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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.01.15

第5回 若手技術者が指導する新人技術者への指導時の禁止行為

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者に指導をさせている新人技術者に指導が必要」と感じた場合、「若手技術者を飛び越えない」ことを徹底する

はじめに

 定期的に採用を行っている企業において、毎年4 月は新入社員を受け入れる時期である。技術職として企業に雇用された新入社員、すなわち新人技術者もその社会人としての一歩を踏み出すことになる。受け入れる企業側は、各種基礎研修を受けさせながら職種に依存しない社会人としての基礎的なことを学ばせる。

 その後、新人技術者は技術的な業務を行うため技術部門に配属される。ここで多くの企業が採用するのが、伴走型のOJT教育体制だろう。具体的には年齢が比較的近い若手技術者の下に新人技術者をつかせ、若手技術者の仕事を手伝いながら技術者としての仕事の基本を学んでいく。年齢の比較的近い技術者同士を組ませることは、コミュニケーションが円滑になりやすいといった観点からも望ましいといえるだろう。実際は人としての相性や個々人の性格の違い、社風などによりうまく機能する場合、そうでない場合があると思うが、ここは臨機応変に進めていくことが肝要である。

 その一方で、このようなOJT教育においてリーダーや管理職が行ってはいけないことがあるのも事実である。今回は若手技術者に新人技術者の育成を任せた際に行ってはいけないことについて述べたい。

若手技術者戦力化のワンポイント

「若手技術者に指導させている新人技術者に指導が必要」と感じた場合、「若手技術者を飛び越えない」ことの徹底が重要だ。若手技術者といえども、指導者として任せた以上、リーダーや管理職は状況に応じた言動が求められる。

若手技術者は新人技術者の指導を通じて必ず成長する

 筆者のこれまでの技術者育成の経験から間違いなく言えるのは、若手技術者による新人技術者の指導は多くの果実をもたらすことだ。

 今までは経験も年齢も下だったという心理状態、いわゆる心理的安全性を獲得した状態で、ミスをすることもある程度許容され、叱責されることもあるが、成長に対する期待を感じる状態にあった若手技術者。そこに、さらに若い、しかも経験もまったくない新人技術者が配属されることは大きな環境変化になる。自分は若手だからまだいいと考えていたことが、新人技術者の登場によってそうではなくなる。この環境変化は、若手技術者の成長に不可避なものとなる。その理由を考える。

若手技術者は自分以外のことで叱られることに衝撃を受ける

 既述の環境変化によって若手技術者が成長のきっかけをつかむ一つの可能性が、「自分のこと以外で上から叱られる」という経験だ。個人プレーが推奨され、一人で考え込むことを正義としてきた若手技術者が、社会人としての壁に初めてぶつかるといっても過言ではない。そのくらい衝撃を受ける若手技術者は多いようである。

 新人技術者を預かった以上、その指導責任は若手技術者にある。新人技術者がミスをすれば、その指導を行った若手技術者にも責任が生じるのは世の常である。このことを重く捉え、若手技術者が委縮する必要はまったくないが、新人技術者が行うことに対して「若手技術者も当事者意識を持つ」ことは理解しなければならない。このような意識こそが将来的に技術チームを率い、適切な管理業務を行う技術マネジメントの根幹となる。若手技術者の段階からこのような意識を持たせることは、将来にわたって技術を強みとする企業の競争力の源泉となり続けるだろう。

若手技術者を飛び越えて直接新人技術者に指導をしたくなるリーダーや管理職

 ここまで述べてきたことがうまくいくケース、主として人間関係的な課題からうまくいかないケースも存在する。これは実際に行ってみないと何ともいえないため、リーダーや管理職は慣れない指導者の役割を担っている若手技術者を、丁寧にフォローすることが求められる。ただ、リーダーや管理職がこの育成体制を破壊してしまうリスクは、その立場にある方々は知らなくてはいけないだろう。

 OJT型教育体制を崩壊させるリーダーや管理職からの一番多い行動が、「若手技術者を飛び越えて直接新人技術者に指導を行う」ことだ。リーダーや管理職は、若手技術者の不慣れな指導に日々不満を募らせる可能性がある。

 ・自分だったら違う指導方法を取るだろう
 ・新人技術者に伝える情報の精度が低い
 ・なぜそんな非効率なやり方をするのか

といった考えを、自分基軸の絶対正義として設定してしまう。自制できるリーダーや管理職が、心の中でこのようなことを考えるのはまったく問題ない。しかし、ある程度熱意があり、しかも指導力を有するリーダーや管理職の中には我慢できず、仮に同じ業務に関することであっても、若手技術者が行った指示や指導と「異なること」を新人技術者に対して直接伝えてしまうのだ。責任を持って部下を育てようとしている若手技術者を飛び越えると言い換えることもできよう(図1)。この飛び越えは問題しかないため、リーダーや管理職は絶対に行ってはいけない。
図1  若手技術者を飛び越えた新人技術者へのリーダーや管理職の直接指導は百害あって一利なし

図1  若手技術者を飛び越えた新人技術者へのリーダーや管理職の直接指導は百害あって一利なし

新人技術者の指導者はあくまで若手技術者

 飛び越えることの最大の問題は「新人技術者から見て指導者が誰か見えなくなる」ことだ。技術者育成において最重要なのは「ぶれない」こと。Aさんに「左」と言われ、少し進むと今度はBさんが出てきて「右」と言われるような指導では、若手技術者は混乱してしまう。このようなぶれを抑制する意味でも、指導者は1 名に定め、それ以外の人間は、直接的な指導に関与しない姿勢が求められる。最後は誰の言うことに耳を傾けるかを新人技術者に迷わせないことが、新人技術者をしかるべき方向に導くにあたっての最低条件であり、技術者育成の基本中の基本だ。

軌道修正が必要な場合、新人技術者に直接行わず必ず若手技術者に対して行う

 ただし、リーダーや管理職から見ていてどうしても問題が生じそうである、またはすでに問題が生じているが抱え込んでいるように見えることがあるだろう。この場合は躊躇なく軌道修正を図ることが求められる。具体的には、リーダーや管理職は新人技術者のいないところに若手技術者を呼び出し、個別に軌道修正の指示や相談事項への傾聴と必要に応じた助言を与えることが必要となる。

 リーダーや管理職が若手技術者を呼び出して話をしていることを、新人技術者に悟られないようにするといった配慮が、リーダーや管理職にとって不可欠であるのは言うまでもない。

効率を求めて若手技術者と新人技術者を同席させた指導は最悪

 リーダーや管理職の中には、「経験の浅い若手技術者にそれほど気を遣う必要はない。むしろ、新人技術者も含めて、同時に指導した方が“効率的”だ」と考える方々もいるようである。

 しかし、何度も述べているとおり、技術者の育成において“効率”という考えはご法度である。冷静に考えていただきたい。目の前で本来の指導役の若手技術者が、リーダーや管理職から指導を受けている姿を見たとする。新人技術者から見て、指導役といわれる若手技術者の役割とはいったい何なのだろうか。結局、リーダーや管理職から見ればまだまだ不足があり、そのような人から学んでいる自分は大丈夫なのだろうか、という不安を新人技術者であれば大なり小なり感じるのではないだろうか。

 このような経験を通じ、若手技術者と新人技術者の間の指導者と被指導者という関係だけがくずれ、不適切な親近感だけがわくことになりかねない。言い換えれば友達感覚となり、新人技術者は「若手技術者の人たちの言うことをきかなくていいか」という考えを持つようになる。友人感覚であるが、指導者としての信頼は失っている状態といえよう。新人技術者が若手技術者を飛ばして、リーダーや管理職に相談をするようになったとすれば、まさにこのような関係性を、意図せずリーダーや管理職が後押ししたことになる。

 短期目線だと確かにこれは効率的かもしれない。しかし、本当にリーダーや管理職は新人技術者を事細やかに育成し続ける体力と余力があるだろうか。リーダーや管理職の役割は若い人を育てるための“仕組みづくり”であり、実際の指導に関するやり取りの相手になることではない。そのような役回りを若手技術者に回せるような世代交代が進まない組織は、すでに技術者育成という観点からも問題が多く存在していると断言しても過言ではない。

まとめ

 適宜フォローしながらも、新人技術者の育成を若手技術者に任せる。伴走型OJT教育体制は、成長を感じられないと必要以上の危機感を持つ若手技術者の定着率を高める効果も期待できる。人を育てるというのは、そのくらい難しく、自分だけでは完結できない場面が多い。そしてリーダーや管理職は一度任せた以上、若手技術者を指導者として扱い、新人技術者に直接接触することの自重が求められる。もし、問題が生じている、またはその可能性がある場合は、指導役である若手技術者に対して、必要な指示や助言を行うことが適切である。

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