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機械設計 連載「セラミックス材料の基礎と活用の要点」

2026.01.21

第1回 セラミックスとは

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技術士事務所 ALEITA(アレイタ) 福井 剛史

ふくい つよし:代表、技術士(化学) 大学院修士課程修了後、2009 年三菱化学(株)(現:三菱ケミカル(株))に入社。その間、一貫してセラミックス分野にて3つの職務・部署(事業開発、製造、基礎研究)に従事。順に、事業開発(国内外企業との繊維製品開発、委託生産、事業化、ほか)、製造(工場や製造現場での新たな仕組みづくりとその運営、教育、製造プロセスおよび機械設備の改善、リスクアセスメント、ほか)、基礎研究(大学や企業と連携した水素製造関連素材の研究、ほか)など。2025 年に技術士事務所ALEITA(アレイタ)を設立。

はじめに

 本連載で解説するセラミックスは「材料」の1分野である。社会は新しい「材料」によって大きく進歩してきた。実際、ある新しい材料の登場により社会構造や人口が大きく変化した歴史がある。セラミックス材料もかかわる歴史として「ハーバー・ボッシュ法に用いられたアンモニア合成用の触媒*1」があり、これは「空気からパンをつくった技術(材料)」と呼ばれることもある。つまり、空気中の窒素を別の窒素化合物であるアンモニアへ変換することは農業生産に必要な窒素肥料の大量生産を可能にし、窒素肥料の大量生産は食糧生産の生産量を飛躍的に高めた。この結果、急激かつ爆発的な人口増加がもたらされ、社会は根本から変化した(図1)。このように、ともすると日常生活では目立たない材料の進展は人類の生活様式や経済構造を一変させるほどの力を持つ。

*1 :自身は反応の前後で変化しないが狙う化学反応の反応速度を高める材料
図1 窒素肥料供給量および世界人口の時系列推移1)

図1 窒素肥料供給量および世界人口の時系列推移1)

 機械分野で材料の選定・開発などにかかわる技術者にとっても、材料は製品設計やプロセスの課題解決の検討などにおいて重要な前提である。しかし、セラミックスという材料はいまだ限定的な認識で捉えられることも多く、十分に活用されているとは言えない。限定的な認識の例としては「硬い」、「脆い」、「加工しづらい」、あるいは「腐食しない」などがある。これらの認識は必ずしも誤りではないが、セラミックス材料の現状や可能性の一部しか示しておらず、むしろ誤解・過小評価している場合もある。つまり、脆さには改善が続き応用範囲が広がっているし、硬さや加工しづらさは高精度化を可能にする場合もあり、さらに、あるセラミックス材料は湿潤環境でごく低温でも腐食する。

 本連載ではこうした状況を踏まえて、上記の機械分野で材料の選定・開発などにかかわる技術者を対象にして、なるべく平易に、しかし同じく正確にセラミックス材料を解説する。本連載では、セラミックス材料についての概要から始めて、階層的な構造の捉え方、その構造と特性の関係、あるいは構造をつくる主なプロセスである焼結やその応用、不具合対応について事例を交えて順に記載する。

 今回は以下にセラミックスについて概要(定義、特性、構造の捉え方)を述べる。

セラミックスの定義

 セラミックスについては3 つの定義を区別せずに用いてしまうために議論のかみ合わない場合がある。そのため定義をはっきりさせる。

 3 つの定義とは下記であり、各定義についてその背景を歴史および技術動向などから整理する。

 定義1. 無機材料×非金属材料×高温処理×結晶性材料
 定義2. 無機材料×非金属材料×高温処理
 定義3. 無機材料×非金属材料

 まず、定義1.では結晶性以外の材料、言い換えると非晶質材料(ガラスなど)がセラミックスに入らない。米国セラミックス協会(ACerS*2)では“Ceramics are nonmetallic, inorganic, crystallinematerials”と明記されている。同様に“Ceramicsand Glass”とセラミックスとガラスは分けて併記されている。つまり、セラミックスは結晶であり、ガラス(非晶質)とは別のモノである。一方で微構造に差はあるが特性には共通部分が多いとも言及されている。言い換えれば、セラミックスは結晶性の材料でありガラス(非晶質)とは特性の類似部分はあるものの別の材料である、となる。

*2:The American Ceramic Society
 加えて、製造方法、つまり「プロセス」においても結晶性材料と非晶質材料では異なる点がある。プロセスが異なると構造が異なり、構造が異なると特性が異なることは多い。現に、非晶質材料のプロセスは溶融法、ゾルゲル法など熱処理前の成形を伴わず1 回で成形することが多く、光学的な性質ほか特性に違いが見られることもある。一方でセラミックスは主に焼結で製造され、この焼結の前後で2 回成形することが多い。すなわち焼き物であれば、ろくろを回して形づくり(1 回目)、焼いて(焼結)、研磨・切削などで仕上げる(2 回目)といった具合である。この点からも結晶性材料と非晶質材料は異なる。

 次に、定義2.はセラミックスが土器を代表例に「焼き物」として発展してきたことに強く関係している。この定義では非晶質材料もセラミックスであり、焼き物であれば釉薬(ゆうやく)もセラミックスである。さらに、焼く温度(高温処理)について過去には専門書に具体的な温度が記載されていたこともある。一例として「高温度というのはわずかに赤色が認められる温度、すなわち約540℃以上を指す」2)あるいは(表1.3.1にアメリカの定義として)「無機、非金属物質を原料とした製造に関する技術および芸術で、製造あるいは製造中に高温度(540℃以上)に受ける製品と材料」3)などがある。

 最後に、定義3.においては高温処理すら伴わない。これはエネルギー消費の低減を背景とした現代の技術のトレンドである。かつてセラミックス工業は「窯業(ようぎょう)」と呼ばれていた。窯とは「かま」のことであり、現在は「炉(ろ)」と呼ばれる。特に製造用途の炉は工業炉と呼ばれる。この工業炉は金属や化学業界も含めた幅広い分野で使用され、日本のエネルギー消費の約20%を占めるインパクトがある*3。必然的に、省エネルギー化がセラミックス用の工業炉においても求められる。少なくとも低温化が求められる。セラミックスの低温化についての製造技術にはLTCC(LowTemperature Co–fired Ceramics)法やゾルゲル法などがあり開発が進められている。このように現代ではセラミックスは高温処理を伴わないことも志向している。

*3 :「令和5 年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2024)、経済産業省、2025年6 月13 日のp. 88 図【第211-1】に産業部門のエネルギー消費割合が45.2%と記載がある。加えて、「工業炉の基礎知識(改訂版)」(一般社団法人日本工業炉協会)令和6 年12 月1 日まえがきに「工業炉のエネルギー消費量は日本の産業分野でのエネルギー消費量の約46%」と記載がある。上記より、45.2%(0.452)×46%(0.46)=約20%(0.20792)となる
 総じて、日本においては定義1.と定義2.が都度選択されて語られることが多い。ここで前提がかみ合わないことがしばしばある。一方で、省エネルギー化の要請で定義3.の方向に技術進化の潮流があり、高温を伴わないプロセスからのセラミックス材料は増えており留意する必要もある。

金属やプラスチックとの特性の違い

 セラミックスを定義した次の段階として、その特性を金属、プラスチックと比較することで概観する。なお金属、プラスチック、セラミックスを3大工業材料と呼ぶこともある。表1には3つの材料の基本特性を相対的かつ定性的に示す。セラミックスのいくつかの特性については、連載第3 回で「構造」と関係させながらその詳細を述べる。
表1 金属、プラスチック、セラミックスの特性比較

表1 金属、プラスチック、セラミックスの特性比較

 表1の上部3つの項目(耐熱性、耐腐食性、硬さ)は米国セラミックス協会においてセラミックスの代表的な特性として言及されている。筆者の経験からもこの3 つの特性だけでセラミックスのおおよその用途は類推できるように思える。すなわち、耐熱性が強く求められる用途ではプラスチックは用いられにくく、耐腐食性が強く求められる用途では金属は使われにくい。言い換えると、セラミックスは高温かつ腐食されやすい環境下において用いやすい。

 一方、そのほかにもセラミックスはいくつかの特徴を持つ。

 ① 熱伝導性や導電性などの特性でその特性の高低の幅が広い。特に導電性では絶縁体から超伝導体(液体窒素温度以上の高温)まで
 ②耐衝撃性が低い
 ③加工しづらい
 ④低密度である(金属との比較)

 これらはいずれも元素の種類、化学結合の種類、それらを構成要素にした「結晶構造」および、ある意味では結晶構造からのずれである「格子欠陥」からなる「微構造」の多様性に起因している。①~④はばらばらに特性を並べたように見えるかもしれないが、構造の基本的な知識があれば統一的に把握できる。この点について下記に概説し、次回で詳説する。

セラミックスの構造の捉え方

 前章で述べた通り、セラミックスには(ネガティブな側面も含めて)多様な特性があり、しかもその特性の制御幅は大きい。これは構造の多様性のためである。セラミックス材料は金属やプラスチックと比較しても多様な元素を取り扱い、関連した多様な結合や付随する種々の欠陥構造を持つ。しかし、個別の材料を眺めていても全体を関連づけて多様な構造を把握することは難しい。この解決策の一つとして構造を「階層的」に捉えていくことは理解を助け、実務においても役に立つ。

 図2 には目視で確認できるセラミックス(ベアリング)から向かって右側へ段階的に「サイズ」を下げたときの各階層でのモデルを示してある。同図が示すように多くのセラミックスは結晶を含み、結晶は対称性を反映した並び方に加えて、化学結合や元素など化学構造を要素として構成されている。このようにある対象物をより基本的な単位に分割し、その理解を通して分割前の複合体を理解することを要素還元主義と呼ぶ。より基本的な単位の深い理解がより高次の構造の理解を深めると考えるわけである。実際、このように対象を「分けて理解する(わかる)」ことで科学や技術は進歩してきた側面がある。
図2 機械材料の階層構造

図2 機械材料の階層構造

 一方で要素間の相互作用による高次の構造の複雑化、新しい特性の発現などには留意が必要である。特に低次構造にはなかった高次での新たな構造や特性の発現は複雑系における創発現象として知られている。実際、図2においても結晶から微構造にかけて結晶以外の構造(格子欠陥)が導入されている。

 さて、セラミックスを機械材料として見た場合、図2 に示す階層構造のうち、基準となるのは人の目で確認できる大きさ、すなわち機械構造である。多くの場合、そのスケールはメートルからセンチメートルの範囲にある。実用上の多くのセラミックスとしては結晶質材料を想定する(定義1.)。ここから、より小さな階層へと順に構造を捉えていく。

 機械構造の次の階層にある微構造は、結晶構造を基本単位として構成されている。結晶構造にはさまざまな種類があり、同じ組成でも格子の種類が異なれば特性も変わる。逆に、同じ格子でも組成や結合状態(結晶構造のさらに下の階層である化学構造)が異なれば、やはり異なる特性を示す。これが設計の多様性である。

 実際に理想的な結晶を得ようとすると、熱力学的にほぼ不可避に、あるいは製造条件のわずかな変動によって構造に“ずれ”が生じる。このずれが、いわゆる格子欠陥である。格子欠陥には、原子やイオンサイズの点欠陥(0次元)、転位などの線状欠陥(1次元)、粒界などの面欠陥(2 次元)、さらに析出物やき裂のような体積欠陥(3次元)がある。これは製造の難しさ(多様性)である。

 このように実際の結晶は、理想的な結晶構造と欠陥が組み合わさった複合体と見なすことができ、この複合体を全体として微構造(または微細構造)と呼ぶ。機械材料の特性はこの微構造によって大きく左右される。以上のように、図2 において機械構造の下に描かれる微構造は、結晶構造と格子欠陥の複合体であり、結晶構造はさらに元素の配列や化学結合の在り方に強く依存し、それは元素の影響を受ける。言い換えれば、セラミックスの機械構造は、その下位にある階層構造(微構造・結晶構造・化学構造…)から階層的に影響を受けている。

 詳細は次回以降で述べるが、セラミックスの特性は、各階層構造の寄与が加重平均的に反映されたものとして捉えると理解しやすい。特に設計や製造の立場にある技術者にとって重要なのは、目的のセラミックスのある特性を評価する際に「どの階層の構造」が影響しているのかを意識することである。例えば導電性や誘電性の制御を行いたい場合には粒界などの格子欠陥(図2 では微構造の階層)の影響も大きいが、まずは元素の種類やイオン価数、さらにはドーパントの存在などの化学構造の階層は大きな影響を持つ。一方で、破壊靱性などの機械的特性を評価する場合には、化学結合の種類など化学構造の階層の影響も大きいが、微小クラック、粒界構造や結晶粒の大きさ、ガラス相の分布など、より大きなスケールでの構造(微構造の階層)の寄与も大きい。

 機械分野での設計や製造の現場では、与えられた使用条件下で要求される性能を満たす材料を選定する場面が多く、その際にデータベースとして材料特性値を見比べる。このとき材料特性について構造から基本的な説明ができる認識を持っていることは、材料選定時の納得度、不具合時の解析や是正対応、より高度な設計を高めるために重要である。

 次回は構造についてより詳しく解説する。
引用文献
1)Dawson, C. J., & Hilton, J. (2011). Fertiliser availability in aresource–limited world. Philosophical Transactions of theRoyal Society B, 366, 2011-2026 に基づくデータをGRID–Arendal が再作図したもの。出典:GRID–Arendal, GreenEconomy in a Blue World, 2013.「 Production of nitrogenfertilizer in relation to world population」図 入手先:https://www.grida.no/resources/7449
2)素木洋一:セラミックスの技術史、技報堂出版(1983)、p.3
3)加藤誠軌:都市工学をささえ続ける セラミックス材料入門、アグネ技術センター(2008)、p.11

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