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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2026.04.22

既存の設備、ノウハウを活かした新分野への挑戦でさらなる成長を図る―ナカヒョウ

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㈱ナカヒョウ 代表取締役社長
中谷陽介氏

 自動車向けを中心にプレス部品の試作から量産までを手がけるナカヒョウ(岐阜県各務原市)。成形性アップや工程数削減につながる部品形状の提案で顧客の競争力強化に貢献してきた。厚板の精密せん断や板鍛造などのプレス加工技術にとどまらず、プレス加工後の切削加工や接合までを網羅する技術力も強み。経営環境の変化を機敏にとらえ、近年は新技術の開発や現場の自動化に注力する。中谷陽介社長に今後の方向性を聞いた。
――現在の生産体制を教えてください。

中谷
 本社と飛騨工場(岐阜県高山市)で合わせて60 台以上のプレス機械を保有しています。最も大きいものは500t、主力は200t です。サーボプレスもかなり早い段階から導入しており、現在は14 台ほど。振り子モーションでブランキング時の生産性を高めたり、特殊モーションを成形性の悪い部分に適用したりと活用しています。中国広州にも製造子会社があり、日系自動車メーカー向けのプレス部品を供給しています。また、2024年には新たな国内工場として富加工場(岐阜県富加町)を取得しており、顧客からの生産移管や新規受注にも対応できる体制を整えました。
200tプレス×3連のラインペーサーを2ライン直列配置。6連としても使用できる

200tプレス×3連のラインペーサーを2ライン直列配置。6連としても使用できる

――主力製品は?

中谷
 自動車部品がメインで、その中でもエンジンやトランスミッション関係の機能部品と言われるものを多く手がけています。具体的にはエンジンのシグナルプレートやドライブプレート、トランスミッションのディンテントプレートやクラッチドラム、センサロータなどですね。シグナルプレートはクランク角度を検出するセンサの相手物で幾何公差が厳しく、同業他社があまりやりたがらない部品です。また、自動車以外に住宅関係の仕事もあり、中には12mm の厚物もあります。厚物も他社は避けがちですが、当社では比較的多く手がけています。

――プレス加工メーカーとして強みは?

中谷
 一番は設計力だと思います。試作から始まった会社なので、成形困難な部品形状をどうすれば成形できるのかといった設計ノウハウが蓄積されています。お客さまの設計・開発部門と一緒になって成形可能な部品形状を検討でき、工程を減らすための提案もできる。試作の受注から量産につながった例もいくつかあります。

 精密せん断や板鍛造も得意です。精密せん断では、板厚10mm のせん断面をほぼ鏡面に加工できます。精密せん断を手がける会社、あるいは厚板加工を手がける会社はありますが、厚板の精密せん断を得意とするところは少ないのではないでしょうか。厚板加工では金型の耐久性がカギになるので、型材や金型コーティングの選定ノウハウも蓄積しています。板鍛造は工程数が増える分、コスト面で不利なので最近はあまり注文がありませんが、当社の特徴的な技術の一つです。
板鍛造や精密せん断などの工法転換プレス部品の例。板厚は0.8〜12mm、材料はSAPH440やSUS430、SCM415などに対応

板鍛造や精密せん断などの工法転換プレス部品の例。板厚は0.8〜12mm、材料はSAPH440やSUS430、SCM415などに対応

板厚10mmの精密せん断サンプル。コの字の部分がせん断面100%

板厚10mmの精密せん断サンプル。コの字の部分がせん断面100%

――プレス機械以外にかなりの数の量産用切削加工機を保有していますね。

中谷
 これも当社の強みの一つで、NC 旋盤やマシニングセンタを使ったプレス部品の切削を得意としています。プレス部品はクランプがうまくできなかったり、切削直後は寸法が公差内に入っているのに、クランプを外すと寸法が公差から外れたりするので他社はあまりやりたがらないのですが、当社には長年のノウハウがあります。部品をすべて切削で加工しようとすると非常にコストがかかりますし、逆にすべてプレスで加工しようとすると工程が増えたり、求める精度を得られなかったりします。プレス加工に一部切削加工を取り入れることで、品質とコストの面で顧客ニーズに応えています。

樹脂の打抜き加工に挑戦

――自動車業界は転換期と言われています。昨今の経営環境をどのように見ていますか。

中谷
 自動車メーカーの不正問題や減産などが響き、当社でもこの2~3年は売上げが減少傾向にあります。ただ、一時は非常な盛り上がりを見せていた電動化がやや下火になり、従来のハイブリッド車が見直されてきたことで多少回復の兆しも見えてきました。一方で、トランプ関税の影響で今後、自動車メーカーが現地調達や海外からの部品の輸入を進めていくと自動車関係だけでは厳しいとも感じています。そこで、新規顧客開拓を目指して取組みを進めているところです。

――具体的には?

中谷
 技術開発をいくつか並行して進めており、その一つがプレス加工による樹脂の切断です。公設試験研究機関の指導の下で進めているもので、板厚2mmのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の打抜きに成功しました。繊維の毛羽立ちやバリもほぼなく、きれいに抜くことができます。ほかに、PC(ポリカーボネート)やPP(ポリプロピレン)、SMC(不飽和ポリエステル樹脂)、変わったところでは段ボールやゴムの打抜きも可能です。これらは通常はトムソン刃で抜きますが、プレス機械でも条件を工夫するときれいに抜けることがわかりました。商談会でサンプルを配り反応を見ているところです。
樹脂(CFRP、ポリカーボネートなど)の打抜きサンプル。通常のプレス機械でも金型や加工条件を最適にすることできれいに抜ける

樹脂(CFRP、ポリカーボネートなど)の打抜きサンプル。通常のプレス機械でも金型や加工条件を最適にすることできれいに抜ける

――樹脂の打抜きは金属とどこが違うのですか。

中谷
 金属は塑性変形したのちに最後に破断しますが、樹脂は塑性変形が一切ない状態で破断します。ですから、「抜く」よりも「割る」という感覚に近い。きれいに割るためには成形条件の調整が必要ですし、金型も専用のものを製作します。スクラップ部と製品部の面積の関係が金属と樹脂とでは違うなど、新しい発見があって興味深いです。

――新技術をアピールするのは展示会で?

中谷
 展示会はコストパフォーマンスが悪い印象がありあまり活用していません。代わりに商談会に足を運ぶことが多いです。県や市、商工会議所や金融機関などが開催していて、2 回行けば1 社くらいは顧客や外注先の候補と出会えます。仕事に結びつかなくても情報交換の場としても有効です。

他社との連携強化で新規受注を目指す

――EV をはじめとした次世代自動車の増加に関してはどのような対応を?

中谷
 EV で必要になる電装品は、当社がこれまでつくってきた製品とはまったく違います。そうした既存の加工設備や社員のノウハウを活かせない製品への参入は今のところ考えていませんが、既存設備を使って実現できることは模索しています。中でも注目しているのが熱マネジメント分野です。放熱や冷却、熱交換などがあり、一部でかなり需要が伸びているようです。そのすべてにアンテナを張り、協力会社とも連携して参入できる機会をうかがっています。

――1 社単独での参入は難しいとの考えですか。

中谷
 ええ。お客さま、あるいは同業者や協力会社などと組むことなしに、当社くらいの規模の会社が新分野に挑戦するのは相当困難です。会社の生き残りという意味でも、協業やM&A が今後活発になっていくと予想されます。当社も以前は自前主義が強かったのですが、今は「餅は餅屋」という考えに変わりました。当社のもつシーズと親和性があり、シナジーが見込めるところであればM&A も前向きに検討したいと考えています。

――自動化にも力を入れていると聞いています。

中谷
 2024年に、5連のラインペーサーの先頭にアンコイラとレベラフィーダを設置して、人によるブランクのセット作業をなくしました。これにより重筋作業が減り、省人化が進みました。2025年には協働ロボットを1 台導入して単発工程でのワークの供給と取出しを自動化しており、2026年にあと2 台増やす予定です。今、夜勤をしているラインがあるので、そこに導入して夜勤担当者を減らすのが当面の目標ですね。プレスの成功事例をもとに、今後数年で切削加工でもワーク着脱を自動化できればと考えています。
200t プレス5 連ラインペーサーの先頭にアンコイラとレベラフィーダを設置することにより重筋作業を減らし、働く環境を改善した

200t プレス5 連ラインペーサーの先頭にアンコイラとレベラフィーダを設置することにより重筋作業を減らし、働く環境を改善した

――自動化を進める背景にはやはり人手不足があるのでしょうか。

中谷
 飛騨工場はまだ新卒の応募者がいるのでそうでもありませんが、本社は採用に苦労しています。ただ、採用できれば自動化をしなくていいとは考えていません。ヒューマンエラーによる不良はどうしても発生するので、品質を高めるという意味でも自動化や省力化は進めていきたい。今後、人件費の上昇が続くことを考えても、自動化は必須だと思います。
単発工程でのワーク搬入出用に導入した協働ロボット。2026年に2台の追加導入を予定する

単発工程でのワーク搬入出用に導入した協働ロボット。2026年に2台の追加導入を予定する

若い人が勤め続けたいと思える会社が目標

――創業時からの沿革を教えてください。

中谷
 当社は最初、試作でスタートしました。私の父・中谷晴男が勤めていたプレスメーカーを辞めて1968 年に「中兵プレス」を立ち上げたのが始まりです。15t と70t のプレス機械を購入し、金型もコンタマシンやフライス盤で小さいものをつくって石油ストーブのプレス部品を試作していました。ほかにガス器具や水道関係、送電関係などの試作も手がけていたようです。その後、自動車部品メーカーとの直接取引が始まったのを機に、プレス部品の量産や量産向けの金型設計・製作にも事業領域を広げます。このお客さまから技術・管理の両面でさまざまな指導を受けたことで、増肉加工のような難しい加工法をつくり出したり、ISO 14001(環境)およびISO 9001(品質)の認証を取得したりと、当社がモノづくり企業として大きく成長するきっかけになりました。

――中谷社長はどのような経緯で入社を?

中谷
 大学を卒業後、システムエンジニアとして出光興産で働いていた2007 年に、当時会長を務めていた父に呼び戻されました。38 歳のときです。東京から実家に帰るたびに父に頼まれ、最後は根負けして入った感じです(笑)。実は、すでに同じように呼び戻された兄・俊晴(現・会長)が社長を務めていたのですが、父は海外展開、商品領域の拡充などの将来の課題への対応および自身の退任を見据え、経営体制の強化を図ろうとしたのだと思います。兄が中国の製造子会社の総経理に就任した2011 年に、兄から引き継ぐ形で社長に就任しました。今は会長である兄が品質や技術関係を、私が財務やシステム関係を見ています。

――二人三脚でやってこられた。今後の目標は?

中谷
 若い人が勤め続けたいと思えるような会社を目指します。そのためには売上げを増やし、利益も出して給与も増やさなくてはならない。また、仕事内容や働く環境の改善も進めていく必要があります。そのためにできることを会長と一緒に考え、一つひとつ取り組んでいきます。
なかたに ようすけ:1968 年8 月27 日生まれ、57 歳。1991 年、青山学院大学理工学部経営工学科卒、出光興産入社。2007 年、ナカヒョウ入社。2011 年、社長就任。趣味はゴルフ。毎晩の晩酌は欠かさない。

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