機械設計 連載「セラミックス材料の基礎と活用の要点」
2026.02.17
第2回 セラミックス材料の構造
技術士事務所 ALEITA(アレイタ) 福井 剛史
ふくい つよし:代表、技術士(化学) 大学院修士課程修了後、2009 年三菱化学(株)(現:三菱ケミカル(株))に入社。その間、一貫してセラミックス分野にて3つの職務・部署(事業開発、製造、基礎研究)に従事。順に、事業開発(国内外企業との繊維製品開発、委託生産、事業化、ほか)、製造(工場や製造現場での新たな仕組みづくりとその運営、教育、製造プロセスおよび機械設備の改善、リスクアセスメント、ほか)、基礎研究(大学や企業と連携した水素製造関連素材の研究、ほか)など。2025 年に技術士事務所ALEITA(アレイタ)を設立。
構造について前回の要点と今回の構成
セラミックス材料の特性は「構造」と深く結びついている。前回はこの構造を「階層的に」理解することで、セラミックス材料の多様な特性や広い制御幅を全体として関連づけて把握でき、実務にも役立たせられると述べた。ここで「階層的に」とは、構造を機械構造、微構造、結晶構造、化学構造と対象を「サイズ」ごとに順に捉えていくことである。
今回は機械分野で材料の選定・開発などにかかわる技術者の業務対象として、まず機械構造を取り上げ、続いて化学構造、結晶構造、微構造の順にサブ構造を述べる。
機械構造(機械要素・素形材、など)
機械分野で材料の選定・開発などにかかわる技術者にとって、機械構造の設計前提である「材料」自体は、通常は設計対象ではなく「選定」の対象とされていることが多い。まずはこの選定の単純化した例を述べ、次の化学構造以降への課題を述べる。
図1 に、異なる3 種の材料でつくられた自転車フレームのイメージ図を示す。左から鋼製[鉄と炭素の合金。多くはクロム(Cr)やモリブデン(Mo)を添加する]、アルミニウム製、カーボン製
*1 とする。この3 種類の材料には複数の特性に違いがある。違いとして弾性率(主に縦弾性係数)、耐食性、重さ、価格、などがある。以下、弾性率を考慮した場合の選定を単純化して考える。
*1 :炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のことであり、炭素繊維とプラスチックから構成される複合材料である。特に炭素繊維は「炭素材料」に分類されることが多いが、セラミックスに分類されることもある。
無機化学 前田史郎 国立大学法人 福井大学 2013 年 p8(オンライン資料)
http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/phychem/maeda/kougi/IC/2013/Ceramics.pdf
フレーム(自作),自転車(写真ACより) 図1 自転車フレーム(左:鋼製、中央:アルミニウム製、右:カーボン製)
まず鋼製品は材料の弾性率(材料自体の変形しづらさ)が大きいため、小さい断面積でも(細くても)高い剛性(形状も加味した変形のしづらさ)を確保できる。そのため、外観をスタイリッシュに設計・製造できる。次にアルミニウム製品は軽量であるものの弾性率が鋼より小さく、同程度の剛性を確保するためにはフレームを太く設計する必要がある。これは材料由来の強度不足を設計によって補う典型的な事例でもある。最後にカーボン製品は弾性率が高くかつ軽い材料であるため、軽量かつスタイリッシュなフレームを形づくることができる。
特段大きな違和感はないはずである。しかし、このような単純な選定でも設計においては目的とする特性以外の違い(リスク)も加味する必要がある。上記ではカーボンが高価であることに加えて脆性材料であること、鋼はアルミニウムよりもさびやすいこと、などである。これらを加味するために材料特性を網羅的に比較することは有効である。ただ、技術の発展とともに「材料」も進化し、その特徴(相対値)が変化したり、従来は異なる材料間の特性値が重なったり、大小関係が逆転したりすることもある。このような状況では金属、プラスチック、セラミックスという区別をサブ構造で整理することも有効である。先の進化にサブ構造の変化が関係することが多いためである。以下に化学構造から順に関連づけて述べる。
化学構造(原子と化学結合)
化学の基本最小単位は「原子」である。まずこの原子の構造を説明し、次に原子の構造から化学結合のイメージをつかむために「閉殻」と「電気陰性度」を順に説明する。
原子は原子核と電子からなる。原子核に近いところから遠いところへと電子は層状に存在している。電子のおのおのの層は殻(shell)と呼ばれる。殻はタマネギやマトリョーシカのような「不連続な層」をイメージしてほしい(図2)。加えて、殻にはあらかじめ「決められた数」の電子の「席」が用意されていることもポイントである。つまり、ある殻には決められた数の電子しか入ることができない。この席が「すべて埋められた状態」のことを「閉殻」と呼ぶ。閉殻構造を持つ原子の例として周期表の右端にある希ガスがあり、その反応性は著しく低い(図2の周期表の18族元素)。「とても安定」である。実際、現場で希ガスの一種であるアルゴン(Ar)は、溶接時に金属と空気中の酸素と反応しないためシールドガスとして用いられていることを思い出してもらえるとわかりやすい。
図2 周期表と層構造イメージ(右上:マトリョーシカ 右下:玉ねぎ)
一方、閉殻でない原子は、より安定な状態(閉殻)を目指して電子を「放出する」あるいは「引き寄せる」傾向を示す。この傾向の度合いを表すのが「電気陰性度」である。例えば、塩素(Cl)の電子は閉殻にあと1 個電子が足りず、電子を1 つ引き寄せることで閉殻状態(Arの電子配置)になることができるため、ほかの原子から電子を強く引き寄せようとする。一方、ナトリウム(Na)は外殻に1 個だけ電子がある状態であり、同じ理由で電子を「放出しやすい」(Neの電子配置)。このような「放出したい」、「引き寄せたい」の強さの違いが電気陰性度であり、周期表上では右上ほど電気陰性度が高くなる傾向がある*2。
*2 :(周期表下側の元素)原子番号が大きく同じ17 族(例示したCl と同じ列)であっても、最も外にある電子は原子核より遠くにあるため原子核は電子を引き付けにくい。このためほかの元素内の電子を引き寄せる力も弱い。(遷移金属)3族から12族付近の元素。同じ行内(周期)ではほとんど電気陰性度が変化しない。ただし、同じ周期の遷移金属を1元素として周期表全体で見ると、「右上ほど電気陰性度が高くなる」傾向は維持している。
化学結合の種類はこの電気陰性度の差が大きく影響している。
まずイオン結合は異なる原子間で電気陰性度に差が大きい場合であり、一方が電子を奪い、他方が電子を失うことで形成される結合である。天然セラミックスとも言える鉱物は酸素(O)、硫黄(S)、フッ素(F)など電気陰性度の大きい元素とナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などの電気陰性度の小さい元素あるいは中程度の典型元素あるいは遷移元素から構成されている。陶器に用いられる原料である長石(ちょうせき)の代表的な組成はNaAlSi3O8(曹長石)である。
次に共有結合は電気陰性度の差が小さい組合せの場合であり、電子が両者の間で共有される。電気陰性度の差がやや大きい場合もあり非対称な結合もある。いずれにしても共有結合では2 つの元素の間に電子の波の重なりを持つ。この重なりは負の電荷(電子)であるため、重なりが複数ある場合にはお互いに離れようとする。このため共有結合では結合に方向性(角度)ができやすい。
最後に金属結合は、電気陰性度が高くなく、最も外側の殻付近の電子が少ない*3元素である。このような元素で構成される固体は、密集して電子の不足分を固体全体として補うことで安定化している。しばしば「電子の海に多数の原子核が密に浮かぶような状態」と呼ばれる。
*3 :結合(電子の波の重ね合わせ)には元素同士を結びつける作用を持つ結合とその逆の結合があり、最も外側に近い電子が多数あると後者の結合も増えるため、このような元素では密に詰まることで安定化しづらい。
多くの場合、セラミックスはイオン結合/共有結合で構成されており、単純な結合力は金属結合よりも強い。
結晶構造
まず結晶の定義を述べ、続いて化学構造との関係を述べる。
結晶とは「結晶=格子+基底*4」と書ける。格子は元素の違いなど個性を持たない数学的な並び方であり、単位胞と呼ばれる基本の単位が繰り返し並んでいる。基底は単位胞の中の元素の連なり方である。
*4 :単位構造、基本構造、基底などいくつかの表現がある。英語ではbasis。
結晶の構造が異なると同じ元素でも特性が異なり、結晶の構造が同じであると元素が異なっても一定程度、同じ特性を示すことが多い。前者の例として、炭素(C)にはダイヤモンドと黒鉛の違いがある。後者の例として、CaTiO3とBaTiO3は組成は異なるが同じペロブスカイトと呼ばれる結晶の構造であり、両者とも誘電体(前者は常誘電体、後者は強誘電体)である。
化学構造との関係として特に元素/分子の詰め方(基底)を以下に述べる。
まずイオン結晶において、陽イオンの周りの陰イオンの数「配位数」は結晶構造を決める大きな因子の一つである。前章で述べたとおり、電気陰性度の違いにより、ある原子は電子を引き込み(陰イオン)、別のある原子は電子を差し出して(陽イオン)、それぞれが閉殻構造を取っている。NaClであれば陽イオンNa+はNe、陰イオンCl-はAr の電子配置のイオンであり、Ar とNeの原子番号の違いからもわかるように、イオン半径はNa+<Cl-である。異なるサイズのイオンは同じサイズのイオンよりも充填しづらく、かつサイズ比によってその程度が異なる。つまり配位数が変わってくる(結晶の構造が変わってくる)。
そのほか、イオン結合はクーロン力で結びついているため、隣り合う元素だけではなく、遠方の元素にも作用する。このため、結晶は単分子よりも安定化する。
次に共有結晶は共有結合からなり、前章で述べた通り結合に角度を持っていることも多い。共有結晶はこのように結合角を持つ分子を詰めていくように結晶を形成するため、密度は低くなることも多い。例えば二酸化ケイ素(SiO2)は正四面体構造の単位を並べたような結晶構造で充填率34%と低い。
最後に金属結晶では元素は前章で述べたように密集して並んで結晶をつくっている*5。このため金属の密度は高くなる傾向にある。多くの金属は最密充填と呼ばれる詰め方であり、充填率は74%あるいはそれ以外でも68%程度の値となっている。
*5 :化学では、鉛筆12 本を1 ダースと呼ぶように、炭素12 を12 g集めたときの原子数(6.0×10^23 個)を1 mol(アボガドロ数)と決めている。アボガドロ数程度の元素が密集して結晶をつくったときはボンド(結合)ではなくバンド(帯)が熱や電気の伝導などで重要となる。
微構造
微構造とは「微構造=結晶+格子欠陥」と表現できる。結晶については前章、格子欠陥は前回に次元(0、1、2、3次元)で整理できることを述べた。ここではまず「相」を定義し、次に微構造の捉え方について述べる。
相とは、その内部は同一であり、ほかと明確に区別される部分で囲まれている部分、のことである。相内では熱力学的な安定度は同じであり、結晶であれば単結晶と同じである。
ここで微構造=結晶+粒界+気孔と書き換えてみる(図3)。粒界は2次元格子欠陥、気孔は3次元格子欠陥である。このとき結晶は均一な相とする。
まず結晶部分について、均一と仮定した場合においてもその大きさ、形、分布が異なると特性は変わる。大きな結晶内には気孔が残ることもあり、応力集中の場になり得る。ほか、同じ結晶の体積でも、細長い結晶は球状の結晶と比較して亀裂進展時に迂回のためのエネルギーを吸収できる場合もあり、亀裂進展が抑制されることもある。
次に粒界は結晶内部よりも乱れが生じ不安定であるため、安定化のために不純物を引き寄せたり(偏析)、亀裂進展時の経路になったりする。加えて結晶とはまったく別の相が粒界を形成することもあり、特に結晶を取り囲むなど新たな経路がつくられる場合などでは電気や熱の伝導に強く影響する。
最後に気孔は自身が破壊源となったり、熱や電気の有効面積を減少させたり、新たな表面の形成による吸着作用を発生させたりする。気孔は焼結の主要な品質パラメータの一つである。焼結は実際上、熱力学的に一定程度は気孔が残ることに加えて、平衡状態まで進めることの少ない速度論的なプロセスであることが多いためである。
上記のように、微構造は化学構造(前々章)や結晶構造(前章)を考えずに均一な相と仮定してもなお、材料の特性に影響を与えることを感じとってもらいたい。実務上はこの3 つの相(結晶、粒界、気孔)からなる「模様」を観察・把握することに加えて、3 つの相の構造を詳細に見ていくことで特性を把握する。詳細とは元素の種類や結合(化学構造)、結晶の構造や格子欠陥(特に0、1次)の種類・量・分布などである。
機械構造は、化学構造や結晶構造を総合化した微構造の特性の値を直接的に利用して設計し、製造される。特性は製造では一定程度、微構造が制御されているため追随して安定化する。逆に言えば特性がずれたとき、変えたいときは微構造以下、サブ構造を考えていくことになる。
次回は構造と特性の関係についてより詳しく解説する。