東南アジア諸国連合(ASEAN)最大級の工作機械・金属加工関連の展示会「METALEX2024」が、2024年11月20~23日の4日間、タイ・バンコク国際展示場(BITEC)で開催された。38回目の今回は、50カ国から3,000を超えるブランドや韓国、ドイツ、中国、日本、台湾、シンガポール、イタリア、インドから21地域がパビリオンを設けた。スマートマテリアルゾーンではアルミニウムや軽量素材に関する最新技術が紹介された。セミナーもEV技術やAI(人工知能)など、60以上が開催され、会期中に101,937人が来場した。
成長をけん引する日本の技術に期待
開会式はエカナット・プロムパン工業大臣やナッタポン・ランシットポン工業省次官、各国の貿易協会の代表が出席。行政機関のトップをはじめとする役職者が出席することから、モノづくり産業を重要視していることがうかがえる。
主催者のRX Tradex、バラポーン・ダムチャリーマネージングディレクターは、METALEX2024での経済効果を70億バーツ(約313億円、11月現在レート)と試算。「タイ経済は2024年から26年にかけて年平均3.4%の成長が予想され、自動車や電子機器、医療機器、建設・建設資材などの主要産業は引き続き好調に成長する」と継続的な成長が見込めることを強調する。
一方で、中国系EVの進出などの影響を受ける業界では慎重な見方もあった。タイで工作機械や切削工具を扱うファクトリーマックスのスラチャイ・タンタラトーン社長は「日系自動車メーカー各社の新車販売台数は、2024年1~9月期で月平均25%減と低迷。自動車業界全体で生産台数が落ち込んでおり、部品業界も同様の落ち込みと聞く」と不透明さを指摘する。人材不足や最低賃金アップについても触れ、「省力化・自動化に向けた日本企業の技術力が必要」と日本の工作機械やツーリング機器メーカーの製品やソリューションに期待する。
こうした現地のニーズを取り込もうと日本からは、工作機械や工作機器、機械要素部品メーカーが出展した。
オークマは、省スペースで広い加工空間を確保した5軸制御立形マシニングセンタ(MC)「MU-500VⅢ」を中心に展示。航空機や医療機器産業向けに、段取り替え作業などの工程集約による生産性向上といった具体的な効果を訴求した。
三木プーリは、日系企業やローカルメーカーへの認知度向上や市場調査を兼ねて出展した。カップリングをはじめとする周辺機器を併せてのソリューション提案に力を入れる。三木プーリ(タイランド)の早坂研二マネージングディレクターは「東南アジアが発展するために、価値ある商品を提供し続けていきたい」と抱負を語った。
タイ進出から今年で60周年を迎える機械・工具商社の山善(タイランド)は、40を超える最新の工作機械や自動化システムなどを紹介。工作機械ではブラザー工業の「SPEEDIO S500Xd2」を初披露。生産性向上や環境負荷低減に関する独自技術である「Blue Technology」搭載による、さまざまな無駄の削減に関する機能を紹介した。
日本の工作機械や切削工具、各種システムのメーカーが現地の市場を取り込むためには、操作性や耐久性などの機能・技術と品質に関する信頼性といった従来からの観点に加え、人手不足や省エネルギー・省資源など、現在の世界規模での課題を解決に導くことがこれまで以上に重要な意味を持つことになりそうだ。
ファクトリーマックス社代表へのインタビュー
METALEX2024にも出展、タイで工場向けのツールと機器を供給するファクトリー マックス(Factory max)社長のスラチャイ タンタラトーン(Surachai Tangtaratorn)氏にタイの現況を聞いた。
ファクトリー マックスのスラチャイ タンタラトーン社長
―足元の経済状況をどのように感じられていますか
日系自動車メーカー各社の新車販売台数は、2024年1~9月期で月平均25%減と低迷。自動車業界全体で生産台数が落ち込んでおり、部品業界も同様の落ち込みと聞く。特に中国系のEVメーカーの台頭が顕著で、自動車業界以外でも廉価品の輸入よる競争の激化や人材不足は深刻な課題である。また、トランプ新大統領による輸入関税の影響も注視している。
―METALEXでは何をアピールされましたか
最低賃金の上昇や高齢化社会などに対応して、自働化や生産性向上に関するニーズが高まっている。加工速度の向上や非接触の測定器を導入するなどの提案が想定されるが、省人化=ロボットなどの導入とは考えていない。生産工程の見直しなど現場に即した提案を行っていきたい。航空機部品や複雑な部品加工をターゲットに5軸加工機に特化したセミナーを開催した際には、2日間で400人が来場した。今後はロボットなどを活用した省人化に関する個別セミナーも力を入れていきたい。
―中国進出企業についてどのように感じられていますか
BYD、広州汽車、長安汽車などEVメーカーの進出が注目されている。タイ政府もEV購入の際には、補助金制度を設けて導入を推進している。ただ、中国系の企業と取引のあるタイ企業が少なく、経済波及効果を実感できていない。
―日系メーカーの課題としてどのようなことが挙げられますか
タイ経済にとってGDPの30%を占める製造業は、観光産業と並んで国の主要産業である。自動車や白物家電などの先行きの不透明感から、新事業への期待は高まっている。日本の技術力にも期待している。日本で開催されたJIMTOFも視察したが、ビジネスは完璧ではないかもしれないが、前回より顔が明るくなっている印象を受けた。価格の安い中国製の機械の台頭は日本メーカーにとって大きな課題であるが、人材不足や最低賃金アップの中で、省力化・自動化に向けた日本企業の技術力の提供で競争を勝ち抜いていくことが求められる。
同社は1996年に金型業界、自動車業界、金属関連業界などのツール・機器の供給代理店として設立。50名以上の工学部卒のエンジニアによる専門家サポートを行っている。日系メーカーも数多く取り扱い、サムットプラーカーン県を中心にタイ国内の主要工業地帯をカバーする。社員数100人。グループ会社にはCNCマシンを手掛けるHSM Machinery(エイチエスエムマシナリー)がある。
なお、METALEX2025は、2025年11月19日(水)~22日(土)にBITECで開催を予定する。
METALEX2024でのファクトリーマックスのブース