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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2026.01.06

第16回 ウルトラハイテンの冷間プレス成形でユニークな新工法―マルナカ

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 金属部品メーカーのマルナカ(群馬県伊勢崎市)は、カーエアコンやステアリング、シャーシなどの自動車部品、ディスク・スチールやチェアなどの事務機器部品、発電機のフレームやオーブンレンジなどの家庭用部品の製造で金型づくりから機械加工、溶接、塗装まで手がける。

 一般的に自動車部品は二酸化炭素(CO2)排出の抑制や省エネを目的として軽量化が進められ、そのため複数部品の統合化・ユニット化や材料転換などが図られている。特に材料転換では高張力鋼板(ハイテン鋼板、引張強さ490MPa ~)や超高張力鋼板(ウルトラハイテン鋼板、引張強さ980MPa ~)の採用が広がっている。それは、1970 年代のオイルショックに始まり、1990 年代の衝突安全、2000 年代のカーボンニュートラルなど社会情勢が自動車骨格構造部材である鋼板の軽量化需要を高めたからだ。

ホットプレスに代わる新工法

 従来、ハイテン鋼板やウルトラハイテン鋼板は熱間プレス(ホットプレス)で成形してきた。ガス炉などで材料を約900℃に加熱・軟化させてから油圧プレスでプレス成形する。そして成形中の材料を下死点で保持しながら急冷却して硬化させる。

 ホットプレスは材料を加熱で軟化させるため複雑で大型の形状を成形できる。一方、ホットプレスは加熱工程でCO2 を排出する。そのため、カーボンニュートラルや脱炭素化社会が標ぼうされる今、ホットプレスに代わる成形法として冷間プレスが注目されている。

「ただ、ウルトラハイテン鋼板のホットプレス成形は後工程で穴あけやトリミングなどレーザ加工が必要になり、手間と時間がかかります」(深町充執行役員兼総務部長)

 また、ウルトラハイテン鋼板の冷間プレス成形は、スプリングバック対策や成形性の低さ、金型への負担などの課題が残る。

「そこで当社が考案したのが冷間プレス成形と焼入れ加工を組み合わせた新工法です」

 2021 年、同社は冷間プレス成形後に浸炭窒化焼入れすることで引張強さをウルトラハイテン並みに向上させる工法を開発した(図1)。
図1 ウルトラハイテンの冷間プレス成形での新工法(上は従来工法のホットプレス)(画像提供:マルナカ)

図1 ウルトラハイテンの冷間プレス成形での新工法(上は従来工法のホットプレス)(画像提供:マルナカ)

 従来のホットプレスは図1 の上のように加熱工程とプレス成形・急冷工程、レーザ加工などの後工程があるため1 分間の製造数は1 ~ 3 個にとどまる。一方、新工法では冷間プレスで穴あけやトリミングなどの成形もしてから700 ~ 800℃で浸炭窒化焼入れするため、1 分間の製造数が35 ~ 50 個と生産性をホットプレスの十数倍に引き上げられる。また、生産性の向上によるコストメリットのほかにホットプレスでの加熱工程の電力を大幅に削減し、CO2 排出の抑制にもつなげられる。

 また、注目したいのが浸炭窒化焼入れの材料の引張強さだ。表1 のように引張強さ440 ~ 780MPaのハイテン鋼板が浸炭窒化焼入れ後にはウルトラハイテン鋼板並みの引張強さに向上できている。さらにSPHC270(引張強さ270MPa)のような普通鋼板もハイテン鋼板並みの引張強さに向上できている。一般的に浸炭窒化焼入れの目的は、鋼の表面に炭素と窒素を同時に浸透・拡散させて硬化させ、耐摩耗性を向上させることであり、摺動部や回転部の部品づくりに用いられる。
表1 浸炭窒化焼入れ後の各材料の引張強さ

表1 浸炭窒化焼入れ後の各材料の引張強さ

「それを表面硬度だけでなく引張強さも向上させられるのではないかと着目して浸炭窒化焼入れに取り組んでみました」(深町執行役員)

 その狙いがもののみごとに的中し、冷間プレス成形で用いられるハイテン鋼板をウルトラハイテン鋼板並みの引張強さの製品に成形できたのだった。

引張強さだけでなく寸法精度も高い

 ウルトラハイテン鋼板の冷間プレス成形の新工法は、ウルトラハイテン鋼板と同等の引張強さにできるため自動車骨格構造部材への適用が可能になり、軽量化を図れるとともにコストメリットももたらせる。また、普通鋼板(SPH440 など)でもウルトラハイテン鋼板並みの引張強さにできることから、絞り成形など難成形な部品も製造できる。さらに1,200MPa 同等の部品を従来の1/3 ほどの荷重のプレス機械で成形でき、金型の長寿命化にもつなげられる。

 そうしたメリットに加え、部品単体および溶接した部品や溶接組立て後の自動車ボディまるごとなどを浸炭窒化焼入れすることで強度アップと大幅な軽量化を図れ、また、浸炭窒化焼入れ処理後の寸法精度も公差内(0.1mm 台)で仕上げられると言う(図2)。
図2 浸炭窒化焼入れ後のひずみ(寸法精度は公差内)

図2 浸炭窒化焼入れ後のひずみ(寸法精度は公差内)

 そうした技術力を活かして今後は、ステアリング、シート、ピラーなど自動車部品への展開を考えていく。さらには産業機械や重機械などへの用途も想定していきたいと言う。ウルトラハイテン鋼板の冷間プレス成形は実用化が拡大する傾向にあるが、スプリングバックなどの成形性や金型の耐久性などで課題が山積している。特に金型は、1.5GPa 級の硬い鋼板を成形するためかなりの荷重がかかり、耐久性や形状の安定性が問われることになる。かなり厳しい課題になろう。それに対してマルナカの新工法は、現状の課題解決へのおおいなるポテンシャルもあると言えよう。

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