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機械設計 連載「セラミックス材料の基礎と活用の要点」

2026.06.01

最終回 セラミックス材料のプロセス制御(不具合対策と改善)

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技術士事務所 ALEITA(アレイタ)福井 剛史

製造での不具合対策 

 製造は安定化した量産プロセス条件が1 つはある状態と言える。製造における不具合対策には大きくは現状復帰と改善の2 つの方向がある。改善は前述した仮説形成部も重要であるが、それでも製造の不具合対策で大切なのは前述した演繹部である。特に現状復帰においては(開発や研究に比べて)確度の高い仮説はすでに1 つは持っているために実行をどうするかが主な課題、問題となることが多い。研究者や開発技術者の中には、実行する内容が決まっていてなぜそれが難しいのか(課題や問題となるのか)と思う人がいるかもしれない。しかし、難しいことはとても多い。 

 セラミックスの製造には電気式、ガス式を合わせた「工業炉」を用いる。第1 回で述べたように、「この工業炉は金属や化学業界も含めた幅広い分野で使用され、日本のエネルギー消費の約20%を占めるインパクトがある」。つまり、大きなエネルギーを制御しながらモノづくりをしている。このエネルギーが制御できなくなったとき、その影響は現場(にいる人々も含む)に襲いかかることになる。つまり、大きな危険性と隣り合わせであるのが製造の特徴の一つである。実際、設計・実装済みの工業炉のバーナについて、設計変更せずに補修交換した場合においても意図しない爆発が起こることによる休業災害が報告されている4)。 

 ここで労働安全衛生法には「第五十五条 黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない」のように、「試験研究での適用除外」の記載がある。試験研究では変化を取り入れることが重要視されている。 

 一方で、製造での改善においては上述した危険性や有害性の観点から慎重になることが強く求められている。これは製造現場では当然で、致命的な潜在欠陥のある新しい取組みはさまざまな観点や水準で、厳しい。一方で、ともすると前例主義、実績主義が過度に進み、実施しない判断も増え、実施するにしても多大なリスクアセスメントやその実施負荷に対して、限定的かつ最小限の変更で進まざるを得ない状況が生まれることもある。このような状況は大きな事故を起こしてしまったケースと比較してはるかに好ましい一方で、外部変化に対して大きく遅れをとり、結果として経営を悪化させ、労働者の職、その家族の生活に対して悪影響を及ぼすことも考えられる。したがって、製造プロセスにおいても変化を取り入れることは常に求められている。 

 このような時間軸における「ズレ」によって変化に対する相反が生じる状況でセラミックスの製造プロセスを改善していくために、少なくとも下記は基本的であり有用である。 

 まずは科学であり原理である。実際、昔から原理原則、3 現主義、現場ではこの考え方を大切にしている。本連載で述べた階層構造などもこの範疇(はんちゅう)に入る。物質があるプロセス条件において、条件に合った構造をつくることは試験研究でも製造でも変わらない。したがって、改善する際は製造に用いている機械設備だけではなく、試験研究に用いるスケールでも基礎的なデータを取ることは有用であることが多い。1 例として、本連載でも述べたジルコニア(ZrO2)やアルミナ(Al2O3)は原料から結晶、結晶を生成した後も大きな体積変化を伴いながら相転移する。既存のデータに加えて、場合によって使用原料や配合での基礎的な熱特性データがあることは有用な指針になる。 

 次に演繹に含まれる前提を「拡張する(勇気づける)」ことに目を向けることも大切である。上記の通り、現場を預かる責任者(課長、主任など)は変化に対して守りの姿勢を取ることもあり重要な職務の一つでもある。一方で少なくとも中期的には一定以上の変化を取り入れることが求められるため、合理性のうえにも勇気を持つことも求められる。 

 上記の判断者の前提は意識(志向)や技術レベルに制限され、追随して仮説も影響を受けている。意識(志向)については長年従事している関係者に加えて、「若者、ばか者、変わり者」が変革を起こすことがあると以前から言われている。これらは若ければ、ばかなほど、変わっていれば良いと言うよりは、既存の常識から離れている人が求められているということであると思われる。こういった方々の意見を聞く、人員構成にすることなども意識して検討する。 

 技術レベルについては工業炉であれば、材料特性(上述した基礎データ)を踏まえて機械設備(バーナ、ブロワなど)を局所および全体で適切に運転し、運転炉全体の熱や物質のバランスを調整できることも大切である。バーナ出力についての懸念[燃料と助燃剤(空気)の制御が異なる方式である場合もあり、この場合、出力変化により空燃比が変わることがある]や異常検知の感度や冗長性設計、異常時の対応について実装し説明できることなどは1 例である。ある領域での広がりを持った知見は実際の現場運用に加えて、判断者の不安を和らげ判断の助けになる。 

 上記のように製造では扱うエネルギー量が大きく、現状復帰も慎重にする必要があり、改善のための変更はより実施しづらい面はある。だからこそ、その特徴を理解して、どんな変化を起こすことが望まれているかを見立てること(仮説形成部)と同等以上に、どうすれば説得でき、実際に安全に実行できるかに目を向けることが望まれる。 

 このように、絶対安全と事故発生を両端に捉えて両者に対応して考える1 例としてALARP の原則*2 がある。東日本大震災での津波に対する事前の対策は、それ以前の地震を背景とした経営上、あるいは政府や地域関係者(漁業など)への説明の葛藤中、結果として十分にはならなかった。一方で女川原発は設置許可段階で敷地高さに地震の影響を組み込んでいる(敷地高さを高くしている)。中村昌充先生は「津波によって福島第一は致命的な事故になったが、福島第二は非常用電源が確保できたために致命的事故には至らなかった。福島第一と福島第二の違いはリスクマネジメントにおける貴重な事例である」と記されている5)。海水ポンプや非常用発電機などの配置が大きな違いであったことも示唆されており6)、これからのために大切に参考とさせていただきたい。
*2:ALARP の定義:合理的に見て実行可能な限り、リスクを低減すること(As Low As Reasonably Practicable)(2025 年2 月 経済産業省 製品安全課資料
https://www.meti.go.jp/product_safety/ps-award/risksystem/img/pdf/2502_outline_description.pdf

おわりに

「セラミックス材料の基礎と活用の要点」として5 回の連載では、セラミックスの定義から材料の階層構造と特性の関係、焼結というプロセスのごく基本を簡単に述べた。モノづくりにおいては、エンジニアの職務には新しいものを生み出すことと、モノを安定的に生産することの両方が求められている。今回述べたように、この2 つはいつも同じ方向を向いているわけでもない。今後、基礎的な科学や技術を踏まえつつ、勇気と希望を持って変化を求め、一方で重大な事故を回避しつつ、社会の中で読者の方々と(間接的にでも)ご一緒に、未来へのより良い判断と行動に貢献したい。 

 最後に出所は諸説あるが、マルティン・ルター、開高健の言葉とされ、石原慎太郎氏も愛用されていた「たとえ地球が明日滅びるとも、今日君はリンゴの木を植える」(*ルターは「私は」)の意味合いで図1 を記載する。大きなリスクを前にしてもなお「遠く」に対する思いと技術を求め続けたい。
図1 りんごの木(写真ACより)

図1 りんごの木(写真ACより)

参考文献
1 )明治大学教養論集、通巻434 号(2008・3)、pp.1-6、など
2 )江戸川大学紀要、第31 号(2021年3 月)、pp.291-299
3 )田中耕一:生涯最高の失敗、朝日新聞出版(2003)、p.138
4 )職場の安全サイト 労働災害事例(コークス炉のバーナ配管補修時の爆発)などhttps://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=101253
5 )中村昌允:リスクアセスメントの実態とその課題(その2)、安全衛生コンサルタント、Vol.46、No.157(2026)、p.58
6 )朝日新聞デジタルhttps://www.asahi.com/special/10005/TKY201104050625.html
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