機械設計 連載「B to B向け機械設計のポイント」
2026.03.09
第5回 設計開発者に大切な知財スキル、他社の特許に対する侵害判定
技術力向上カウンセリングオフィス 布施 裕児
他社特許侵害の判定方法
有名な山中伸弥教授のiPS 細胞の数ある特許のうちの一つを図3 に示す2)。この特許は従属項がなく請求項の記載が非常に簡潔である。この特許を用いて侵害判定方法を解説していくが、この特許を例に出したのは、請求項が簡潔で説明しやすいから選んだにすぎない。なお、以下の説明は特許上の説明で、医学的な知識はゼロで書いている。特許の侵害判定をするための架空の話として受け止めていただきたい。
Step1:独立項を抜き出し内容を確認する
請求項の中に「請求項○○に記載の」の文言のない独立項を選び出し、内容を確認するのが最初に行う作業である。気をつけなければならないのは、独立項は1 つとは限らないということである。特に外国の特許は請求項が非常に多いことがよくあるが、請求項の最後の方に独立項が出てくることもあり得る。見落とすことが多いので注意が必要である。
Step2:独立項記載の構成要素を確認する
独立項を選び出したら、その請求項の構成要素を確認する。図3 に示したiPS 細胞の独立項の構成要素は以下のようになる。
1. 体細胞から(構成要素1)
2. 誘導多能性幹細胞を製造する方法(構成要素2)
3. 4 種の遺伝子、Oct3/4、KIf4、c-Myc、及びSox2(構成要素3)
4. 体細胞に導入する工程(構成要素4)
Step3: 自社技術と構成要素に違いがあるかを調べ、侵害判定を行う
表1 のように、構成要素3 だけ違いがあり、自社は3 種類の遺伝子でほかは同じことをしていたとする。この場合、自社技術はiPS 細胞の特許を侵害していない。なぜなら、遺伝子が4種類と3種類で違うからである。
それでは表2 の場合はどうだろうか。今度は逆に1 種類多く、5 種類である。iPS細胞と同じ4 種類に遺伝子▲■が追加されている。この場合は実は侵害しているが正解である。4 種類と5 種類で違うのになぜ? と思われた方もいるだろう。それはiPS 細胞の特許に記載されている項目を自社技術では実施しているからである。
遺伝子▲■はiPS 細胞の特許には記載されていないので、▲■があろうが、なかろうが侵害判定にはいっさい関係ない。4 種類は同じものを使っているので侵害となる。仮に同じ4 種類でも、Oct3/4ではなくOct1/4(そんな遺伝子があるかどうか知らないが)を使っているとすれば侵害していないことになる。
[侵害判定の大切なポイント]
独立項に記載されているすべての構成要素に対して、1 つでも「違い」があれば侵害していない。独立項に記載されているすべての構成要素に対して、「違い」がなければ侵害している。独立項に記載されていない事項は侵害判定には無関係である。
[ 構成要素の表記があいまいで違いの判定が難しい場合]
請求項に記載されている言葉の意味がわからない場合は、明細書でどのように記載されているか確認することになる。明細書を読んでも言葉の意味が明確でないことは本来あってはいけないはずであるが、実際にはよくある。方向を示す言葉、例えば、垂直方向などの記載があったときに、90°ではなく、85°の方向にあれば垂直方向なのか?あるいは、半透明など、程度を含む表記や、そもそも、定義が明確でない抽象的な文言で記載されている場合などである。
そのような場合は、自社の技術を当てはめたときに効果が同じかどうかで判断するのがよい。自社技術は85°の方向にしているのは90°では得られない別の効果があると言えるのであれば違うと言えるが、85°でも90°でも同じなのであれば違いはないと判定することになる。
自信を持って判定できない場合は判断を保留し、知財部員や弁理士の先生に判定をお願いした方が抜けがなく安全である。
まとめ
特許侵害は独立項を抜き出し、構成要素ごとに自社の技術と違いがあるか否かを確認することで判定する。
1. 独立項に記載されているすべての構成要素に対して、1つでも「違い」があれば侵害していない
2. 独立項に記載されているすべての構成要素に対して「違い」がなければ侵害している
3. 独立項に記載されていない事項は侵害判定には無関係である
4. 文言があいまいな場合は同じ効果が得られるか否かで判断する
5. 自信がない場合は専門家に判断を委ねる
「はじめに」で記載したありがちな悩みの回答は以下のとおりである。
1. 同じこともやっているが、自社ではそれ以外の工夫もしている
→ 侵害である。それ以外の工夫をしているかどうかは関係ない
2. 請求項の中に書かれている内容はおおむね同じだが、1 カ所だけ異なる
→ 侵害していない。すべての構成要素が同じでないと侵害にはならない
3. 請求項には該当するが、明細書記載の条件では実施していない
→ 侵害である。特許権は請求項で規定するからである
4. 当たり前のことしか書かれていない。どこに特許性があるのかわからないので判断できない
→ 当たり前のことしか書かれていなくても請求項に違いがなければ侵害である
5. 請求項記載の文言があいまいで、侵害しているかどうか判断できない
→ 実施例を確認しても不明な場合は同じ効果が得られるか否かで判断する
6. 請求項で用途が限定されている。自社では用途は違うが同じ技術を使っている
→ 請求項に記載されている用途と別の用途で使用しているのであれば侵害していない
次回はデザインレビューで大切と思うことを紹介していく。
参考文献
1 )産機テクノス株式会社 武田英俊ほか、吸引装置および回収装置、特許第6376814号
2 )国立大学法人京都大学 山中伸弥、誘導多能性幹細胞の製造方法、特許第4183742号