工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」
2026.02.05
第8回 部門を危うくする失敗 その2 ─部門管理の視点から─
打田昌行 米国公認会計士/公認内部監査人
うちだ まさゆき:日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他
いま求められる失策学
企業や各部門の運用には、さまざまな失敗や失策が伴う。しかし、たとえ苦い失敗や失策でも、冷静になって見つめ直せば、そこには必ず豊富な学びがあるはずで、将来の成功につながる糧を見出すこともできる。苦い失敗は本当の学びを見出す絶好のチャンスでもある。失策から成功のヒントを前向きに学びとる逆算と逆転の発想、つまりエラーから学ぶ失策学のアプローチが求められる。
進まぬ価格転嫁
歴史的な円安水準はとどまるところを知らず、物価の高騰が私達の日常生活を脅かす。企業が原材料費などのコスト上昇分を速やかに取引価格に反映させ、価格転嫁を進めることで、物価に見合う賃上げを実現できなければ、日本経済の好循環は望めない。では、コスト上昇分をどれだけ価格に転嫁できているのか。
各業界の価格転嫁率に関する最近の調査によれば、製造業は「鉄鋼・非鉄・鉱業」が48.5%、「電気機械製造」40.6%、自動車や鉄道車両などの「輸送用機械・器具製造」39.3%などである。政府も後押しをしているが、価格転嫁の実現は依然道半ばにある。こうした中、その努力に水を浴びせかける事件が立て続けに発覚した。
経済の好循環を阻む悪しき商慣習
大量に製品やサービスを購入した顧客に対し、販売元は顧客が支払った代金の一部を販売割戻金と称して返金する商慣習がある。それには、取引高に応じて割戻の割合や金額を明文化し、互いに合意しておくのが通常である。にもかかわらず、取引に際して優越的な立場を利用し、下請事業者と割戻に関わる合意もせず、割戻相当と称して一方的に支払代金の減額をすれば、下請代金支払遅延等防止法(いわゆる下請法)に違反する。自動車業界大手の企業とその子会社で、その違反が相次いだ。
1. 事例1:N 社による下請法違反
大手自動車会社のN 社は、部品の購入に際して下請けの取引会社36 社に対する取引金額を、合意なく一方的に減額して支払っていた。公正取引委員会は、親事業者の優越的地位を利用した下請事業者に対する不当な取扱いで、下請代金の減額の禁止を定めた下請法に違反するとして今年3 月、同社に勧告を行った。約30 年間に及ぶ取引慣行で下請事業者が被った被害総額は約30 億円に及ぶ、同様の事件のなかで過去最高額である。
2. 事例2:T 社子会社による下請法違反
大手自動車会社T 社の子会社は、新たな発注見込みがないにもかかわらず、取引先に無償で、過去に使用した金型や検査器具約650 点を倉庫などに保管することを求めていた。取引を切られることを恐れた下請事業者50 社が損害を被った。公正取引委員会は、下請事業者に経済上の利益を提供することを不当に強いたものと認定、再発防止と費用の支払を命ずる勧告を今年7 月に行った。
失敗から逆算するための解説
本来、割戻金とその算定はあらかじめ契約で定める。そのため事例1 では、下請事業者はN 社から部品の売上代金を受領した後、それに基づき割戻金を算定して支払うのが順序である。しかし、親事業者が自社の原価低減のために、慣行として割戻金相当を一方的に下請代金から減額していたとなれば、明らかに下請法に抵触する。下請事業者にすれば、価格転嫁どころの話ではない。
他方、事例2 だが、下請事業者が次回の受注に備え、部品の製造に要した金型を保管しておくことはよくある。そのため、金型を無償で保管することが取引慣行として成立し、保管費用の支払いを求めた取引事例はこれまでにないという。しかし金型を保管しておけば、次回の取引時に、製造コストの低減になることは明白で、保管費用を請求することは、しごく当然である。金型の大きさによってはクレーンを用いて移動させるなど、保管に相応の設備やスペースが必要となることを考えれば、被害額は億単位に達するとの推測も納得がゆく。今回の勧告の効果で、どの下請事業者も取引継続への懸念なく、正当な費用を請求できるようになることを望みたい。
失敗から逆算して得られる教訓
こうした事態を部門管理の視点から見ると、会社で取引を決定する最終的なツメは、どこが担当しているのだろう、経営者自身か、総務・庶務か、または法務か。いずれの部門であるにせよ、価格高騰と人材不足が課題となる今、大手を含む取引先との間でうかつに契約を結び、余計なコストを負担する結果に陥ってはならない。関係する管理部門は、下請法で禁止される11 の行為の詳細をきっちり確認しておく必要がある(表1)。
表1 いまさら知らないでは済まされない下請法禁止行為