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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2026.07.07

第28回 パワハラが怖くて若手技術者育成に取り組めない

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FRP Consultant 吉田 州一郎

若手技術者育成の取組みがパワハラになるリスクを低減させるには 

 若手技術者育成の取組みがパワハラになることを回避するには、育成する側のリーダーや管理職の意識改革に加え、若手技術者が自らの思考の癖を理解することが出発点だ。つまり、両方向からのアプローチが必要と言える。リーダーや管理職は“自己歴史の脚色”を、若手技術者は“無知の否認”を認識することがポイントとなる(図2)。次にそれぞれについて概要を述べる。
図2  パワハラ認識の根底にある若手技術者と育成担当者であるリーダーや管理職の思考

図2  パワハラ認識の根底にある若手技術者と育成担当者であるリーダーや管理職の思考

リーダーや管理職は“自分が若手の頃は”という枕詞のつく話を自重する

 若手技術者育成に取り組むリーダーや管理職に必要なのは、“自己歴史の脚色”からの脱却だ。より具体的にこの内容を示すと、“自分が若手の頃は”という枕詞がつく話を自重することである。 

 リーダーや管理職の基本心理から話をする。若手技術者を対象に育成活動をするにあたり、 
 「自分が若手技術者の頃はもっと大変だった」と思うことはないだろうか。例えば残業がないのが当たり前の今の若手技術者を見ると、勤務時間だけを考えれば事実の部分もあるだろう。しかしここで盲点がある。それは、
 「客観的に見ると、リーダーや管理職当人が思っているほど、若手技術者の時代に大変な思いはしていない」
ことも少なくないことだ。もちろん大変な思いは誰でもあるだろう。しかし問題なのは、その過去の経験はさまざまな“脚色”をされ、意識せず“苦労の部分に下駄を履かせられる”ことが多いことだ。そして、 
 「自分が若手技術者の頃は、これくらいはされた、言われた」
という心理が働き、結果として
 「自分が受けた仕打ちよりも厳しい/重いものを、相手(若手技術者)に与えてしまう」
ということが生じる。この思考から行動への一連の流れが、若手技術者育成の取組みをパワハラに変質させることは理解に難くない。“自己歴史の脚色”について日々意識をしている筆者自身も、当該呪縛から逃れきれない部分があり、葛藤をしている。このようなことを意識していないリーダーや管理職は抑止思考がないため、より顕著な言動として表面化している可能性もある。若手技術者育成を行う側は、前出の思考の癖を抑え込むという継続的な労力が不可欠なのだ。

若手技術者は “知らない”自分を認める

 一方、若手技術者に必要なのは、
 「わからない、知らないという自分を認める」
姿勢である。すでに何度か触れているが、若手技術者の多くは専門性至上主義を有している3)。これにより、知識習得に異常なまでの執着をする一方、実践には二の足を踏むことが多い。このような考えに執着していると、若手技術者はいつまでも“知恵”が身につかない。知恵とは単に知っているという“知識”ではなく、知識を応用して実践的な行動まで結びつけられる、技術者の普遍的スキルの根幹とも言える重要な部品だ4)。 

 このように専門性至上主義に縛られている若手技術者は、育成段階において、
 「リーダーや管理職からの指示事項や指導内容を理解していなくても、理解したように振る舞う」傾向にある。確認すべき点、理解できていない点があったとしても、“質問をすること”は“知らない”、すなわち“無知”と認識されると考えるのが専門性至上主義を有する若手技術者の特徴だ。その後、若手技術者が指示事項や指導内容がわかっていなかった、誤解していたということが明らかとなり、当然ながらリーダーや管理職から注意を受ける。前出のパワハラの定義から見ても、妥当な対応だ。しかし、この指摘に
 「理解したと言ったのになぜできないのだ」というニュアンスが入ると、専門性至上主義を有する若手技術者としてはプライドを傷つけられたと感じる。彼ら、彼女らにとって“できない”、ということは無知と同じだからだ。さらにこれが複数回生じると、リーダーや管理職にも不満がたまってくる。当然言い方がきつくなる。このようにして信頼関係が揺らぎ始めると、受け手である若手技術者は、客観的に見れば妥当な指導や指摘に対してであっても、パワハラと認識する確率は高まるだろう。 

 以上の通り、若手技術者は自らの自尊心の高さから、育成を担当するリーダーや管理職との情報のやりとりに難が生じやすい。その結果として生じる指摘や指導の積み重ねが苦痛となり、自尊心を守るための逃げ道として、それらをパワハラと認識し、自らには非がないという考えに傾くことになる。期待し、時間もかけて指導や指示を行ってきたリーダーや管理職にとって、これほど不幸なことはない。

 ここで若手技術者に求められるのは、 
 「無知な自分を認め、教えを請うことは恥ずかしいことではない」
と強く意識することだ。学生時代に学んだことがそのまま企業で役立つことは極めてまれであり、知らないことが多いのはやむを得ない。それをリーダーや管理職から指摘されたとしても、それは自分が知らないことだと認め、質問するということを無理にでも自分に課してほしい。それを複数回繰り返せば、専門性至上主義を有していたとしても、わからないまま進めるといったことは減少していくだろう。 

 技術者育育成を通じてリーダーや管理職から知識を習得し、その知識を活かしながら技術業務に積極的に取り組んで実践経験を積んで知恵を獲得する。これこそが、若手技術者育成において、若手技術者側に求められる姿勢だ。自らの小さな自尊心を守るために、パワハラという言葉に逃げてはいけない。

パワハラにつながらない若手技術者育成に向けて

 ここまで述べてきた通り、若手技術者育成の取組みがパワハラと認識されないためには、育成する側のリーダーや管理職だけでなく、若手技術者も自らの思考の癖を認識し、行動を変えることが求められる。しかしながら、若手技術者を前進させるにあたってはリーダーや管理職が“先行して”動かなければいけない、という現実は避けられない。そのため、リーダーや管理職の言動が若手技術者からパワハラと認識されることを避けながらも、育成を進める戦略について述べたい。 

 一言でいえば、 
「育成を行うリーダーや管理職は、自分の若い頃に受けてきた育成・指導経験はひとまず忘れて若手技術者に向き合い、若手技術者と意見交換をする」
ことだ(図3)。自分の経験に過度に依存せず、例えば外部の人材育成研修を受けたり、書籍を読むことなどを通じて、今の人材育成に関する見聞を広げたりするのもいいだろう。筆者の過去の連載を読んでいただくのも、その一助になるかもしれない。
図3  リーダーや管理職は自らが受けた育成・指導経験をいったん忘れ、目の前の若手技術者と意見交換を繰り返すことでパワハラと無縁な若手技術者育成体制を構築する

図3  リーダーや管理職は自らが受けた育成・指導経験をいったん忘れ、目の前の若手技術者と意見交換を繰り返すことでパワハラと無縁な若手技術者育成体制を構築する

 その上で、育成対象である若手技術者と向き合う。そこでは育成に関する昨今の情報も踏まえつつ企業組織として求められる技術者像を若手技術者に示しながら、育成のやり方について若手技術者と意見交換をしてほしい。もちろん若手技術者の意見をすべて許容する必要はない。その狙いは若手技術者から優れた意見を引き出すことではなく、“若手技術者育成では、若手技術者自身が主人公である”ことを意識させることにある。つまり“当事者意識の醸成”だ。意見を求められ、部分的にでも自分の意見を取り入れた育成が進めば、それは他人事ではなく、自分事になる。 

 このようにしてリーダーや管理職が自分の過去をかざすことなく、面と向かって意見交換を求めてくることを複数回経験すれば、若手技術者もその距離を縮めてくるに違いない。そして、ある程度の信頼関係が構築できた時点で、今回述べた“若手技術者の専門性至上主義へのこだわり”を“一般論”として伝え、安心して質問をしてほしいと伝えてほしい。このような複数回のやりとりを通じ、若手技術者育成をパワハラと無縁な形で進めることを目指してほしい。

まとめ

 若手技術者育成とパワハラは表裏一体の関係にある。若手技術者に対し、ある程度の強い言葉での指摘や指導は不可避であり、そのような言葉を糧として若手技術者も成長しなければならない。重要なのは育成を行うリーダーや管理職が、自分の若い頃に受けた育成・指導経験に脚色をしがちであり、結果として若手技術者に対する対応が厳しくなりがちという事実だ。これが若手技術者育成の取組みをパワハラというものに変化させてしまうきっかけとなる可能性が高い。

 これを念頭に置きながら、リーダーや管理職は自らの経験をとりあえずいったん封印し、技術者育成や人材育成に関する最新の情報を取り入れ、若手技術者と向き合い、意見交換をしてほしい。このようなやりとりを繰り返して信頼関係を構築し、必要に応じて若手技術者として陥りがちな専門性至上主義への執着について伝えてほしい。両方向の視点からのやりとりが機能すれば、若手技術者育成の取組みはパワハラとは無縁なものになるだろう。
参考文献

1 )“2024 年度 教育研修費用の実態調査”、産労総合研究所(2024)、https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/kyoiku/kyoikukenshu/pr2410.html、(参照 2025-10-06)
2 )“職場におけるハラスメント対策パンフレット”、厚生労働省(2024)、https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf、(参照 2025-10-06)
3 )吉田州一郎:第2 回 普遍的スキルの鍛錬を阻害する技術者の癖、機械設計、Vol.66、No.6(2022)
4 )吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol.68、No.2(2024)
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