よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者が技術業務の進捗級告をしない」場合、「朝一の5分から10分を使って、咋日自らが行ったこと、今日行う予定のことをリーダーや管理職に口頭で報告する」ことを若手技術者に継続的に実施させる。
はじめに
若手技術者が技術業務に熱心に取り組んでおり、業務態度に問題はない。しかし、当人に業務状況を確認すると進捗に大きな課題がある。外見からは熱心に仕事に取り組んでおり、進捗に懸念がないだろうと予想していたので驚くリーダーや管理職も多い。性格が真面目な方が多いといわれる若手技術者を含む技術者でよくあるケースの一つといえよう。同様のことが何度かあると、リーダーや管理職は若手技術者に任せた仕事の進捗について不安になるに違いない。このような状況に陥ってしまう一因の一つが、“若手技術者が技術業務の進捗報告をしない”ことだ。今回は若手技術者の進捗報告を定常業務に組み込み、それを通じて若手技術者育成につなげる対応について考えたい。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者が技術業務の進捗報告をしない」とリーダーや管理職が感じた場合、「朝一の5 分から10 分、昨日自らが行ったこと、今日行う予定のことをリーダーや管理職に口頭で報告する」ことを、若手技術者に継続的に行わせて定常業務にし、口頭での報告をわかりやすくできるよう論理的思考力を鍛錬すると同時に、第三者に情報を伝えることに慣れさせることを目指す。
技術者は老若男女問わず業務コミュニケーションが苦手
大学や大学院を卒業した技術者は、学生時代に所属した研究室で“一人で解決すること”を求められる。実験を行った結果が出た場合、その事実を報告するだけでは不十分で、「君はどう考えるか、考察を聞かせてほしい」 といった趣旨の発言を指導教官から言われた経験のある技術者は多いはずだ。大学や大学院は各学術業界の発展に貢献すべき専門家を育成する教育機関であるため、自らの意見を述べることを強く求められる。そのためには、一人で思考する基本姿勢が必要であり、これこそが専門家の自己鍛錬にも不可欠だ。この考えは大学や大学院を卒業してから時間のあまり経過していない、若手技術者ほど色濃く残る。若手技術者に技術報告書を書かせようとすると、実験/試験や結果といった事実よりも、考察を重視したがるのもここに原因がある1)。
これは“業務コミュニケーション”にも影響を与える。“相談する”よりも“考える”ことを不必要に重視するのだ。相談することは、自分の無知を周知することと同等だという考えが根底にあり、これがすなわち専門性至上主義である。自分が納得するまで考え抜くことを最重要視するため、与えられた技術業務の納期に関する意識が希薄になる。結果として、技術業務の進捗を“報告する”という概念は生まれない一方、外から見ると熱心に取り組んでいるように見えることは独りで抱え込んでいるにすぎず、当該業務の進捗がないという悪循環に陥る(図1)。
図1 外から見ると熱心に取り組む技術者も、相談や報告ができずに考え込んでいるだけのことが多い
前出の状態は教育に由来するため、技術者は老若男女問わず業務コミュニケーションが苦手な傾向にある。既述の通り、特に教育を受けてからの期間が短い若手技術者は業務コミュニケーションに大きな問題を示すことが多い。
若手技術者だけでなく元技術者のリーダーや管理職も業務コミュニケーションが苦手な傾向
すでに触れた通り、老若男女問わず技術者は技術コミュニケーションが苦手であることが多い。そしてこの傾向は、リーダーや管理職といった役職に就いた元技術者も同じである。ただし、組織内で決裁権をある程度有するリーダーや管理職は、技術コミュニケーションの課題が若手技術者と異なる形で顕在化する。それが“叱責”か“放置”だ。これらの言動が若手技術者にどのような影響を与えるのか、そしてリーダーや管理職の意図をまとめると表1のようになる。
表1 業務コミュニケーションに課題のあるリーダーや管理職に見られる言動と意図、そして生じる若手技術者への問題
“叱責”の意図は、“なぜ進捗報告をしなかったのか”という若手技術者への責任追及だ。本来、技術コミュニケーションは双方向で行われるべきで、若手技術者だけにその言動を求めるのではなく、リーダーや管理職側からも歩み寄る必要がある。しかし役職があるゆえ、そのような客観的視点は失われがちで、一方的な指摘となることが多い。叱責は時に必要であり、それに含まれる指摘を踏まえて若手技術者も自らの足りない部分に目を向けるべきだが、結局のところ生じるのは若手技術者の“萎縮”だろう。業務コミュニケーションが苦手な若手技術者が、ますますそれを避けるようになる姿に変わっていくことは想像に難くない。
“放置”も技術コミュニケーションの苦手なリーダーや管理職がよくとる手法だ。言動の目的は、“自分自身の時間確保”である。若手技術者のフォローや指導よりも、自らの業務推進に必要な時間を捻出したいという気持ちが基本にある。これの問題は、“若手技術者自身が業務コミュニケーションの重要性を理解できない”ことにある。リーダーや管理職が当該コミュニケーションをしなくていいという姿勢を示すことは、そのこと自体を許容していると若手技術者に映る。おそらくそのような環境で育った彼ら、彼女らは将来、部下を“放置”をするリーダーや管理職になると考えられる。
業務コミュニケーションよりも成長を急ぎたい若手技術者の心理
進捗報告という業務コミュニケーションができないことについて、若手技術者側の心理を理解することも重要だ。基本にあるのは“成長を急ぎたい”という向上心にある。
筆者が複数の若手技術者と対話をする際、技術業界を問わずよく出てくる発言の一つが、「自分の時間がなく、仕事が積み重なる一方だ」というものだ。基本にあるのは前述の向上心であり、リーダーや管理職としては歓迎すべき心理である。ただし、それゆえ生じる弊害の一つが、「無駄を排除し、早く前進したい」という効率重視の考え方だ。この効率重視の考えが進みすぎると、主に3つの問題が顕在化する(表2)。それぞれポイントを述べる。
一つ目が“主観的優先順位”だ。優先順位を決めること自体は決して悪いことではないが、技術業務全体を俯瞰して見ることのできない若手技術者が、“適切”な優先順位付けを行うことは容易なことではない。結果、自分の成長につながりそうな技術業務を、主観で選定して推進する。専門性至上主義を有する若手技術者によくある思考パターンだ2)。この優先順位付けが、リーダーや管理職の想定するものと異なっている場合、注意を受けることになる。自分の決めた優先順位と異なることを理解した若手技術者は、焦ってそれに取り組むこととなり、結果として技術業務のアウトプットの質も低く、納期も守れないなど、技術チーム全体に波及する課題へとつながっていく。
“意図的後回し”も主観的優先順位と類似するが、こちらはより質が悪い。優先順位が高く、先にやらなければならないとわかっていても、自分がわからないというだけで意図的に後回しにし、指摘されるまで放置するという確信犯的な考えが基本にあるためだ。
“自己完結への執着”はほかの人に相談せず、また専門書を再度調べようという裏付けもなく、現段階で自らの持っている知見で技術業務を完了させようという考え方である。実践的な知識である“知恵”が不足し、また技術業務全体を見る視点を持たない若手技術者が、自己完結で妥当なゴールに到達するのは簡単ではない。その結果、リーダーや管理職から評価や検討のやり直しを求められることになってしまうだろう。効率を求める若手技術者にとって、これほど非効率なことはない。