“主体性”は技術者育成の効率向上に不可欠
読者の方にとって信じがたいかもしれないが、技術者として職を希望する学生の中には、諸先輩や場合によっては教員に研究をやってもらう、という経緯を経て卒業しているケースが実在する。このような学生は自分でテーマを進めるのではなく、
「人にやってもらう」
というロジックが基本にある。このような人材を雇用してしまうと、その技術者は遅かれ早かれ、組織にとって厄介な存在になる。
「今までやってきた研究や実験で一番苦労したことは何か、そしてそれをどのように乗り越えたか」
という質問に対し、学生に主体性がないと即答することは難しいだろう。答えの中身というよりは答え方を見ることで、その主体性を見抜くことが採用側にも求められる。
即答できないといっても、考えるための時間が純粋に必要というケースも当然ある。その場合、面接を行っている管理職は、
「例えば、主として行っていた研究や実験にはどのようなものがあるか、という紹介からでもいい。その中から、特に苦労したことに関連するものを紹介してもらえないか」
といった、発言を誘導することも適宜行ってほしい。話すことが純粋に苦手で言葉が出ない、という学生に対する救済措置である。
昨今あるのが、生成AIなどでもっともらしい回答をあらかじめ作成し、それを暗記している学生だ。このような学生はコミュニケーション力も高く、一見すると能動的に研究や実験に取り組んでいると思うかもしれない。このような学生が本当に能動的に研究や実験に取り組んだかを確認するにはどうすればいいか。最も基本的なものは、具体的な話に入っていくことだ。使用する機器や器具、または実験の結果得られるデータの見方や解析方法など、技術的な中身に踏み込んでほしい。現段階での生成AI は専門的な議論は苦手な傾向が強く、このような問いかけを想定していない。よって、能動的に取り組んでいない場合、具体的な話に近づけば近づくほど“しどろもどろ”になるだろう。
“忍耐力”は成功体験よりも試行錯誤の経験で語られる
忍耐力を見るにあたり、一例として単純計算を繰り返させる内田クレペリン検査などがある。これはこれで参考になるが、“技術者としての忍耐力は面接で評価しよう”という観点が重要だ。ポイントとなるのは、前出の問いかけに対する“試行錯誤の経験”の量だろう。成功体験では“ない”ことに注意が必要だ。
研究や実験はうまくいくか否かがわからないことを前提として行うことが一般的で、特に想定外のことが起こった際、その原因究明を行うことをはじめとした試行錯誤が必要となる(図3)。この試行錯誤にあたって最重要なのは忍耐力であり、言い換えれば試行錯誤として語られる経験量は忍耐力と比例関係にあるといえる。面接において管理職は、学生の試行錯誤に寄り添いながらどのくらい試行錯誤したのかをうまく引き出すことにチャレンジしてほしい。人任せで研究や試験を行っているようでは、語れる試行錯誤の経験量には限界があるはずだ。面接官である管理職が引き込まれるような試行錯誤が語られるのであれば、その学生の忍耐力は高いレベルにある可能性が高いと判断して大きな問題はないだろう。
図3 忍耐力は成功体験ではなく、研究や実験での試行錯誤の経験量と比例関係にある
“課題解決力”はその取組みを真摯に伝えられるかで決まる
能力本位採用においてよく語られるものの一つが“課題解決力”という言葉だ。この力は、実際にどのくらいの課題を解決できたかという実績を持って判断することが望ましい、というのが一般的な理解のようだ。しかし技術者育成では異なる見方が必要だ。
最初に理解すべきは、課題解決力は“課題を実際に解決した実績”で判断するものでは“ない”ということだ。成功体験そのものは当然評価に値するが、より重要なのは課題解決に向け全力で取り組み、結果は別としてその経験を“真摯”に面接官である管理職に伝えられるか、だ。脚色は必要ない。泥臭く、そして粘り強く、課題を解決するためにできることに全力を尽くしたという“事実”について、誠意を持って伝えることの方がはるかに重要なのだ(図4)。
図4 課題解決力は実績よりも経過を丁寧に伝えられる真摯さで判断する
これまで述べてきた通り、“主体性”を持って研究に取り組むことは学生にとって必要だ。さらに、その取組みの中で生じた課題の解決に向けた自らの経験を主観的にならず、事実を丁寧に伝えることができることは、技術者として勤務を開始した後の課題解決力の向上に直結する、“報連相”ができることを示している。
企業における課題解決力は、結局のところ“ほかの技術者と連携ができるか”による。技術者やこれから技術者になる学生は、個人の力で何かしようという閉鎖的な考えにこだわってはいけない。必要に応じて自らの課題解決への取組みを客観的視点から真摯に伝え、周りからの助言を求めることは、多くの学生、特に理系学生が苦手とする部分だ。課題解決に向けた自身の取組みを客観的視点から誠意を持って話せることは、入社後のコミュニケーション力と関連があるのは意外かもしれない。
“論理的思考力”は難しいことをわかりやすく伝える力
論理的思考力はここまで述べてきた能力本位採用を実現するために必要な対話の基本となる力で、難しいことをわかりやすく伝える力量だ。新卒や第二新卒の技術系求職者が企業の求める即戦力を有していることは極めて限られている。しかしその事実をさらすことはプライドが許さないのが、学生を中心とした前出の求職者の本音だろう。このような状況でよく見られる採用面接での言動が、
「専門用語を列挙して、自らの知識の高さを知らしめようとする」
ことだ。状況を考えればこれを頭から否定することはできないが、企業組織として求められることは、
「一見難しいことの中から要点を抽出し、相手にわかりやすく伝える」
ことだ。これが入社後の報連相の基本となる。この力量は面接で判断しやすい。一言でいえば、言葉のキャッチボールがやりやすいかだろう。面接官の質問に過不足なく答えられるか、が代表的な判断基準だ。
能力本位採用を実現するには面接する側の力量も必要
ここまで述べてきたのが能力本位採用を実現するにあたり面接で判断いただきたい点だが、ここでもう1つ留意すべき点がある。それは、
「面接する側も相応の力量が必要」
ということだ。最も重要なのは“論理的思考力”で、学生にわかりやすい質問を投げかけ、回答を引き出すには相手に寄り添いながら本音に近づいていくという高いコミュニケーションスキルが求められる。結局のところ採用判断をする側の力量が不足すれば面接相手の力量を見極められず、優秀な学生の場合、採用側の力量に疑問を持たれることも否定できない。結果として、望ましい力量を有する技術者が入社する可能性は低下する。
まとめ
能力本位採用は企業の生き残り戦略として重要なのは間違いない。企業の技術力を担う技術者の採用において、その重要性はさらに増すと考えられる。技術職や技術系社員を含む技術者の採用では技術専門性に目がいきがちだが、学生時代に学んだことが企業でいきなり活かされることは極めてまれであろう。それよりも、主体性、忍耐力、課題解決力、論理的思考力といった、主として研究開発やそれに準ずる技術業務を推進する際、技術者に求められる基礎的な力量を軸に採用判断をすることが肝要だ。例えば課題解決力というと、その実績で判断するものと考えがちだが、学生時代の研究や実験における試行錯誤の“経験量”で判断するべきである。面接官である管理職が、試行錯誤の様子を画像化できるような話ができる学生は、技術者として活躍できる資質を持っている可能性が高いだろう。このように技術者の採用においては、総合職を想定した採用戦略と異なる部分も多い。
「今までやってきた研究や実験で一番苦労したことは何か、そしてそれをどのように乗り越えたか」
という面接での問いかけにより、前出の4 つの力量を見極めてほしい。そしてこの力量見極めの精度を上げるためには、面接官である管理職側の技術者としての普遍的スキルの高さも必要であるため、日常的に鍛錬すべきことを加筆しておく。技術者の能力本位採用の参考になれば幸いである。
参考文献
1 )吉田州一郎:第14 回 技術者の企画力発揮に立ちはだかる壁、機械設計、Vol. 67、No.6(2023)
2 )吉田州一郎:第3 回 技術業務報告をわかりやすくする技術者の論理的思考力とは、機械設計、Vol. 66、No.7(2022)