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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.09.25

第16回 成長を急がせたい若手技術者に経験させたい対外的業務

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FRP Consultant 吉田 州一郎

技術議論を避ける若手技術者

 リーダーや管理職が、若手技術者の技術議論の経験蓄積の必要性を理解し、そのような場面を提供したとする。若手技術者が期待に応え、技術議論を行えれば問題ない。ただ、そうならない場合もある。最も多いパターンが、“若手技術者が技術議論を避ける”だ(図2)。
図2  恥をかきたくない、無駄なことをやりたくないという理由から技術議論を“避ける”若手技術者もいる

図2  恥をかきたくない、無駄なことをやりたくないという理由から技術議論を“避ける”若手技術者もいる

 なぜ若手技術者は、自身の成長にも直結する技術議論を避けてしまうのか。主な理由は2点あると考える。

 1 点目が「自らの技術的な無知をさらすのはプライドが許さない、という専門性至上主義の呪縛」だ。知っていることこそ正義という教育を受けてきた技術者は、技術議論という“知らないこと”をベースに話をすることを必要以上に恐れる。最も恐れるのは技術議論を通じ、“自らの無知”が周りの技術者に知られてしまうことだ。経験がないことも多いので、知らないことは当たり前だと周りの技術者が考えていても、若手技術者は知らない自分を認めたくない。そのため、自分の恥ずかしい姿をさらしてしまうのを避けるため、技術議論を回避してしまうのだ。

 2 点目は「時間のかかる技術議論よりも、結果を早く知りたいという焦り」である。これが冒頭でも述べた“焦り”の一因だ。技術議論は時間を必要とする一方、必ずしも明確な答えが出るとは限らない。この事実に直面した若手技術者の中には、“技術議論に使った時間は無駄だったのではないか”と考える者もいる。この無駄が、“同年代の若手技術者との競争に悪影響を与えるのではないか”という話につながってしまう。成長を焦る若手技術者によくある思考パターンである。よって、時間の浪費につながるかもしれない技術議論ではなく、いかに早く結果に到達するかを急ごうとする結果、技術議論を回避するのだ。

若手技術者を社外に出すことで“社内の目”から解放させる

 ここまで述べてきた背景を踏まえ、リーダーや管理職はどのようにして若手技術者に技術議論をさせる機会を与えるべきだろうか。効果的なアプローチの一つが、“社内の目”から解放させることだ。既述の“恥をかきたくない”、“成長を急ぎたい”という考え方の基本にあるのは、「社内の目」である。恥をかきたくないのは、“社内”のほかの技術者に自分の無知を知られたくないからだ。成長を急ぎたいのは、同年代の若手技術者との競争に勝つためであり、そのためには若手技術者を評価する“社内”のリーダーや管理職に評価されなくてはいけない。つまり、どちらも若手技術者の目線は“社内”にある。よって、技術議論の経験蓄積に悪影響を与える若手技術者のこれらの考えを排除するため、若手技術者を“社内の目”から解放させることが重要である(図3)。
図3  若手技術者を“社内の目”から解放させることで技術議論に取り組ませる環境を整える

図3  若手技術者を“社内の目”から解放させることで技術議論に取り組ませる環境を整える

社内の目がなく、かつ技術的な知識習得を感じられやすい学会聴講参加が望ましい

 社内の目がない環境での仕事は“対外的業務”である。技術的議論を若手技術者に積ませるにはどのような対外的業務が望ましいだろうか。結論から先に言うと“学会聴講参加”である。理由を以下に述べる。

 学会聴講参加は若手技術者が属する企業組織の外であるため、対外的業務となる。社内の目を気にせず、学会発表内容に対して質問をすることも可能だ。社内の目を気にしなければ、若手技術者が技術議論に参加する確率も高まる。

 もう一つの理由は、学会聴講参加によって技術的な知識の習得が期待できることだ。学会ではそのときの業界動向に関する情報も入手できるうえ、さまざまな研究結果に触れることも可能だ。これらは専門性至上主義を有する若手技術者にとって、知識が習得できるという意味でモチベーションが上がりやすい。業務に対するモチベーションを上げることは当事者意識醸成の前提条件でもある。

学会聴講参加の社内報告の場で技術議論を促す

 重要なのは若手技術者を学会聴講参加で終わらせないことである。若手技術者に学会聴講参加をさせた後は、“必ず”技術チーム内で参加報告をさせるよう、リーダーや管理職は指示を出してほしい。この取組みが若手技術者に技術議論をさせるにあたってのポイントとなる。

 学会聴講参加した若手技術者は、社内のほかの技術者と比較して圧倒的なアドバンテージがある。それは、学会聴講で得られた情報を持っていることだ。ほかの技術者が参加していなければ当然のことである。専門性至上主義を有する若手技術者にとって、この情報優位性は大変重要である。ほかの技術者が知らないことを、若手技術者が知っている状況は、通常の技術業務ではまれなことである。このまれな状況は、若手技術者に“余裕”を与えることとなる。いわゆる“心理的安全性”だ。この心理的安全性により、若手技術者は“技術議論を行ってもいい” と考えられるようになる。

 技術チームでの報告は口頭で問題ない。主に以下のような点について報告させたい。

 ①学会で感じた業界の動向は何か
 ②自社の技術業務に応用できる(可能性含め)研究テーマはあったか
 ③聴講した研究発表の中で最も印象に残ったものは何か、またその理由は

 学会聴講参加した若手技術者の発表を受け、リーダーや管理職は参加している技術者から質問するよう促してほしい。技術的な内容に限らず、“なぜそう考えたか”といったものでもかまわない。若手技術者が質疑応答する場を段取りする意識が、リーダーや管理職にとって重要だ。この質疑応答を通じたやり取りによって、技術議論が誘発される。技術的な話をする以上、議論は不可避のためだ。このようにして、気がつくと技術議論をしているという流れにできれば、若手技術者は自然と技術議論の経験値を積むことができる。

 前述のことを何度か繰り返すことで、若手技術者は社内の目がある状態でも技術議論ができるようになる。このようにして、技術チーム内で技術議論が発生し、それに若手技術者も参加することが定常的になり、若手技術者の育成を早められるのはもちろん、技術チームとしての基礎力の向上につながるのだ。

本記事に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 一般的な人材育成と技術者育成の違いを表1 に示す。社内議論という意味では、ディベート研修が一般人材育成では近い考え方だ。ここでは、明確な答えが出ない、または答えが二分するような内容について模擬チーム内で議論をし、どれをチームとしての総意とするかをまとめる、といったものが一例だ。多角的な視点を持つことに加え、チーム内をまとめるための説得、さらにはほかのチームにわかりやすく伝えるといったプレゼン力も含まれるだろう。このような力は組織運営にかかわる経営者や管理職に求められる。
表1  社内議論に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

表1  社内議論に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 一方で技術者育成では、“客観的”であることを最重要視する。技術理論が絶対的な基本であることはもちろん、仮説を基本とする場合、それを確認するための技術評価や分析の選択に関する議論の方法を指導する。また、技術評価や分析を行うにあたり、ある程度の条件や具体的手順を明確にする必要があるため、技術評価計画作成法の習得が必要となる。そして、得られた結果の解析方法に加え、技術議論が行いやすいようグラフ化の方法を指導する。これらの結果をベースに技術議論を深め、技術チーム全体の基礎力の向上を目指す。そのうえで得られた結果がその場限りにならないよう、技術報告書という形で記録として残し、技術伝承を行う業務フロー構築に向けた指導を行う。

まとめ

 当事者意識を持った技術業務の実践経験蓄積は、若手技術者の成長の源泉となる。しかしながら、リーダーや管理職の若手技術者に対する力量不足の懸念に加え、当該技術者自身も技術業務の根幹である技術議論を、恐怖心や焦燥感から避けようとすることがある。このような場合、リーダーや管理職は若手技術者に対外的業務の一つである学会に聴講参加させ、そこで得られた技術情報を社内の技術チームに共有するよう指示してほしい。自らが一番知っているという心理的安全性を得られた若手技術者は、この情報共有の場で技術議論に応じる可能性が高まる。本取組みを繰り返し、若手技術者を早い段階で技術議論に耐えられるよう育成するという視点が、リーダーや管理職に求められる。
参考文献
1)吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol.68、No.2(2024)
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