機械設計 連載「B to B向け機械設計のポイント」
2026.01.19
第3回 新しいアイデアで要望事項を目標に落とし込み具体策を検討するポイント
技術力向上カウンセリングオフィス 布施 裕児
ふせ ゆうじ:代表 1989 年4 月、旭硝子(現・AGC)入社、パソコン用ハードディスク向けガラス基板の加工技術開発、営業などに従事した後、液晶用のガラスを扱う事業部に異動となり、液晶用ガラスの梱包容器/ 梱包材料の設計開発を17 年以上担当。途中、1 年半ほど知財部兼務となり、特許戦略構築、出願推進活動も経験。2023 年4 月、同社を早期退職。現在は中小企業の技術支援や組織改革支援、セミナー講師として活動中。(一社)製造業総合支援 副代表。資格:上級心理カウンセラー[(一社)日本能力開発推進協会]。
はじめに
「開発目的」、「開発コンセプト」を明確にしたうえで顧客の要望事項を要素技術/開発目標/設計仕様に落とし込む必要がある。そのためには現状を整理することが必要不可欠となる。
開発目標は数値化することが大切である。しかし、評価に主観を伴うような項目は無理に数値化する必要はない。それよりも顧客の中でも誰に評価してもらうかの方が大切である。当たり前品質同様、できるだけ具体的な姿を前広に紹介し評価してもらうことの方が大切になる。
また、技術的な開発課題、開発目標を定めたとしても、実際に設計開発を進めるには、何らかのブレイクスルーのために新しいアイデアが必要になる。いかにして新しいアイデアを生み出すか持論を紹介する。
顧客の要望事項を具体的な要素技術/開発目標/設計仕様に落とし込む
図1 に顧客の要望事項を具体的な目標に落とし込むイメージを示す。まず、設計開発の目的を明確にし、現状整理したうえで目標を実現するためのコンセプトを考えることが大切になる。
開発目的とは、そもそもその設計開発は何のために行うのか?ということである。現状を整理し、目的を実現するために何をどうするのか?基本的な考え方(コンセプト)を決めて、具体的な要素技術、開発目標、設計仕様に落とし込んでいくことになる。
例えば、筆者が行った梱包容器のコストダウン開発において、顧客の要望事項をコンセプトから要素技術や開発目標、設計仕様に落とし込んだ結果のイメージを図2に示す。
図2 顧客の要望事項展開イメージ(ガラス梱包容器コストダウン例)
要素技術とは、コンセプトを具現化するために必要な個々の具体的な技術的検討課題や技術的なアイデアのことである。要素技術を決めれば、次はそれを具体的な開発目標に落とし込む。開発の必要がなければ設計仕様としてまとめることになる。
一般に技術ばらしとも呼ばれているようであるが、顧客の要望事項を実現するためにはいろいろな要素があり、それを整理するのが現状整理である。例えば、コストダウンが目的であれば、既存品のコスト分析(現状整理)を行い、効果が大きいと思われる項目についてコストダウンの施策や技術課題(要素技術)をまとめ、目標に落とし込むのである。
顧客の要望事項が性能の改善である場合、その技術要素を整理することになる。例えば、ガラスの輸送中のずれを防止するのであれば、ガラスの保持機構、衝撃吸収、除振機能などの対策が考えられる。現状を整理し、効果が大きいと思われる技術について対策方針、技術課題(要素技術)をまとめ、目標に落とし込むのである。
1.目標の数値化について
目標は具体的に評価できるように数値化することが大切である。機能を10%改善するのと50%改善するのとでは、実施すべき内容も変わってくる。また、開発期間も考慮する必要がある。1 カ月でできることと3 年でできることは自ずと変わってくる。しかし、評価に主観が伴う項目は、開発期間は考慮する必要はあるが、無理に数値化する必要はない。
仮に、梱包容器の開梱作業に10分かかっていたものを8 分でできるようにしてほしい、といった要望をもらったとする。10 分を8 分に短縮するのを作業性改善の目標とするのは適切ではない。それは要望事項であって、10 分を8 分に短縮するために現状分析を行い、例えば〇〇の重量を●▽以下にする、など個々の要素技術やスペックを見直す必要があり、そのための目標を定めることになる。
しかし、設計者が重量を減らしたとして、それを顧客が改善されたと認めてくれるとも限らない。現行品をもとに、どこをどう改善すればよいか、顧客と方向性を定めたら、目標値にこだわらず、実際にサンプルをつくって自分で評価し、効果が見られれば当たり前品質と同様、具体的な姿をできるだけ前広に示していくことの方が大切である。
顧客の方も具体的なサンプルになると評価が変わることがよくある。一般に作業時間の要請も絶対的なものではない。こちらで8 分以内でできることをデモンストレーションしても、「いやいや、誰が毎日やってもそのぐらいではできないでしょう」と言われることもあれば、「8 分で作業するのは初めは難しくても慣れればできそうですね」と認められることもある。結局、改善の程度評価は顧客の主観によるところが大きい。
2.優先順位について
顧客の要望事項そのものに対する優先度は、コンセプトを決める際に絞り込むことになる。例えば、△△性能の改善要請があるが、今回は盛り込まない、などである。当然設計開発の部門だけでは決められない。コンセプトは関連部署と協議し、要望事項の優先順位を決めることが大切である。
しかし、関連部署といっても興味や関心は一様ではない。一般に、実際に設計開発が終了し量産移管した際に受け取る部署が興味や関心は一番高いし、優先順位も判断しやすい立場にある。その部門と共同でコンセプトを作成し、必要に応じてほかの部門の意見も聞きながら要望事項を絞り込むことが大切になる。
顧客の要望事項に優先順位を付けたうえで開発目標と設計仕様に落とし込むことになる。設計仕様は制約事項なので守らなくてはならないものである。設計を進めるうえで、顧客に変更をお願いすることはあり得るが優先順位を付ける対象にならない。
開発項目は、現状整理したうえで必要な対策、開発目標を定めたものであるから、一番効果が得られると思われる項目から優先して進めることが大切になる。
また、設計開発者は機能向上を優先しがちで特に初期の頃はコスト意識が薄くなりがちである。コストダウン設計に限らず、コスト目標は開発目標に入れ、初期の段階からしっかりフォローしていくことが大切である。
3.QFD「品質機能展開」について
顧客の要望事項を具体的な開発目標や設計仕様に落とし込んでいく手法としてQFDが広く知られている。今回紹介した方法はQFDの簡易版とも言える。B to Bの場合、主観を伴う評価は評価者を定めるとよいが、B to Cの場合、そうはいかない。その場合、QFDのような展開が有効になると考えられる。
新しいアイデアを生み出すのに大切なこと
新しいアイデアは問題意識を持って、粘り強く考えていくことがやはり必要不可欠である。何を当たり前のことを、と思われたであろうが、筆者が伝えたいのは、それプラス、無意識の力を借りて得られる「ひらめき」を大事にするということである。また、外部の刺激によりアイデアを膨らませていくが、その際に複数人でのブレインストーミング(ブレスト)よりも関係者との1対1のフリーディスカッションの方が有効だと感じているので筆者の持論を紹介する。
1 .無意識の力を借りて得られる「ひらめき」を大事にする
脳の焦点化1)と呼ばれる現象が知られている。意識は同時に2 つのことは捉えられない。五感を通して外界の世界からの情報を受け取っているが、焦点が当たっているものしか気がつかないということである。
また、脳は快を求めて痛みを避ける1)とも言われている。わからない状態は脳にとってはコントロール不可能なため、危険と判断し安心を求める。そのため脳は空白を嫌う1)とも言われており、「わからない」という状態を脳は嫌うので、答えを見つけられるように潜在意識(無意識)も使って動き出すとも言われている1)。
結局、筆者が言いたい新しいアイデアを生み出すために大切な無意識の力を借りるとは、図3 に示すように問題意識を持って自問自答を行うと、脳の焦点化により情報に敏感になるということである。また、脳は空白を嫌うため、無意識に働きかけ、過去の経験、体験、記憶を総動員して答えを出そうとするその一連の流れのことである。
ちなみに、参考文献1)には、潜在意識は夜寝ている間も活動している、脳は「わからない」という状態を嫌うから誘導ミサイルが自動的に目標を捕らえるように答えを探すと紹介されており、エジソンが寝る前に知りたいことをメモ用紙に書いてから寝ると、朝、目が覚めてそのメモを見たときに、知りたかったことがひらめいたというエピソードも紹介されている。
人間、思いつかないと何も始まらない。思いつきで物事を決めるのは問題であるが、思いついたことは検証したり、人と議論したりすることが大切である。そのことで問題点が発覚するケースもあるが、そこからさらに新たなアイデアが生まれる場合もある。
また、ひらめきは無意識の働きなので、リラックスしているときの方がアイデアは出やすいとも言われている。意識レベルが下がるからである。自問自答しているときは八方ふさがりに感じるが、歩いているときや、電車の中でボーッとしているときにアイデアが浮かぶと、無意識に助けられたと感じる。
2 .ブレストが開発のアイデア出しに向かない理由
アイデア出しの常とう手段として、一般にブレストと呼ばれる方法がある。有名な手法であるが、筆者は開発のアイデア出しに5~6 人で行うブレストは向かないと考えている。
論理的に考えて行き詰まっているのであるから「ひらめき」が必要である。そういった観点で考えれば発想が活性化されるので、ブレストはアイデア出しには向いている。しかし、大切なのは出てきたアイデアを検証することである。検証するにはやはり論理的思考が大切である。
5~6人でブレストを行う場合、アイデアを出した後で検証を行うが、そもそもデータもない状況では、その場では「そのような考えもありか」と思いながら、改めて考えてみると思いつきにすぎず、開発者が疑問に思うような内容であっても、そのブレストの場で検討しようとなった場合、確固たる否定理由がないと、断るのが難しい。何のためのブレストか?となってしまう。
そして、一番の問題は時間的な制約で5~6人程度の複数人でのブレストは頻繁に開けないことである。よく言われているように、アイデアは拡散と収束を繰り返すことで完成度が上がっていく。複数人でのブレストは時間的な問題で拡散と収束を繰り返すのが難しい。結局アイデアに振り回されることになるのが、筆者が考えるブレストが開発のアイデア出しに向かない一番の理由である。
3.1対1のフリーディスカッションを推奨
筆者は5~6人でブレストを1回行うのであれば、5 人と1 対1 で5 回フリーディスカッションした方が有意義だと考えている。自分の中でひらめいたアイデアを拡散と収束を繰り返しながら極力多くの人と、数多く議論することが大切である。
まとめ
・ 要望事項を明確にし、現状整理(技術ばらし)を行い、コンセプトを定め、要素技術/設計仕様/開発目標にまで落とし込む。
・ 開発目標は数値化することが大切であるが、人の主観が評価に入る項目は無理に数値化する必要はない。誰に評価してもらうかよく検討し、評価を前広に受けることの方が大切である。
・ 新しいアイデアを生み出すのには、問題意識を持って粘り強く考え抜くことがやはり必要になる。
・ 考え抜いた結果ひらめいたアイデアは、無意識の力を借りて生み出されたものであり、自信を持って検証することが大切である。
・ 複数人で行うブレストは何回も実施するのが時間的に難しく、結果的にアイデアに振り回されることが多い。
・ 自分の中でひらめいたアイデアを拡散と収束を繰り返しながら、極力多くの人と1 対1 のフリートークを行うことを推奨する。
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次回は実際に基礎設計、基礎開発を進めるうえで大切と思うことを紹介していきたい。
参考文献
1 )山崎啓支:実務入門 NLPの基本がわかる本、日本能率協会マネジメントセンター(2007)