機械設計 連載「セラミックス材料の基礎と活用の要点」
2026.03.10
第3回 セラミックスの特性
技術士事務所 ALEITA(アレイタ)福井 剛史
ふくい つよし:代表、技術士(化学) 大学院修士課程修了後、2009 年三菱化学(株)(現:三菱ケミカル(株))に入社。その間、一貫してセラミックス分野にて3つの職務・部署(事業開発、製造、基礎研究)に従事。順に、事業開発(国内外企業との繊維製品開発、委託生産、事業化、ほか)、製造(工場や製造現場での新たな仕組みづくりとその運営、教育、製造プロセスおよび機械設備の改善、リスクアセスメント、ほか)、基礎研究(大学や企業と連携した水素製造関連素材の研究、ほか)など。2025 年に技術士事務所ALEITA(アレイタ)を設立。
前回の内容と今回の構成
前回はセラミックス材料の「階層的な」構造について述べた。そこではまず基準とする機械構造(機械要素や素形材)について述べ、次に従来は「選定」の対象である機械構造のサブ構造(化学構造、結晶構造、微構造)を小さい構造から大きい構造へと順に解説した。今回は階層的な構造と3つの特性(熱特性、機械特性、電気特性)の関係について説明する。
熱特性
セラミックス材料は一般に耐熱性が高い。これは主としてイオン結合や共有結合により構成されているためである。これらの結合は金属結合(金属材料)や分子間力(プラスチックで重要な結合の一つ)よりも強い。一方、実際の熱特性は化学構造だけではなく、結晶構造や微構造といった別階層の影響も受ける。ここでは熱特性の中から熱伝導率を例にして化学構造・結晶構造・微構造との関係を例示する。
セラミックスで高い熱伝導率を示す材料として窒化アルミニウム(AlN)があり、その応用例として静電チャックなどがある(図1左)。静電チャックとは静電気力で半導体ウェハを吸着・保持する機能性の台座部材である。AlNは特に低温域では金属アルミニウムに匹敵する熱伝導率を示す。
まずこのAlN の微構造について、第3 成分を添加しない場合には、製造時に形成される粒界に沿った不純物相によりAlN結晶の連結が不連続になり、熱伝導が阻害される1) 。この対策としてイットリア(Y2 O3 )などを添加すると不純物相が島状に析出し、AlNの粒子間が連続的につながるため振動が伝達しやすくなる(図1右)1) 。
図1 静電チャック外観模式図(左)、AIN微構造模式図[連続な不純物相(中央)、不連続な不純物相(右)]
次に結晶構造、化学構造の影響を理解するため、イオン結晶(塩化ナトリウム:NaCl)と金属(金属ナトリウム:Na)を比較する(図2)。図で示すように、NaClでは価電子は塩化物イオン(Cl- )に局在し、Na では価電子は結晶中に広く非局在化している。温度上昇時、NaClでは電子は局在しているため熱の輸送へ寄与しづらく、Na では電子自体も熱輸送に寄与しやすい。Na の熱伝導率はNaClの熱伝導率よりも1桁以上大きい。
図2 NaCl (左)とNa(右)における結合様式の違いについての模式図
ここで、NaCl においてイオン同士はクーロン力で作用し合いながら各イオンは熱運動している。結果、温度上昇による熱振動の増加は隣接イオンへと連続的に伝播する。このようにしてイオン結晶では熱は主として電子ではなく多数のイオンの結合からなる結晶の振動として伝導する*1 。セラミックスを構成するもう1 つの主な結晶である共有結晶も局在するという観点から同様である。
*1 :結晶中を伝わる集団的な元素の振動を格子振動、そのエネルギーを量子化したものをフォノンと呼ぶ。
以上から、セラミックスの熱伝導率を高めるためには結晶の振動を効率よく伝えることを考える。次の3点が重要である。
① 結晶の振動を伝えやすい化学構造とすること
② 結晶の振動が邪魔されづらい結晶構造、微構造とすること
③ ある結晶の振動にたくさんの元素を関係させること
① について、元素間の結合をばねと捉えると、ばねがより振動するのは軽い元素と強い結合の組合せとなることをイメージできるだろうか。ダイヤモンド(炭素×共有結合)はその代表例である。
② について、結晶構造、微構造として、対称性が高いほど結晶の振動が伝わりやすい*2 。そのため、結晶構造以外の条件が同じであれば、立方晶(高い対称性)は斜方晶(比較的低い対称性)よりも熱伝導率は高くなりやすい。さらに、微構造レベルでは、上記で述べた粒界影響に加えて不純物などの格子欠陥も結晶の振動が散乱する要因となる。
*2 :対称性が高いほど、格子欠陥が少ないほど、原子配列は周期的に均一となることができる。均一になるとフォノンの「運動量ベクトル(進み方)」や「位相(揺れのタイミング)」は揃いやすくなる。
③ については、ある元素の周囲に存在する原子数が多い(配位数が大きい)ほど、より振動を伝えられることを意味する。
なお、上記のAlNは軽い元素、高い共有結合性、高い結晶の対称性、さらに実用においては微構造が制御された材料(上述)である。