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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.11.28

第19回 自分の仕事ではないと逃げる若手技術者への対応

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FRP Consultant 吉田 州一郎

自ら課題を見つけ、その解決に向けて実行できる実行力を有する技術者になるための鍛錬には“時間制限”がある

 筆者は今までさまざまな技術業界で、年齢、そして男女問わず技術者の指導をしてきたが、技術者育成に関して個々人の特性を超えた一つの法則を見いだしている。それは、「技術者育成による成長効率は年齢と強い負の相関がある」ことだ(図2)。よって、貴重な若手技術者の時代に、“自分の仕事ではない”という主張で業務選定をしているのであれば、早期に軌道修正させ、課題を見つける力とその解決に向けた実行力を持たせるため、前述の実践経験をさせることがリーダーや管理職にとって大変重要な姿勢だ。さまざまな技術業務という実践を通じた成長は若手技術者のうちでしかできない。自らの偏った経験による考え方の硬直化に加え、頭脳、身体の老化という不可避な変化が技術者育成効率を大きく低下させるからだ。できれば20代、どれだけ遅くとも30代前半までに業務選定の考えを捨て、限界突破を経験しておくことが若手技術者には不可欠だ。
図2 若手技術者育成には時間制限がある

図2 若手技術者育成には時間制限がある

リーダーや管理職は技術業務の目的と必要なアウトプットを活字で示すことで若手技術者に業務指示理解という安心感を与える

 では、これは自分の仕事ではないと逃げる姿勢を示す若手技術者たちに対し、リーダーや管理職はどのように接するべきだろうか。最も重要なのは、技術業務指示内容を若手技術者が理解できるという、安心感を与えることだ。

 すでに述べたとおり、専門性至上主義を有する若手技術者が恐れるのは“自分が知らないこと”を進めることだ。技術業務のすべてを理解したうえで進めるのは不可能だが、業務指示を与えるリーダーや管理職が、前述の若手技術者の恐怖心を和らげるためにできるものの一つが“業務指示内容の活字化”である。

 具体的には、技術業務の目的と必要なアウトプットを活字で示してほしい(図3)。目的を知ることができれば、何のためにその技術業務を行うのかを若手技術者は理解できるだろう。必要に応じて、なぜその技術業務が発生したのかという背景を追加で説明することも望ましい。業務推進の動機づけの明確化は、若手技術者が日々の生活の中で渇望するものの一つである。
図3  活字化した技術業務の目的と必要なアウトプットで若手技術者に当該業務推進の安心感を与える

図3  活字化した技術業務の目的と必要なアウトプットで若手技術者に当該業務推進の安心感を与える

 もう一つ明文化すべきは、若手技術者の技術業務推進の結果から得られるアウトプットに関する内容だ。どのような結果を得られれば、技術業務を完了したといえるのかのゴールと言い換えてもいい。既述の例でいえば、三面図を基本に、2 次元寸法や幾何公差、目視検査や非破壊検査要件、材料規格や工程規格まで記述された子部品図面という表現が、アウトプットの例といえよう。特にこの記述で留意すべきは、“技術的要件事項をできるだけ詳細”に示すよう要求することだ。一言でいえば“図面もつくっておいて”となるところを、図面にはどのような情報を盛り込むべきか、という技術的な要件を中心に、リーダーや管理職が若手技術者に対して丁寧に伝えることが大変重要だ。このように技術要件を丁寧に伝える力は、技術者の普遍的スキルの一つである技術文章作成力の向上に直結するため、若手技術者に対する教育の観点もある。

 加えて、これらを活字化するというのがポイントである。活字化することは、技術業務指示を与える側のリーダーや管理職と、同指示を受ける若手技術者の間に生じる恐れのある誤解やずれを修正する効果がある。活字は口頭と異なり、後から振り返ることができるという最大の強みがあるためだ。加えて技術業務指示を出す際、リーダーや管理職が活字化するだけでなく、前述の目的と必要なアウトプットを口頭で伝え、若手技術者にその場で活字化させるのも一案だ。この重要性と効果については過去の連載2)も参照してほしい。

リーダーや管理職も活字化の力量が不足するケースがあることを認識する

 若手技術者が情報を活字化してわかりやすく伝えるという、技術者の普遍的スキルの一つである論理的思考力が不足するのは、実務そのものの経験不足に加え、連携して業務を推進するという協業の経験が学生時代には少ないためであり、致し方ない側面もある。同時に忘れてはいけないのは、これまで述べてきた技術業務の目的や必要なアウトプットを活字化する側にいる、リーダーや管理職自身も論理的思考力が不足している恐れがあることだ。

 仮に若手技術者とのやり取りの中で、今回紹介したような活字化による技術業務の指示をリーダーや管理職が出したとする。内容がうまく伝わらないと、リーダーや管理職は失望するだけでなく、いら立ち、感情的になることもあるだろう。技術業務推進において、立場を超えて平等に技術的議論ができるのであれば、ある程度の感情のぶつかり合いは許容すべきと筆者は考える。感情がぶつかるということは、当事者意識をもってお互い取り組もうという熱意があるためだ。しかし、リーダーや管理職自身の論理的思考力が不足しているため、若手技術者に指示事項が伝わらないということであれば、これは別問題である。リーダーや管理職も若手技術者育成に取り組む以上、常に自らの力量を謙虚に振り返り、必要に応じて継続的な自己研鑽を行う必要があるだろう。

本記事に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 自分の仕事ではないと逃げる若手技術者最大の問題は、主観的な業務選定を行うことであると述べた。この行動回避に向けた育成からのアプローチを考える。

 表1 に、業務選定回避に関する一般的な人材育成と技術者育成の違いを示す。一般的な人材育成では、業務指示方法に関する管理職研修が業務選定を回避する研修の一つといえる。業務指示方法を見直すことで、若手社員が安心して目の前の業務に集中できる効果が期待されるためだ。ただし、業務指示方法の前提は口頭であることが多く、また近年でいえばテレワークの浸透を想定した、チャットを用いるといったデジタル媒体を活用したことについての留意点を解説するものが考えられる。
表1  業務選定回避に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

表1  業務選定回避に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 技術者育成で最重視するのは技術業界不問の技術者の普遍的スキルの一つである、論理的思考力の鍛錬である。よって、業務指示方法として活字活用を徹底する。さらに、技術者が技術要件を抽出して伝え、また理解することを狙い、必要とされるアウトプットでは技術要件を徹底記載することも重要視する。本点については、技術業務指示を受ける若手技術者だけでなく、指示を与える側のリーダーや管理職にも高いレベルを求める。

まとめ

 自分の仕事ではないと逃げる若手技術者は、業務選定という行動によって自らのプライドを守りたいだけである。若手のうちは技術者の多くが持ち得る心理だろう。しかし、その代償は大きく、自らの成長を止め、年齢を重ねた後になって取り返しのつかない差が周りとつくことになる。このような状況を回避するため、リーダーや管理職は若手技術者に業務を選り好みさせないよう、技術業務指示に活字を徹底活用することで若手技術者の心理的安全性を確立し、さまざまな技術業務を自ら推進するという経験を蓄積させることが肝要である。この経験の蓄積こそが、課題を見いだし、それを解決に導く実行力という、求められる技術者としての将来像に近づくことにつながる。
参考文献
1 )吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol.68、No.2(2024)
2 )吉田州一郎:第4 回 若手技術者が指示事項を理解したのかわからない、機械設計、Vol.67、No.13(2023)
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