工場管理 連載「工場はプロフィットセンター 儲けを生み出す工場を実現しましょう!」
2025.07.11
最終回 工場の変革を阻む深刻な課題
スマート工場研究所 渡邉 寛
早いもので本連載は6 回目、今回がいったん最後になります。皆さまにはこれまで拙筆に目を通していただき深謝です。今回はこれまでと少し趣の異なる内容を書きたいと思います。テーマは筆者がDX やスマート化の検討を中堅・準大手製造業のお客さまと行っているときに感じる閉塞感です。今回はできれば経営に携わる方にぜひ読んでいただきたいと考えます。さて、筆者の閉塞感ですが、3 つの問題に起因します。
工場の変革を阻む3つの問題
1つ目は、投資する余力のない企業体質、あるいはビジネスモデルとよぶのがよいのでしょうか。減価償却が終わった設備、パートや派遣労働者など人件費の安い労働者による人海戦術、これらにより顧客からの厳しい価格要請に応え利益を創出している企業です。特定メーカーのサプライチェーンに組み込まれているため、ビジネスは安定しているが、生かさず殺さずコントロールされています。現時点でのコスト競争力はありますが、余裕がなく新たな投資は赤字に直結します。DX やスマート化を行うためには、投資と人的な余裕が必要ですが、このような企業にはその余裕がなく、“変われない企業”となっています。どこでそのサイクルに入り込んだのでしょうか? 残念ながら、“変われない”=“生き残れない”です。経営者や工場の皆さんに請われて、DX やスマート化の検討・提案を行いましたが、結局、この企業体質がネックになって投資に踏み切れないという経験をたびたびしました。
2つ目は、人が採れないという問題です。まず、日本全般の状況として、人材不足で企業においてなかなか人が採用できない状況です。しかも、昨今の初任給アップが象徴するように人件費もどんどん上がっていますが、特にデジタル人材、IT 人材の給与は高騰しています。したがって、企業がDX やスマート化を進めるべくそのような人材を採用しようとしてもまず不可能で、普通の理系やIT 系の人材を募集してもなかなか採れないのが現実です。さらに、地方になるとどうでしょうか? さらに厳しい状況であるといわざるを得ません。若者が就職先や転職先を選ぶ条件は、給与はもちろんですが、魅力ある企業であること、ブランドがあること、つまり認知度が高いことが代表的な条件になるでしょう。これらが揃っていても地方になると人材獲得が難しいことが実情であり、さらに1 つ目の話で触れたような企業は、メーカーとしての魅力を失っています。そのような企業で働きたいという若者はまずいないでしょう。ここにも企業の“変わりたい”を阻害する要素があります。
3つ目は、失敗を許さない企業文化です。AI やIoT、新しい技術を活用する時には失敗がつきものです。ですから、AI などのデジタル技術を導入するときには、“できるかどうかわからない、失敗するかもしれない、だから事前に検証しよう”というPOC(Proof of Concept)= 概念実証の機会を持つことが一般的です。しかしながら、これに踏み切れない企業が多くあるのです。なぜなら、失敗してムダな投資になるかもしないからです。繰り返されてきた徹底的なコストダウン活動の影響でしょうか。多くの稟議がそれで却下され、また予算化もままなりません。また何とか承認を得ても、失敗したら個人の評価に影響します。これでは、自由に考えアイデアを出す、そして失敗を恐れずに挑戦するという変革の原動力になる大切な心が失われてしまいます。そして、恐ろしいことは、人はそのような環境に慣れてしまうと、自由に考えることや挑戦することができなくなるということです。
問題を解決するために
これらは解決が難しい問題ですが、企業が“変革”するためには乗り越えないといけない問題です。まずは企業体質の改善についてですが、価格競争に打ち勝つためのモノづくりの変革に本気で取り組むことだと思います。そして、そのためにリスクを取って投資する勇気を持ってください。勇気を持って挑戦し、邁進することで、製造業としての魅力を取り戻していくことになるでしょう。経営者自身がこの変革に本気で取り組まないと、やがて人件費の安い海外へ移転しなければ事業は立ち行かなくなります。
次に人の採用ですが、給与アップ、企業としての魅力を取り戻す、ブランドの確立と向上に取り組む必要があります。まず給与ですが、一律にアップするのではなく、変革に必要な人材を高い報酬で採用することです。一般社員からの不満を憂慮するのであれば、関連会社を興してそちらで雇用することもできるでしょう。投資と割り切って大胆に行うこと、それでも簡単に見つからないので時間をかけて知恵を出し一生懸命探すことです。ブランドの確立、向上も難しい問題です。広告・宣伝によるイメージアップは必要でしょう。ただし、これにはお金がかかります。
よって、同じような企業の連携、地方自治体との協力体制、地域活動に参画する、あるいは若者や子供達の教育を支援する、これらの活動を通して、モノづくりや製造業の大切さや魅力を発信することを検討してはいかがでしょうか。短期施策と長期施策を組み合わせて、戦略的に、でも、地道に継続的に取り組む必要があります。
最後に企業文化についてです。これは経営者自ら考え方を変え、“挑戦することが評価される環境”をつくることです。そのうえで、技術開発や教育と位置づけて、失敗するための予算(仕事で遊ぶ予算)を広い分野で割り当て、皆に使い方を考えさせることです。各部門で挑戦しようとしていることが気に入らないのであれば、経営者自らが部門と会話して、経営に貢献するテーマへ軌道修正を図れば良いのです。それは、相互の勉強になるでしょう。会社全体で挑戦し、失敗を含むさまざまな結果を評価して、成果や教訓、経験を重ねて行きましょう。その取組みが大切です。
こうして書いてまいりましたが、われながら今一つ決め手に欠けるアドバイスであり申し訳ございません。これこそ私の閉塞感のゆえんです。企業を取り巻く環境はホントに厳しくなりつつあります。そして、大手企業と中堅企業との格差はさらに広がり、中堅企業の皆さまの経営環境を圧迫しています。生き残るためには“変わること”が必要です。そのためには、経営者の皆さんは勇気ある一歩が不可欠です(図1)。われわれは一歩踏み出した皆さんを全力で応援します。