型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2026.02.06
第20回 「やってみよう」が未来を変える─ 茨城高専のキャリア教育最前線
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
茨城県のほぼ中央、太平洋に面したひたちなか市は、かつて港と鉄道を軸に発展した工業都市です。日立製作所をはじめとする重電・精密機器産業が地域経済を支え、戦後の高度経済成長期には「モノづくりの街」として全国に名を馳せました。近年では、半導体やロボット技術など先端分野への転換も進み、地域産業は新たな局面を迎えています。
そんな技術と産業の集積地に位置する茨城工業高等専門学校(茨城高専)。ここでは、高度な専門知識をもった次世代の理工系人材を育てるだけでなく、地域社会とのつながりを大切に、未来を見据えた教育が行われています。
社会とつながる学び 進路選択に迷うすべての若者へ
高校や高専、大学などで学びを深めた若者たちは、やがて社会へと羽ばたいていきます。では、彼らはどのようにして就職先を選んでいるのでしょうか。読者の皆さんも、かつて自分の「働く場所」を選ぶ際に、企業の事業内容や社風など、さまざまな指標をもとに決断されたのではないでしょうか。しかし、実際のところは入社前に企業の実態を十分に理解するのは難しく、入社後に「思っていたのと違った」と感じることも少なくありません。やりたいことと企業とのミスマッチに悩む若者は、今も昔も後を絶たないのです。
こうした課題に向き合い、卒業後も卒業生たちが社会で活き活きと活躍できるようにと、近年、茨城高専が力を入れているのが「キャリア教育」です。専門知識の習得にとどまらず、「自分は社会でどう活躍できるのか」、「どんな職業が自分に合っているのか」といった問いに向き合う時間が、日々の学びの中に組み込まれています。単なる進路指導ではなく、学生自身が社会との接点をもち、自分の未来を主体的に描くための教育が展開されています。
支援ゼロからのキャリアデザイン「みらいゲイザー」の挑戦
その象徴とも言えるのが、学生主体のキャリア支援団体「みらいゲイザー」の活動です(図1)。学生たちはキャリアイベントを自ら企画・運営し、理系の進路や職業の魅力を同世代や後輩たちに伝えています。例えば、地元企業との座談会では、職場のリアルな姿や求められるスキルを直接知る機会を得られるため、学生たちの進路選択のヒントとなっています(図2)。しかも、参加は就職活動を控えた高学年の学生だけでなく、1・2 年生も可能なため、早期からキャリアを意識するきっかけとなっています。
図 1 「みらいゲイザー」のメンバーたち(写真提供:茨城高専)
図2 中高生に向けた科学教室の様子(写真提供:茨城高専)
また、地域の中学校や高校と連携した科学教室やキャリア教室も開催(図3)。地元企業と協力しながら、技術職の魅力や理系の可能性を伝えています。参加した中高生からは「理系が社会のさまざまな場面で活躍していることを知った」、「文系・理系の枠にとらわれない社会があると感じた」といった声が寄せられ、教育の裾野を広げる効果も生まれているようです。
図3 企業座談会を運営する様子(写真提供:茨城高専)
「えっ、全部自分たちで?」。みらいゲイザーの活動を取材していて、私は思わずそう口にしてしまいました。イベントの企画から広報、企業との交渉に至るまで、彼女らはすべてを自分たちの手で動かしているのです。そして何より驚いたのは、活動にかかる費用までも、学生自身が調達しているという事実でした。
彼女らは地元企業を一社ずつ訪ね、自分たちの活動内容をていねいにプレゼン。その熱意に賛同した企業から、活動資金の支援を受けているのだそうです。学校の予算に頼ることなく社会に飛び出していく姿は、まるで若き起業家のよう。アントレプレナーシップという言葉が、これほどしっくりくる学生団体があるでしょうか。
ある学生はこう語っていました。「自分たちで資金を調達した経験が、自信につながったんです」。もちろん、すべてが順風満帆だったわけではありません。交渉がうまくいかなかったことも、予算が足りずに企画を見直したこともあったそうです。でも、そうした失敗も含めて、彼女らにとっては大切な学び。実践の中で得た経験は、教室では決して得られない「生きたスキル」となって、彼らの中に根を張っているのです。
理系の枠を超えて広がるキャリアの可能性
茨城高専のキャリア教育には、「やりたいなら、やってみよう」という挑戦を後押しする空気があります。その挑戦を通して、学生がたくましく、しなやかに生き抜く力を培っています。教員が一方的に指導するのではなく、学生の主体性を尊重するスタイル。それがこの学校の大きな特徴です。
学生が「やってみたい」と思ったことは、できる限り任せる。うまくいかないことも含めて経験させることで、振り返りと学びの機会を生み出す─その姿勢が、学生たちの自立心と挑戦意欲を静かに、しかし確実に育んでいると感じます。
ある学生はこう語ります。「理系に進んだら研究職しかないと思っていた。でも、ほかの技術職や教育分野、さらには起業という道もあると知って、将来の選択肢が一気に広がったんです」
専門性を活かしながら、社会のさまざまな分野で活躍できる可能性に気づいた瞬間、学生たちの目は輝きを増します。その輝きはただの知識ではなく、実践の中で得た「気づき」から生まれたもの。自分の未来を自分の手で描いていく力が、ここにはあります。理想と現実のギャップに悩む若者が少なくない今だからこそ、こうした実践的な学びが必要なのかもしれません。高専という選択肢が、これからの時代を生きる若者たちにとって、もっと身近で、もっと魅力的なものになることを願ってやみません。