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型技術 連載「中国の金型業界のリアル」

2026.01.15

第6回 匠とオープンモデル;新旧融合

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杭州谷口精工模具有限公司 小方 暁子

おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。

年末年始の変化

 毎年、地方出身の社員を多く抱える工場では、帰省を急ぐ社員を横目にお客さまと生産現場の調整に追われる中国の年末年始。しかしここ数年は、帰省しない社員が一定数いることや、「この時期はご理解ください」というオープンな対応(開き直り)がすっかり定着したことに加え、物流や情報のスマート化などが進んでいることもあり、右往左往することが少なくなりました。それでも「この加工はオペレーターが帰省してしまったから年内は対応できない」、「帰省ラッシュの渋滞で技術者が初出勤日に間に合わないので納期が遅れる」などの話は、ちらほら聞こえてきます。決して笑える話ではありませんが、この程度で収まってくれていると思えるレベルで、数年前に比べると社会環境、生活習慣、雇用システムなどが少しずつ変化しているのだと感じます。

匠を生んだ環境と発展

 当社がある浙江省の中でも、寧波市や台州市付近は古くから金型企業や金型関連企業が多く集まるエリアで、加工機が1 台もしくは1 種類しかない、日本の町工場のような工場がたくさんありました。鎮(地方の小都市)の中で、NC 旋盤・CNC 旋盤のみ、マシニングセンタのみ、磨き専門、設計専門など、細分化された業者が同地域に集中しており、まるで町全体が1 つの工場でそれぞれの業者が工場内の製造現場のような場所が点在しています。

 専門に特化したこの仕組みは、多くの優秀な技術者を生み出し、また「町内付き合い」(図1)は横のネットワークを強固なものにするとともに、地域で生きていくための「人を育てる」ことにもつながり、「匠人」(中国語読み:ジャンレン。日本の匠の語源とも言われる)と呼ばれる高度な技術と豊富な人生経験・業界経験をもつ職人を育てました。現在このエリアの比較的規模の大きな金型企業は、匠人をうまく活用しているほか、自ら起業した匠人が多いのが特徴です。
図1 「町内付き合い」のイメージ

図1 「町内付き合い」のイメージ

 一方で、伝統的な町内付き合いを維持しているエリアも残っています。彼らは自動化やホームページを活用した宣伝などへの関心は高くなく、町内付き合いと専門特化を重視しています。町内で無意味な競合をつくらずに自然な形で共存し助け合う仕組みは、町内付き合いを重視することで人の異動や経営状態、技術・品質にかかわる部分においてもお互いが「見張り」としても機能しており、良い話も悪い話もすべてがオープンになっています。特に寧波市付近の地域ではこういった特徴が色濃く残っています。

外と内の匠の活用

 当社は、寧波市付近の比較的小規模な1 工程だけに特化した企業、もしくは特定の領域に強みをもつ企業と多く協力体制をしいています。自分の技術や強みをオープンにし、地域および横のつながりもオープンである彼らとの協力体制は、問題を解決したいという目的さえ明確であれば、スピーディで的確な技術交流を可能にしています。

 もともと彼らがもっていた特徴をとがらせ、それをより大きな力に変える提案をした当社がいることで、彼らは熾烈な価格競争や短納期、代金回収などの問題から解放され、安定した生産活動を続けることができるようになりました。当社は受注状況を見ながら本当に必要な設備や人員配置を精査する余裕ができました。また、海外顧客の注文など経験の少ない領域は当社がサポートし、当社が得意としない分野の注文は彼らがサポートしてくれるなど、地域をまたいだ町内付き合いをすることで、今までとは違った分野へ挑戦できるようにもなりました。専門性が高くかつ広い視野をもつ人材を多く配置できない小規模企業にとって、一緒に技術的な問題を分析し、解決に導く仲間が社外にもいるという協力体制は、足りない部分を認め聞き入れるオープンマインドと安心感をもたらし、足りない部分を補ってくれる人たちへの敬意や感謝の心を育て、それがまた社内にも還元されています。

 今後は、検査体制や各種書類などを共通プラットフォーム化し、小さな匠を集めたネットワーク体制をさらに強化していく予定です。

金型業界もオープンモデル

 中国は1 月29 日に新年を迎えました。その前日に当たる大晦日には毎年、中国中央電視台( CCTV)で春晩と呼ばれる年越しカウントダウンイベント番組を放送しています。年末の風物詩である番組内では、今年は二足歩行ロボットが民族衣装をまとい人間と一緒に伝統舞踊を披露し、新旧文化の競演だと注目を集めました(図2)。
図2 二足歩行ロボット

図2 二足歩行ロボット

引用元: Unitree Robotics | Robot Dog_Quadruped_Humanoid Robotics Company

 ちょうどこの時期に中国のAI スタートアップ企業のDeepSeek 社が開発したオープンソースの生成AIモデルも大きなニュースとなり、金型業界でも2 月8日には業界における活用法を発表する企業が出てくるなど、「新しい技術を取り入れよう」、「積極的に情報や意見を発信しよう」という強い流れを感じます。中国の金型業界も情報発信や業界・国境を越えた交流を刷新する「オープンモデル元年」になりそうです。
■取材協力                                                                      浙江省余姚市、紹興市、台州市の金型メーカーおよび金型関連企業。詳細をお知りになりたい方はメールにてお問い合わせください。

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