年頃、ドイツ政府の要請もあり、VW を含むドイツメーカーは、EV 専業への転換を急ぐのではなく、内燃機関搭載車も並行して販売する「現実路線」への回帰を図っている。
2.米国の状況
例えばフォードは2024 年8 月、2027 年に投入予定だった新型EV の開発中止を明らかにし、EV 関連の設備投資額計画も大幅に縮小した。2025 年12 月には、EV 事業の抜本的な見直しで、約195 億ドルの巨額の評価損を計上。これらの決定は、EV 部門での巨額の赤字と、予想を下回るEV 市場の成長に対応するための経営判断である。
米国では、トランプ政権による環境規制の見直しなどの市場環境変化に応じ、GM やフォードが電動化への投資ペースを調整している。
3.中国の状況
中国のEV の「後退」や販売の伸びの鈍化は、2023 年後半から2024 年初頭にかけて、深刻な価格競争や業界再編の動きとして表面化した。2023年の新エネルギー車(NEV)の世界販売台数は増加したものの、前年比成長率は大幅に下落した。2024 年に入ると、景気低迷や需要の伸び悩みの中でメーカー間の競争がさらに激化し、大手メーカーのBYD なども大幅な値下げを実施。破壊的な競争が業界全体の収益を圧迫している。需要を越える過剰生産が指摘されており、多くのEV 新興企業が黒字化できず淘汰される段階に入った。
図2 に、BEV 販売量のみについて中国、米国、ドイツの2021 ~ 2025 年の推移を示す。2025 年の値は11 月末時点での予想値である。
図2 中国、米国、ドイツでのBEV 販売台数推移(2021 〜2025 年)
中国、米国、ドイツとも、2025 年のBEV 販売実績は前年より伸びている。2023 年頃から、EVについて停滞・減速感が出てきたと言われていたのに、なぜ各国でのBEV 販売が2025 年に伸びたのか?これについては、本連載第5 回(2026年2 月号)で述べているが、2025 年の中国ではBEV の過剰生産と価格低下(叩き売り)が起こっており、中国国内や海外で叩き売りされたことによってBEV の販売台数が伸びたと推測している。しかし、BEV メーカーにとって叩き売りは利益を落とし、中国製BEV が多く売れたことが中国メーカーの増益につながってはいない。