キャデナスの目指すデジタル連携
現在、設計~製造~保守のモノづくりにおいて、関連する情報が図面をスキャンするようなアナログ-デジタルではなく、ネイティブデジタル化され情報の管理、共有化、効率向上が叫ばれている。キーワードとしてPDM、PLMまたE-BOM、MBOM、S-BOMといったアルファベットを目にする。実現においては部門横断での運用が望ましいが、それぞれのシステムを連携させることとなり、カスタマイズや開発が発生し、実現のハードルが高いのも事実である。それぞれのシステムで利用する各種デジタルデータは、それぞれのフォーマットでそれぞれに必要な情報、属性を持っている。これらのデータや情報を1 カ所にまとめて連携管理しても1 つのマスターデータとしての集約には至っていない。同一情報であってもラベル名が異なるケースが一番わかりやすいだろう。当社の本社があるドイツでは、1 つのマスターデータを各プロセスが利用するというコンセプトが確実に動きだしている。
また、PLMやPDMでは、“製品A”を開発するプロセス上で情報をとりまとめて管理する。しかしその情報を再利用する、または標準化するといったことが道半ばである。理由の一つには、従来のデジタル情報検索は文字による「キーワード検索」が主であり、文字に表現されていない「こと」、「もの」を探し出すのは難易度が高い。これによりネイティブデジタル情報が[進行中のプロジェクト]、[問題を起こしたプロジェクト]、[過去に担当者が関係した記憶に頼るプロジェクト]など既知ではない場合、引き出せないこととなる。人間の記憶に頼るキーワード抽出に依存している。 キャデナスのデジタル連携は、文字によるキーワード検索では難しい「こと」、「もの」をどのように見える化しデジタル情報の再利用や標準化を促進するかに注力している。
「PARTsolutions」のコンセプト
キャデナスが開発販売する「PARTsolutions」は、事前学習などを利用しない20 種類以上の論理的な自社開発アルゴリズムを組み合わせた類似形状検索を主な機能としている。将来の製品の在り方は誰にも確定できないが、新しいコンセプトの設計などが発生した場合でも搭載された類似形状検索は即座に利用可能である。形状は、文字に表すことのできない設計の意図、解析の結果、試作の結果、金型設計・製造上の要件など重要な要素を含んでいる。これらの重要な「こと」、「もの」の再利用、標準化を促進することができる。
特徴および代表的な機能
類似形状の検索は図1 に示すさまざまな方法が利用可能で、AND検索も可能である。オス-メスの相手、部品やアセンブリの内部に隠れている穴を含めた穴数のフィルタリング絞り込み、部品の一部要素だけが一致しているものなどの検索も実現する。穴数の検索はアセンブリで内部に隠れているケースや金型部品、ダイプレートなど有効な局面が多々ある。
併せて、ほかのシステムとの連携により、仕向け地ごとの利用可否や調達価格情報、調達量情報などによる有効な判断を行う見える化が可能となる(図2)。
「こと」、「もの」の再利用、標準化には類似形状を引き出すことが重要であるが、併せて属性情報も重要である(図3)。連携の拡張性を利用し、それぞれの属性情報のどこに違いがあるのか、形状は類似でも材料が異なる、利用目的が異なる、CAEデータやCAMデータは存在するか、製造と連携した意匠変更はあったか、といった情報を見える化することが再利用選択には必要である。
類似形状検索と併せてポイントは3つある。
①キャデナスグループが世界中で配信する部品・部材メーカー製品のネイティブCADデータ(図4)をPARTsolutions内で取得、コンフィグレーション+パラメトリック機能により、システムサイズをコンパクトにしたまま標準化、類似形状検索。拘束条件を含むネイティブデータであることで設計検討が即座に可能。また部品メーカーごと、シリーズごとなど社内利用規格、調達規格に併せた使用可否をコントロール
図4 キャデナスが世界で配信する部品・部材の3 次元ネイティブデータ
②ISO、JIS、社内規格部品の標準化、使用中のCAD固有の形状作成、モデルツリーのための標準化、類似形状検索
③設計者が都度設計する部品、アセンブリを対象に、モノづくりの意図を含んだ類似形状検索、CADで形状を作成する際の支援-ライブ検索(図5)
図5 CAD上で形状作成中のライブ検索例、CADウインドウ下部に表示
この①~③のすべてにおいて類似形状検索、標準化を実現する。
運用形態は、PLM、PDM、SCM、CRMなどとの連携から、Windowsのフォルダでデータの直接管理を実施しているケースまで、さまざまに対応できる拡張性を持っている。
キャデナスは、PARTsolutions のユーザーを世界中にかかえており機能強化、機能要求を行っている。また各ソリューション企業と開発パートナーシップを結ぶことで幅広い連携も可能である。
各ソリューション企業との連携により、CAD上のアイコン配置による利用、独立したリッチクライアントによる利用、Web ブラウザによる利用が可能であるため立上げが容易である。
導入・運用上の効果
PARTsolutions の機能にCloud Map(クラウドマップ)がある(図6)。クラウドマップでは、似た形状の部品がより近い距離で画面上にマッピングされる。このマップを利用すれば、似たもの同士の標準化、集約化のための情報の見える化ができる。似たもの同士の標準化、集約化は、従来、設計部門からの検討が多かったが、現在のプロジェクトでは、調達部門、保守部門からの問合せが増加している。
CADユーザーではない部門においても、ビジネスPCやiPad での利用が可能なインターフェイスで効果を出している。設計主導の部門内標準化と比べ部門横断での標準化活動になることが多く、1 つの製品やシリーズに特化した設計主導の標準化やコスト削減に対して、調達視点での標準化、保守・保管部品種類の削減を製品横断やライフサイクル全体に実施する効果が大きいという検討例が発生している。
集約できない場合は、マスターモデルを決定し、近年話題となっているLowレベルコードによるコンフィグレーション+パラメトリック機能を活用する運用のための洗い出しができる。
PARTsolutions は特定のPLM、PDMとの連携を必須とせず、Windowsフォルダの利用や既存のシステムと連携すれば、再利用、標準化のための見える化ができ、投資に対する効果が早期に算出できる。形状を認識する類似形状検索であることで、モノづくりの「こと」、「もの」の効果算出が可能であることが非常に大きい。
事例
国内での事例は、Windows のフォルダ内に保存されたさまざまなデータ、フォルダ名は設計機種名というケースで類似形状検索の実施が多数存在する。PLMやPDMを利用していないので文字による検索ができておらず再利用、標準化の最初のステップとなる。
キャデナスが世界中で配信している部品・部材のネイティブCADデータのみを使用して生産設備設計を実施している企業が多数ある。ウェブページを介して設計者が検討している部材の3 次元データを利用する場合は、社内ルールに沿わないケースが発生する。PARTsolutions は、メーカー+ラインナップ、シリーズ指定などのルール策定や管理が適切に行える。
PDM、PLM、ERP、SCM と連携する運用では、すでに再利用や標準化に対して何らかの形で取組みを実施しているケースが考えられるが、文字によるキーワード検索の限界を、PARTsolutions の形状、属性、関連情報の見える化で既設プラットフォームの利用効率をさらに向上させる。
数ある導入事例からのキャデナスの思い
PARTsolutions は既存の仕組みの再利用・標準化の流れを加速させるサポーターであり、機能競合する状況はいっさい発生しない。導入時の問題として多いのは、誰がオーナーシップを持って効果を導き出しプロセスに乗せるかである。部門横断的なプロジェクトとなるケースでは、関連するすべての部門に意志決定を及ぼす、また実行権限を持つ「誰か」の存在が重要で、ツールをインストールすれば終わりということにはならない。導入前の各ベンダーの「可能なこと」を実務に落とし込み、必要な変革は必達で実施フェーズに落とし込むことが重要である。そのためにも「誰か」の存在、選出にかかっている。