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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2024.11.26

第3回 常に高付加価値な精密板鍛造加工を追求する―サイベックコーポレーション

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 精密板鍛造加工メーカーのサイベックコーポレーション(長野県塩尻市)は、順送工程に冷間鍛造を組み込んだ独自工法「冷間鍛造順送工法:CFP 工法(Cold Forging Progressive)」を駆使して複雑かつ精密な立体形状のプレス製品を量産する(写真1)。
写真1  独自工法のCFP 工法で加工された精密板鍛造品(写真提供:サイベックコーポレーション)

写真1  独自工法のCFP 工法で加工された精密板鍛造品(写真提供:サイベックコーポレーション)

 本来、順送工程に鍛造を組み込んだ工法は加工時に大きな負荷が掛かるため金型開発が難しい。その難解な工法の開発経緯について平林正貴代表取締役副社長は言う。

「MIM(金属射出成形)工法で製作していたドットインパクトプリンタのヘッドピンを鍛造加工に転換できないだろうかという要望がお客さまからあり、それにお応えしようとした結果、CFP 工法の開発に至りました」

 1985 年、ドットインパクトプリンタのヘッドピンのように板厚偏差を伴う立体形状品への量産需要が増えていた。ただ、そうした形状を順送で加工しようとすると金型への負荷が大きく難しい。それでも同社は顧客の需要に対応し、かつ付加価値の高い工法を築こうとあえて難題に挑戦しCFP 工法を開発した。

 MIM・焼結工法のみならずプレス加工と切削加工の組合せやすべて切削で加工している製品をCFP 工法に転換できれば、精度要求を維持したまま順送加工によるハイスピードな生産が可能になり、コストダウンへつながる(写真2)。製品によっては鍛造による2 部品の一体化や製品強度アップによる付加価値の提供も可能となる。これが同社の企業ドメインである、“高い付加価値の製品を提供して取引先に喜んでもらうことで価格以外の独自性をアピールできる”ことにつながっている。機能・性能はもとより高付加価値なモノづくりの技術としてCFP 工法には大きな意味があるということだ。
写真1  独自工法のCFP 工法で加工された精密板鍛造品(写真提供:サイベックコーポレーション)
写真2  自動車エンジン用可変バルブタイミング機 構部品。既存の切削加工品と同等の要求精 度(凸・凹径の公差レンジ30μm、同軸度 0.03)を順送プレスだけで加工し、コスト ダウンを実現(写真提供:サイベックコーポレーション)

写真2  自動車エンジン用可変バルブタイミング機 構部品。既存の切削加工品と同等の要求精 度(凸・凹径の公差レンジ30μm、同軸度 0.03)を順送プレスだけで加工し、コスト ダウンを実現(写真提供:サイベックコーポレーション)

CFP工法のポイント

 CFP工法を成立させるには、金型開発とプレス機が大きなポイントになる。

 CFP工法で複雑・精密な形状を加工するためには、金型の工程間のピッチ精度を確保しなければならない。順に加工されていく各工程でピッチの誤差が生じていると、狙い通りの加工ができず、製品の精度が確保できない。そのため、金型を超高精度で加工することが最も重要である。そのため、サイベックでは金型工場を地下に建設し、温度変化と振動を極限まで抑え込むことにより超精密金型の加工を可能としている。また、負荷の大きい鍛造工程をプレス機の中心に設定することでプレス機に生じる偏荷重の影響を小さくすることも考慮している。

 製品の量産に使用するプレス機は、偏荷重が大きくなってしまった場合でもボルスタとスライドの平行が崩れない超高剛性の専用プレス機をプレス機械メーカーと共同開発した。

設計ツールとしてのCAE 活用

 CFP工法では、歩留りの良い工程設計をするためCAEを駆使する(図3)。鍛造工程での材料の流れ方や広がり具合、変形の方向および板厚をCAEで解析する。ただし、実際の加工(製品)とシミュレーション結果を完全に一致させるような解析の追い込みはしない。あくまで工程設計の段階で設計者のアイデアや想定が外れていないかを確認するためのCAE活用、いわば設計ツールとしてうまく活用することを重視している。シミュレーションの完成度にこだわると解析に時間を要してしまい、製品開発自体が非効率に陥ってしまうからだ。大まかな塑性流動や変形の傾向が確認できれば、実際に金型を製作し試作を繰り返しながら最終の形状や寸法などを仕上げていく。
写真2  自動車エンジン用可変バルブタイミング機 構部品。既存の切削加工品と同等の要求精 度(凸・凹径の公差レンジ30μm、同軸度 0.03)を順送プレスだけで加工し、コスト ダウンを実現(写真提供:サイベックコーポレーション)
図3  CAE 解析事例。上は吸収部分の変形量の解析結果、下は実際のスケルトン形状(写真提供:サイベックコーポレーション)

図3  CAE 解析事例。上は吸収部分の変形量の解析結果、下は実際のスケルトン形状(写真提供:サイベックコーポレーション)

 たとえば、ギヤをCFP工法で加工する場合、実績のない材料や板厚での加工では、CAEを用いて顧客と形状(ギヤ歯先のだれなど)やスペックを確認する。また、鍛造工程でのプレス機の荷重を解析し、プレス機の選定・見積もりにも活用する。見積もりや初期検討の段階では、解析に不要なコストをかけないよう、製品の完成形(全体)を解析するのではなく、ギヤのだれ具合など解析したい要素(部分)を解析するなど、必要な情報を少ないコストで入手できるように工夫している。

「そのようにCAEを活用しながら工程設計し、それに基づいて金型を設計・製造して試作品をお客様に提示するため従来工法より時間を大きく短縮できます」(吉田善成・バリューテクノロジー研究所 マネージャー 主幹技師)

 CAEを活用する以前(約20 年前)のように試作金型で試作を繰り返していた時に比べ、CAEを活用した工程開発によって試作のリードタイムを大幅に短縮している。

歩留り向上のためハイブリッド加工の開発へ

 同社はCFP工法の次の展開として搬送ロボットの活用を考えている。順送加工では材料に製品をつなぐ部分・位置決めをする部分があり、歩留りが良くないという弱点がある。材料の板厚が厚くなるとトリミング量が増えてしまい、この弱点の影響が顕著となる。

 たとえば、ギヤは製品として厚さ方向の有効長が重要であるが、プレス加工で生じるだれにより板厚に対し確保できる有効長が短くなってしまう。そのため、必要な有効長に対し厚い材料から加工せざるを得ないが、だれを小さく加工することができれば、その分、材料を薄くできる。ところが、順送加工では製品をつないでいる部分のだれ改善に限界が生じてしまう。

 そこで、穴あけやボス成形など順送で加工した方が加工性の良い工程は順送で加工し、そこで材料から製品を切り離し、途中からロボットで搬送してギヤを仕上げるといった工程を同じプレス機で行うハイブリッド加工を考えている。そうするとギヤの全周を仕上げだれを小さくすることができ、材料を薄くすることが可能になる。また、製品をつなぐ部分も最低限でよくなるためさらに歩留りが向上する。

 ただ、通常ロボットの搬送速度は順送プレスのそれに比べて遅いため、順送の速度に追随できるロボットを考案できれば、それを組み入れたハイブリッドCFP工法のラインを構築できる。付加価値の高い工法の新たなる開発。企業ドメインの強化に向かって同社の挑戦はさらに続く。

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