icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2026.06.11

第27回 考えることが苦手な若手技術者に任せてみたい技術業務

  • facebook
  • twitter
  • LINE

FRP Consultant 吉田 州一郎

“考えるのが苦手”な技術者は大量の単純作業を継続するにも問題がある 

 “考えるのが苦手”な技術者には、単純作業をあてがうという選択肢を選ぶケースもあるが、残念ながらそれもうまく機能しないことが多い。 

 周りから見て“考えることが苦手”と映る技術者であっても、それを本人が認めることはまれだ。むしろ自分で“考えたい”が、上司が悪い、労働環境が悪い、ほかの業務が忙しくて時間がない3)といった主張を繰り返すだろう。これは技術者が育成対象となるために必要な“当事者意識”がその要素の一つである可能性があり、決して悪いわけではない。何とか“自分で考えて”技術業務を前に進めたい、という気持ちが根底にあるからだ。ただ、この“考えたい”という欲求が単純作業には悪影響を与えることになる。最大の問題は、 
 「ミスをしやすく、それを隠す」
ことにある(図2)。原因は“考えたい”という気持ちが常に脳の一部を使ってしまい、目の前の単純作業に対する集中力が低下することにある。単純作業はちょっとした変化を見逃さず、同じことを繰り返す集中力を長時間維持することが不可欠であり、上の空で業務を行うとミスをすることが多い。さらに悪いことに、専門性至上主義によって“自分はこんなミスをするわけがない”という思考回路で、起こしてしまったミスを隠そうとするのだ。このような行動をする技術者に、リーダーや管理職は安心して大量の単純作業を任せるわけにはいかないだろう。よって、技術者育成の観点では異なる技術業務をあてがうことが必要となる。
図2  単純作業を行いながら“考えたい”という欲求を持ちすぎると集中力が散漫となりミスをしやすいうえ、それを隠す傾向がある

図2  単純作業を行いながら“考えたい”という欲求を持ちすぎると集中力が散漫となりミスをしやすいうえ、それを隠す傾向がある

“考えるのが苦手”な技術者には規格を基本とした“決められたことを正確に”行う多様な技術業務経験を積ませ、実務力向上を目指す 

 ではどのように対応すればいいのだろうか。まずは、技術者を育成するため強制的なコミュニケーションと、活字化による情報伝達を徹底させるという前提はあるが、
 「規格を基本とした、決められたことを正確に行う技術業務経験を積ませる」
のが一案だ。ここでのポイントは、考えることの苦手な技術者の良き伴走者ともいえる、 
 「回答となる規格が存在する」
ことにある(図3)。すべてのケースに当てはまるわけではないが、自ら考えることが苦手な一方で専門性至上主義を有する技術者は学歴という点では高い傾向にある。つまり、模範解答があり、それを軸に考えることは、彼ら、彼女らがどちらかというと得意としてきた“試験勉強”に近い。そのため、規格内容を理解し、それに基づいた技術業務を行うことは不得意としないことが多い。ここでいう規格として代表的なものは試験規格だ。JIS、ISO、EN、ASTM などがその代表例である。
当該規格内では、
 ・どのようなことに留意すべきか
 ・どのような手順で行うべきか
 ・ どのようなことをアウトプットとしてまとめるべきか
ということが明記されている。規格に基づいて技術業務を行う技術者は、ゼロから考える必要はない。なお、すべてに該当するわけではないが、 
 「日本の規格であるJISやアメリカの規格であるASTMは内容が細かく記載されている傾向にある」ことは加筆しておく。

図3 模範解答でもある規格をよりどころにすれば、考えることの苦手な技術者も試験勉強と同じ要領で技術業務推進力を高めることができる

図3 模範解答でもある規格をよりどころにすれば、考えることの苦手な技術者も試験勉強と同じ要領で技術業務推進力を高めることができる

 規格に基づいた技術業務は、研究開発を中心に“多様”となるのが一般的だ。同じ規格に基づいた技術業務だけでは、前出の単純作業と同じ状況になりかねないが、さまざまな技術業務を担当することにより、集中力が散漫になる確率が下がる。さらに規格に基づいた技術業務は、複数回繰り返されることもあり実務力の向上にも効果が出やすい。 

 いざとなれば模範解答である規格が存在する状態で、多様な技術業務を繰り返しながら実務力が高まる実感を得た技術者は、 
 「自分はさまざまな技術業務を担当し、それによって成長している」
という感覚を得るはずだ。これが、技術者育成で極めて重要な技術業務という実務経験による成長実感へとつながっていく。

規格をベースにした技術業務を担当させる場合、若手技術者自身に手順書を作成させて当該業務への理解を深め、データを記録し、その妥当性を検証できるようにする

 規格を基本とした技術業務の例を示す。今回は材料試験(試験片ベースのもの)を例としたい。最初に若手技術者には材料試験規格を徹底的に理解してもらう。そのうえで、若手技術者自身にその規格の内容を自分用の手順書として落とし込んでもらうことが肝要だ。この書類の存在によって、リーダーや管理職は、 
 「若手技術者が規格をきちんと理解しているか、そして手順書を作成した場合、その内容が妥当か」ということを確認することが可能となる。その後、規格に基づいた材料試験を推進させるが、ポイントとしては、
 「材料試験規格の中で重要と思われるデータを強制的に(可能であれば自動で)記録する」
というセーフティーネットを張っておくことだろう。既述の通り、考えることが苦手な若手技術者はミスが多い。それゆえ、出てきたデータが信頼に値するものなのかを、後から検証できる状態にする必要がある。途中経過のデータや、ポイントとなる工程や結果を画像、動画といった形式で残しておき、結果に違和感のあったものについて、これらの記録データを検証できる体制を整えておくことが一案だろう。 

 このようにして業務を後検証できるという前提でルーチンにできれば、もともと勉学が得意であった技術者を戦力とすることができ、結果として企業における技術業務推進への貢献をさせることができるようになる。

まとめ 

 考えることの苦手な技術者というと負のイメージばかりが先行しがちだが、育成を担当するリーダーや管理職は、それよりも彼ら、彼女らをどのように活用するか考えることに注力すべきだ。考えることが苦手な若手技術者の多くは、模範解答があれば自信を持って技術業務を推進することも多く、今回はその模範解答として規格を取り上げた。それ以外にも、技術報告書や社内の実験・試験の手順書もそれに該当する。すでに述べた通り、データの再検証ができるという前提を構築した後は、まずは規格に基づいたさまざまな技術業務を若手技術者に経験させてほしい。それらを通じ、立ち止まって考えることではなく、考えながらも前に進むという、技術業務推進の鉄則に若手技術者が気づく可能性も十分ある。ここまでくれば考えることが苦手な技術者から脱皮するかもしれない。 

 今回解説した考えることが苦手な若手技術者の特性をよく理解いただいたうえで育成戦略のタイミングを熟考し、必要に応じて規格に基づいた技術業務をあてがうことに挑戦いただければと思う。
参考文献
1 )吉田州一郎:第1 回 技術者の普遍的スキルとは何か、機械設計、Vol. 66、No. 5( 2022)
2 )吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol. 68、 No. 2( 2024)
3 )吉田州一郎:“「考える時間が無い」と主張する技術者”、技術者育成研究所(2022)、https://www.engineer-development.jp/column-2/no-time-to-think、(参照 2025-09-09)
31 件
〈 2 / 2 〉

関連記事