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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2026.01.30

第17回 AE センサを活用したアモルファスモータコア打抜き加工の異常検知システム ─長野県工業技術総合センター、ナカムラマジック

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 長野県工業技術総合センターとプレス成形メーカーのナカムラマジック(長野県箕輪町)は、アモルファス合金の打抜き加工における2 枚打ちの異常をAE センサで検知するシステムを共同開発した。

 アモルファス合金は次代のモータコア材料として期待される。特に、鉄を主成分とするFe 基アモルファス合金は、電磁鋼板と比べて鉄損が1/5~ 1/10 と小さく、モータのエネルギー効率を大幅に向上させ、消費電力の削減につなげられる。ただ、アモルファス合金は、従来のモータコア材料である電磁鋼板に比べて硬度と脆性が高く、プレスで打抜き加工する際の板厚が数十μm と薄いため、せん断加工が難しい。

「一般的にプレス成形のかす上がり対策にかす上がりセンサを使いますが、それを代替するものではなく、相互補完するようなものとしてAE センサでアモルファス合金箔の打抜き加工時の異常を検知するシステムを考えました」(長野県工業技術総合センター 精密・電子・航空技術部門加工部の長洲慶典氏)

 そこでAE センサ、AE 信号処理装置、AE データ保存・分析ソフトウェア、積層信号灯で構成する異常検知システムを独自に開発した(写真1)。同システムは、プレス角度190 ~ 200°の範囲で1ショットごとの打抜き加工のAE 信号をサンプリング周波数(アナログ信号をデジタルデータに変換する際の単位時間当たりのサンプル採取の頻度)2kHz でリアルタイムにPC に取り込み、演算処理したうえでしきい値を超えたときに積層信号灯の赤色ランプを点灯させて異常を知らせる。
写真1  AE センサによるアモルファスモータコア加工の異常検知システム

写真1  AE センサによるアモルファスモータコア加工の異常検知システム

 なお、打抜き加工の金型ではパンチとダイの適正クリアランスを板厚の10%以下とするため、アモルファス合金箔ではクリアランスを数μm以下とシビアに設定しなければならない。さらに硬いアモルファス合金を打ち抜く金型には高い剛性が求められる。そのため金型に穴や溝を形成してAE センサを組み込むと金型の剛性が低下してしまい、打抜き加工が不安定になる。そのためAE センサは金型の外面に取りつけた。

信号の処理と演算方法を独自に工夫

「開発したシステムの主な特徴は、AE 信号の波形の特徴量をうまく抽出するために波形の重心を活用したことと、AE 信号を市販のIC で信号処理したことです」(長洲氏)

 同システムの構成は図1 のようで、金型(下型)側面のAE センサで取得した信号をAE 信号処理装置で増幅(1 ~ 100 倍)・エンベロープ処理(AE信号の波形の山部だけをトレースして信号を簡素化)し、それをPC に取り込みながら1 ショットごとのAE エンベロープ信号の重心(波形の均衡点)を算出して正常・異常を判定する。
図1 開発したシステムの構成と異常検知の演算状況

図1 開発したシステムの構成と異常検知の演算状況

 波形重心にはX 方向(Gx)とY 方向(Gy)があるが、打抜き加工の金型ではGx の変化がほとんどないためGy だけを注視した。具体的には、ショットごとのGy を算出・集計してAE 波形の特徴量を抽出し、特徴量をもとにGy のしきい値を求めた。そしてモータコアのアモルファス合金箔をプレス加工する実証実験の初期(15 万ショット以降)にモータコアの打抜き型にAE センサを設置してアモルファス合金箔を打抜き加工すると、17 万ショット付近でかす上がりによる2 枚打ちの加工異常が発生した。その異常時のGy 値を確認してみるとプレス角度(プレス機の角度信号からスライドが最も高い位置にある上死点を0°、最も低い位置の下死点を180°、パンチを引き抜く動作を190 ~ 200 °と設定) が190 ~ 200 °の範囲で大きくなっており、その値は2.0 だった。また、異常の発生前と発生後(抜きかす除去後)のショットごとのGy 値は1.0 だったことから、異常を認知するGy のしきい値を1.8 とし、プレス角度190 ~ 200°の範囲でGy 値を計測した(図2)。かす上がり防止のため、抜きかすを除去した後に抜きかす除去用エアーの出力のタイミングを調整した。その結果、加工終了時までにGy 値は1.8を超えることなく、実際のプレス加工でも2 枚打ちの加工異常は発生しなかった。
図2 プレス角度190 ~ 200°での加工ショット数とGy(波形重心)の推移

図2 プレス角度190 ~ 200°での加工ショット数とGy(波形重心)の推移

 同システムでは、AE 信号のエンベロープ処理に安価なRMS︲DC 変換IC を用いた。市販のディスクリミネータ(AE 信号をパルス信号に変換する装置)に比べて処理結果がほとんど同じなため、高価なディスクリミネータに比べてAE 信号エンベロープ処理のコストパフォーマンスは著しく上がった。

「アモルファス合金は非常に硬い材質であるため、モータコアとして打ち抜く場合に工程を分けて複数台のプレス機で加工するケースもあります。そのため安価なシステムであれば各工程への適用もしやすくなると思います」(長洲氏)

 同システムではAE 信号の増幅もAE 信号処理装置で処理するため、信号増幅器のプリアンプを不要にでき、ディスクリミネータなど高価な機器類を用いずリーズナブルなセンシングシステムとなっている。

                   ☆            ☆

 AE センサを活用したモータコア用アモルファス合金箔の打抜き加工異常検知システムでは、今後の実用化に向けてAE の波形から特徴量を抽出するソフトウェアの改良を検討している。今回の開発では波形特徴量のGy のしきい値を1.8 と設定したが、その値は検知の対象となる金型によって異なるため、対象ごとに効率よくしきい値を設定できるようソフトウェアの改良が必要とのことだ。

 また、既述のように同システムは、既存のかす上がりセンサの代替ではなく相互補完的な機能と位置づけている。さらにAE センサは材料の破壊や摩擦摩耗、衝突、流体雑音などさまざまな現象の弾性波(超音波)を検出するという特徴を活かせば、2 枚打ち以外のプレス加工の異常検知に活用できると言う。期待したいシステムだ。

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