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機械設計 連載「B to B向け機械設計のポイント」

2025.12.17

第2回 顧客の制約事項を把握するポイント

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技術力向上カウンセリングオフィス 布施 裕児

ふせ ゆうじ:代表 1989 年4 月、旭硝子(現・AGC)入社、パソコン用ハードディスク向けガラス基板の加工技術開発、営業などに従事した後、液晶用のガラスを扱う事業部に異動となり、液晶用ガラスの梱包容器/ 梱包材料の設計開発を17 年以上担当。途中、1 年半ほど知財部兼務となり、特許戦略構築、出願推進活動も経験。2023 年4 月、同社を早期退職。現在は中小企業の技術支援や組織改革支援、セミナー講師として活動中。(一社)製造業総合支援 副代表。資格:上級心理カウンセラー[(一社)日本能力開発推進協会]。

はじめに

 第1 回目は「狩野モデル」1)で提唱されている魅力的品質、一元的品質、当たり前品質、といった切り口で、顧客の要求事項を把握するポイントを紹介した。その際に、当たり前品質とは必要条件、制約条件ともいえる品質で、設計開発者が実は一番ケアしなければならない品質であると紹介した。なぜなら、不充足の場合、クレームに直結する品質であり、しかも、こちらから積極的に確認や協議をしないとオープンにならない品質だからである。具体的に実績があるものと、どこが違うのかを明確にして議論することが大切であるが、今回は、より具体的に必要条件、制約事項を把握していくポイントについて紹介していく。

顧客の制約事項を把握するのはなぜ難しいのか?

 顧客の制約事項を把握するのが難しい理由として以下のことが挙げられる。

  1.顧客自身が制約事項をよく理解していない
  2.顧客はすべてを語らない(暗黙の要求事項)
  3.知らないうちに工程変更があり制約事項が変わる
  4.通常はラインは見せてもらえない
  5.顧客も工程設計中の場合は実際に制約事項が決まっていない

 以下に詳細を述べる。

1.顧客自身が制約事項をよく理解していない

 そもそも、顧客は商品のことをよく知らないので、何が制約事項なのかよくわからない。こちらから説明しない限りわからないのは当たり前のことである。

 また、第1 回の「顧客について」で記載したように、担当の窓口の方だけが顧客ではない。筆者が設計開発していたガラスの梱包容器の場合、顧客の窓口がライン設計の担当者であれば、物流関係はわかっていないのが普通である。開梱作業は製造部が実施したり、関連会社が実施したりする場合もある。担当の窓口の方の顔をつぶさず、いろいろな方面から正確な情報を入手する難しさがある。無論、そのような動きは営業担当者に依頼する必要があるため、情報共有の難しさもある。

2.顧客はすべてを語らない(暗黙の要求事項)

 当たり前と思っていることはあえて語ってはくれない。こちらから確認、協議していく必要がある。

3 .知らないうちに工程変更があり制約事項が変わる

 顧客の担当者によるところも大きいが、前述したように担当者がすべてを把握しているとも限らない。こちらとしてもフォローが必要になる。

4.通常はラインは見せてもらえない

 状況はさまざまであろうが、基本的には機密上の問題で見せてもらえないことが多い。資料と話だけでこちらも内容を理解する必要がある。

5 .顧客も工程設計中の場合は実際に制約事項が決まっていない

 顧客も設計開発中の場合、そもそも制約事項も何も決まっていない。先手必勝。こちらの商品を使ってもらえるように工程設計してもらうことが大切になる。

顧客の制約事項を把握するポイント

 顧客の制約事項を把握するポイントとして以下の5つが考えられる。

 1.顧客での使われ方をよく知る
 2.商品設計に必要な諸条件を確認する
 3.既存品と新規品の違いから制約事項を議論する
 4.顧客での使用方法から制約事項を議論する
 5.定期的に要求事項を確認する

 以下に詳細を述べる。

1.顧客での使われ方をよく知る

 社内の製造装置を設計するような場合、実際にどのように使われているかを確認、協議するのはハードルが低い。また、商品を自社で生産する場合は、どのように生産、加工組立てされるのか、確認、協議することは可能であり、工程をよく理解することが大切になる。工程の担当者と工程を見ながら必要事項の洗い出し、場所が複数に及ぶ場合はすべてのラインに詳しい人に洗い出しをお願いすることになる。常日頃から製造ラインのメンバーとコネクションを持ち、1 対1 でフリートークできる関係性をつくっておくことが大切になる。

 一方、外部の顧客の場合、社内よりも機密の問題で格段に難しくなる。しかし、設計/開発のメンバーが入れなくても、クレーム対応で品質保証や製造のメンバーが現場に入る機会は少ないがある。数少ない機会を逃さず、気になっているポイントを説明し、確認してもらうことが大切である。

 また、筆者が担当していた梱包容器は顧客のガラス投入装置へ投入できて初めて意味をなす。このような場合、顧客によっては装置メーカーを紹介してもらえたり、3 社で打合せを行えたりすることがある。絶好の機会なので有効に活用すべきである。仮にそのような機会が得られない場合、できるだけ早い段階でいろいろなルートで装置メーカーとの接触や装置仕様の把握に努めることも大切になる。

2.商品設計に必要な諸条件を確認する

 設計や開発を進めるには、設計仕様や開発目標を設定しないとそもそも検討も進められない。よって、初めは諸条件を確認しながら先方の要望をヒアリングすることがスタートになる。例えば、筆者が担当していたガラスの梱包容器は図1 2)に示したように、鉄鋼材などにクッション材を貼り付けて、ガラスの間に紙を挟み積層するといったシンプルな構造体である。実際にはガラスをむき出しで運ぶわけにはいかないのでカバーが設置され、図に示されていないが、ガラスの保持機構や除振機構、衝撃対策などが施されている。このような梱包容器を設計開発しようとすると、そもそも、ガラスの大きさ、重さから始まり、縦、横、奥行きの寸法や重量の制約、例えば実際に梱包容器を取り扱うフォークリフトの爪幅や厚さがわからないとフォークリフトの挿入口の寸法が決められないなど、設計に必要な情報は事前に入手する必要がある。
図1 液晶用ガラス梱包容器(概略図)2)

図1 液晶用ガラス梱包容器(概略図)2)

 具体的な数値ばかりではなく、安全上の考え方や、使い勝手の考え方も必要である。例えば、開梱作業はそもそも全自動前提か、人手がかかるのはよいとして、工具は使用可能か、複数人で対応可能か、想定開梱時間は、などを確認する必要がある。商品によって諸条件は異なるであろうが、実際に使われる工程を想定し、確認が必要な条件を洗い出し、ヒアリングすることが大切になる。

 おそらく、過去の設計開発から必要な項目はリストアップされていると思うのでそれを利用すればよく、仮になければリストアップしておくことが大切となる。

3. 既存品と新規品の違いから制約事項を議論する

 社内の場合には、アイデアを温めている段階でも1 対1 のフリートークは可能であるが、外部の顧客の場合には、やはりハードルは1 つ上がる。筆者の場合には、デザインレビューが終わり試作品を作製し、顧客に評価してもらう前に説明するのが通例であった。魅力的品質と異なり、当たり前品質である必要条件、制約条件を議論を通じて洗い出すのであれば、具体的な姿、既存品と新規品の違いが明確になっていないと議論に深まりが出ない。実際に試作品が完成し、顧客に評価してもらう段階で説明に行くことが多かったが、デザインレビューが終了し、試作品を作製する段階で説明に行く方がタイミング的にはよいと考えている。

 顧客に評価してもらう以上、社内で試作品を評価し、あるレベルにならないと説明できないと考える人も多い。しかし、実際に、顧客に評価してもらうと、変更箇所が多く入るのが通例である。デザインレビューが終了した時点では初期設計/開発はいったん終了し、実際に試作品を作製するのであるから具体的な話ができるはずである。

 上記観点から、顧客に説明、協議に入るのはデザインレビュー終了後、試作品作製前が望ましいと考えられる。

 また、既存品は自社製品であれば違いも明確にできるが、既存品が他社品しかない場合は非常に難しくなる。他社品が入手可能な場合は問題ないが、入手困難な場合はいろいろなルートを使って情報を取り寄せることが大切になる。

 結局、図2 に示したように既存品と新規品の違いを明確にし、どういった影響が出るかを顧客と議論することがポイントである。
図2 既存品と新規品の違いから制約事項を議論する

図2 既存品と新規品の違いから制約事項を議論する

4.顧客での使用方法から制約事項を議論する

 既存品と新規品の違いから影響を考える以外に、顧客での使用方法から制約事項を議論することも大切である。特に注意しなければならないのは、立合い試験などで不備が明確にならないものである。具体的には顧客が商品を使ううえで調整が必要なものである。筆者の場合は位置センサなどのセンサ関係が要注意であった。センサは既存品に合わせて設定しているので、新規品の場合、同じ材料を使っていても表面の状態の違い(色見)などでエラーが多くなることが往々にしてあり得る。その場合、顧客でも何とか使おうとし、条件出しを進める。その結果、許容範囲になればよいが、結局、改善要請が出されるとなると、その分、費用負担はより多くなる。

 図3 に示したように、既存品に合わせて調整しているものはないか、あるとすれば新規品は問題ないか、の観点で確認することがポイントとなる。
図3 顧客の使われ方から制約事項を議論する

図3 顧客の使われ方から制約事項を議論する

5. 定期的に要求事項を確認する

 顧客も開発段階である場合は特に、制約事項が知らないうちに変わることはよくある話である。先手必勝で、自社の商品に合わせたライン設計をしてもらうことが大切となる。また、顧客の開発スケジュールを確認し、要所要所で変更がないか確認することが大切になる。

 一方、すでに顧客のラインが完成している場合、ラインそのものに対する変更はフィードバックされることが多いが、担当者が把握していない付帯作業などは知らないうちに変更されているということも決して少なくない。

 営業など、顧客と接する機会の多い部署にお願いし、定期的に変更点がないか確認してもらうことも大切である。

まとめ

顧客の制約事項を把握するのが難しい理由に以下のことが挙げられる。

 1.顧客自身が制約事項をよく理解していない
 2.顧客はすべてを語らない(暗黙の要求事項)
 3.知らないうちに工程変更があり制約事項が変わる
 4.通常はラインは見せてもらえない
 5.顧客も工程設計中の場合は実際に制約事項が決まっていない

 そのため、設計開発者としては、あらゆる手段を講じて、顧客での使われ方に関する情報を収集し、懸念点に関して議論できるようにしておくことが大切になる。議論するためには、既存品と新規品の違いを明確にしたうえで、その違いがどういった影響を与えそうか議論することが大切となる。

 顧客と議論するに際しては具体的な話が必要であるが、早い方がよく、デザインレビューが終了した直後が望ましい。無論、商品設計に必要な諸条件がないと、そもそもの設計開発が始まらない。その際には実際に使われる工程を想定して必要な諸条件を洗い出し、リスト化しておくことが大切になる。

 また、制約条件について議論する際には、既存品と新規品の違いから議論するのとは別に実際に顧客の工程で、既存品の流動のために調整しているようなもの(例えばセンサ)などがあれば、新規品に問題がないか確認していくことも大切になる。

 顧客も開発段階であれば、先手必勝、既存品がないのであるからこちらの商品を使って工程設計してもらうことが大切になる。

 次回は、顧客の要望事項を実際の設計仕様や開発目標に落とし込む際の大切なポイントを紹介し、開発のアイデアをいかに生み出すか、筆者の自論を紹介する予定である。
参考文献
1 )狩野、瀬楽、高橋、辻:魅力的品質と当たり前品質、日本品質管理学会会報「品質」、Vol.14、No.2(1984)、pp.147-156
2 )日本電気硝子株式会社 小山義久ほか:ガラス梱包体、特開2023-129129、2024-5-7、図1 より

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