2026中国国際金型技術と設備展示会(以下、DMC 2026)が7月1日(水)~4日(土)の4日間にわたって国家会展中心(上海虹橋)で開催された(図1)。今年で25回目、40周年を迎えた。「製造の本質を掘り起こし、成形の未来を変える」をテーマに「精密加工」、「金型製作」、「材料成形」の3分野を重点においた。主催は中国金型工業協会と上海市国際展覧有限公司。日本、ドイツ、フランス、トルコ、など世界12カ国・地域から約600社以上が出展し、4万5,500人が来場した。昨年の展示会で前面に出ていたのはEV、ギガキャスト、自動化、高精度加工。もちろん今年もEVやバッテリー関連の需要が消えたわけではないが、AI、データセンター、ヒューマノイドロボットという新たな成長軸が加わり始めている。
また、同時に第17回世界金型大会(ISTMA)が中国(上海)で初めて開催され「つながり、補完、革新、相互利益」をテーマに中国、日本、韓国、スペイン、南アフリカ、ポルトガル、トルコなど世界13カ国・地域から金型協会の代表が参加した(図2)。世界大会が中国で開催されたことは、中国が単なる低コストの金型生産国ではなく、技術、設備、市場、サプライチェーンを備えた世界の中心地の一つになったことを象徴する。
図2 ISMA世界大会に参加した各国金型協会の代表
中国金型輸出が102億ドル突破へ、世界200超の地域へ供給拡大
現在、中国の製造業市場ではAIスマートハードウェア、5G端末、半導体封止、薄型軽量の消費電子が本格的に拡大すると見込まれている。電子部品の小型集積、軽量一体成形、インモールド電子技術の急速な普及により、電子・電器分野は精密金型の中核的な成長分野となっている。これにより、金型には超高精度、複雑な多キャビティ構造、高効率自動化、長寿命・耐摩耗性の高度化が求められている。
2025年中国の金型生産額は3,800億元(約9兆1,200億円)に達し、金型輸入額は9億4,700万米ドル(約1,537億9,896万円)にとどまっている。また金型輸出額は102億米ドル(約1兆6,564億円)を超え、前年比17%以上増加。世界200以上の国・地域に輸出されており、供給力の拡大傾向が明確に表れている。
EVからAIへ、中国市場はもう次の局面へ
「3年前はEVだったが、今はヒューマノイドロボットやAI関連。中国のトレンドはわずか3年で一気に変わる」。牧野フライス製作所の土屋雄一郎副総裁は、現在の中国市場のスピード感をこう表現する。同社は、金型加工の自動化・省エネ・高信頼性を追求した次世代の日本製立形マシニングセンタ(MC)「V300」(図3)(同社のフラッグシップ機であり「V33i」の後継機)を中心に、グローバルな製品ラインアップを披露した。
出展機種は多岐にわたり、日本製のワイヤ放電加工機で油使用の「UPV-3」をはじめ、中・大物部品の厚物加工に対応する中国製の水中ワイヤ放電加工機「U86」、中国限定販売の形彫り放電加工機「EDNC12 2H」「EDNC28」、シンガポール製の形彫り放電加工機「EDAF2i ULTRA」が並ぶ。さらに、金型や微細部品加工の自動化を推進する、ワーク・電極のパレット自動搬送ロボットシステム「μCell B80」も披露した。
現地での価格競争は依然として厳しい状況が続いている。しかし、同社は急変する最新トレンドを的確に捉えた製品提案により、生産能力を上回るペースでの受注増を記録。現在も極めて多忙な稼働状況が続いている。
三菱電機は、旺盛なAI関連需要を背景に、最先端の放電加工技術と自動化ソリューションを披露した。加工技術部の彦坂博紀部長は、自動車、3C、ロボットの関節ギア分野での前年を上回る好調な受注について触れ、「AIバブルは依然として継続中である」と手応えを語る。展示では、「技術の未来を、誰にでも」をコンセプトにしたワイヤ放電加工機「MGシリーズ」(図4)や、高精度形彫り放電加工機「SV8P」をラインナップ。自動化の提案として独自AI「Maisart」搭載のコンパクト形彫り放電加工機「SG8」に、電極とワークを自動交換するエロワ製ロボットとミツトヨ製の3次元測定機を組み合わせて設置。さらに、保管棚からAGV(無人搬送車)が自動でワークを取り出して搬送する、一連の自動化ラインの実演を披露。同社は、ミドルレンジ(中価格帯)の高精度要求が急増している中国市場において「MGシリーズ」を主力機種と位置づけ、投資拡大が続く現地ユーザーのニーズに応えることでさらなる市場深耕を図る。
図4 中国市場の主力機種と位置付けるワイヤ放電加工機「MG」シリーズ
ここまで各社への取材で共通していたのは、AI関連需要の強さである。特にデータセンター向け半導体、MTコネクタ、精密金型では、前年を大きく上回る受注が続いている。
今年はMT関連の特需に加え、ヒューマノイドロボット向け部品需要も広がりを見せている。そんな市場環境を背景に、「大面積」、「自動化」、「賃加工」の3本柱を掲げるソディック。大面積ICパッケージを意識した形彫り放電加工機「AL60Gs+」をはじめ、低価格ながら自動化ニーズに応える新型形彫り放電加工機「A35LBs」、蘇州工場で生産する新型ロボット「SZ20」(図5)、型メーカーや賃加工業界で高い評価を得ている「VN600Qs」などを披露し、多様な加工現場への提案を行った。
図5 形彫り放電加工機「A35LBs」と新型ロボット「SZ20」
自動車関連は一服感がある一方で、AI関連需要を背景としたMTコネクタ向け加工は活況。「AIの用途がさらに広がればこの好景気は当面続くのではないか。また、賃加工市場についても特に減速機向け部品に底堅い需要がある」と沙迪克机电(上海)有限公司の小路孝博董事総経理は分析する。今後はヒューマノイドロボット分野の市場開拓にも力を入れる方針だ。しかし、その一方で受注は想定を上回るペースで拡大しており、「増産体制で対応しているものの生産が追いつかない状況。納期が長くなり、お客様にはご迷惑をおかけしているのが心苦しい」(同)とうれしい悲鳴を上げていた。
価格競争から仕組みの競争へ
ミスミ中国は金型事業部として初出展し、「金型部品」を身近に感じてもらうため、遊園地をテーマにしたエンタメ性の高いブースを展開した(図6)。同社は高い信頼性を持つ金型標準品に加え、標準級の経済型製品を並行展開する戦略を紹介。経済型シリーズは品目によって従来品より15~40%安価で、用途や必要寿命、価格に応じて選択できる。一部の金型用コイルスプリングでは使用条件に応じた推奨使用回数も設定されている。
中国での現地調達率は約90%。上海・広州の倉庫には計16万7,000SKUを在庫し、17時までの注文は即日出荷、納期遵守率99.9%を実現する。競争力の源泉は部品単体の性能に加え、豊富な品ぞろえや即時見積もり、在庫、短納期、確実な配送を組み合わせた供給体制にある。価格競争ではなく「必要な品質を、必要な価格と納期で選べる」仕組みづくりは、中国市場で戦う日系企業に一つの方向性を示している。
世界的なタングステン不足の中、老舗超硬工具専業メーカーのダイジェット工業は希少金属を使わない合金工具を提案。中でも注目は高能率荒加工用カッタ「マックスマスターミニ MXG-07型」(図7)。小径でも圧倒的な多刃化を実現し米粒サイズの小型インサートの採用により、φ16で4枚刃という驚異の多刃仕様を達成した。これにより加工能率を劇的に高めている。「超硬工具についてはまだ備蓄があり、売上げも確保できている。調整しながら販売をしているが、先がまだ見えないので不安はある」と高永明董事総経理。
高級鋼にも迫るローカル材
大同特殊鋼は中国の安価な汎用鋼に対抗するため、汎用鋼に近い価格で、高級鋼に迫る耐ヒートチェック性などを目指す金型用鋼材の開発、特に中国と台湾向けとして 開発した耐ヒートチェック性に優れたダイカスト用鋼「DHA21」を中心にサンプル出展。
中国全体の工具鋼需要が大きく落ち込んでいるわけではなく、撫順特殊鋼などのローカルメーカーは 生産量を維持していると認識している。「中国メーカーの技術が上がり、日本製というだけでは通用しなくなった。高級鋼と同等の能力を持たせながら、汎用鋼に近い価格にしなければならない」と話すのは工具鋼部の森下芳和部長。今後は、バッテリー、モータ、電気・電子部品など、材料性能が製品品質を左右する領域を重点市場とする。ただし、中国では大同特殊鋼の鋼種名を無断使用した製品や、同社の指定代理店を装う業者、偽造された品質保証書も確認されている。同社も公式サイトで、正規の販売ルートから購入するよう注意を呼びかけている。
焼ばめ技術のパイオニアMSTコーポレーション。中国市場は前年比25%増、ホルダに関しては40%増と好調だ。「中国はローカル企業からの受注が多い、また、日系メーカーのMCの受注が増えている」と溝口春機社長は話す。看板製品である焼ばめホルダ「スリムライン」の剛性と精度のPRにMCにより切削実演と工具着脱によるミクロンの精度実演を行っている。ブースには各メーカー、代理店、ユーザーが集まり、コミュニケーションの場を提供している。
中国工作機械は海外進出を見据える
浙江省麗水市の高崎知能装備は2006年に設立。かつては金型製作を手がけ、現在は工作機械メーカーとして事業を拡大している。浙江省は自動車、医療(薬草が取れる地域のため)の他ヒューマノイドロボットの部品、AIに力を入れているエリアのため、サプライチェーン集積が進んでいる地域でもある。「今、中国では5軸をつくっていないとナンセンスだと言われる」と話すのは施貽特総経理(図8)。日本の大学に留学後、会社を継いだ2代目の社長だ。
社名を「高崎知能」としたのは、日本企業を思わせる名称にすることで、アジア市場へ参入しやすくする狙いがあったためだという。中国国内に加えて東南アジア市場への展開を進めており、自動車、ドローン、ヒューマノイドロボット関連が好調で最近は工場増設に向けて土地を取得し、5年内に現在の年産3,000台から5,000台規模への増産を計画している。ただ、中国政府による規制も厳しく、目標台数に届かなければ淘汰される可能性もあるという。
NC装置には三菱電機やファナックを採用しながら、板金などの部品の約65%を内製する。日本製や欧州製の機械構造を研究し、中国の部品供給網と内製化を組み合わせることで価格を下げている。中国では3軸にオプションをつけて4軸にするのが普通で、「5軸は2025年から生産開始しており、現在は100台の実績。あと5年もすればすべて5軸に変わっていくだろう。生き残りをかけて必死でやっている」と施総経理は満面の笑みで話してくれた。
中国広東省東莞市に拠点を置く東莞市埃弗米数控設備科技(AFMING)は、2015年6月設立の5軸MC専業メーカー。研究開発から製造、販売、サービスまでを一貫して手がける。同社の製品はドイツのDMGをベースとしており、マーケティング担当者は「広東省では5軸機の知名度でトップクラス。高級路線を特徴とする5軸MCメーカーです」と説明する。販売先は世界30カ国以上に広がり、特に東南アジア向けの輸出が多い。航空宇宙、自動車、医療、金型、一般部品などの分野に総合ソリューションを提供している。展示会では、立形・横形の5軸MCとワークサンプル(図9)として航空機などの部品を出展した。
チャイニーズドリームを体現
1997年設立の台州精超力模塑は、自動車の内外装部品用プラスチック金型の設計・製造と射出成形加工を手がける金型メーカー。バンパー補強部品、フロントグリル(インテークグリル)、グリルめっき部品、自動車のドアハンドルなどを扱う。大衆(フォルクスワーゲン)、通用(GM)、BMW、フォード、トヨタ、ホンダなど20社以上の国際的な自動車ブランドのサプライヤーと金型技術提携を結び、ドイツ、オランダ、フランス、米国、日本など十数カ国へ製品を輸出している。
軽量化と100%リサイクルをテーマに、バイオプラスチックを用いたバンパーなどの成形品について、約15年前からエコ化・軽量化の研究に取り組んできた。中国で最も早く同分野に着手した企業の一つだと自負している。14歳から金型製作に携わり、18歳で同社を設立した林国貴CEOは53歳(図10)。「皆がともに豊かになる」を信念に掲げる。幼い頃からの夢は「美しく、誰もが幸せになれる車をつくること」だった。その実現に向け、1人乗りEV「Kameila」(図11)を開発。20億元を投じて海南島に量産工場を建設し、2027年4~6月の生産開始を予定する。将来的には世界で年30万台の販売を目指す。林CEOは開発・生産を中心に担い、現在は販売会社の体制を検討しているという。まさにチャイニーズドリームを象徴している存在である。
AI特需とローカル台頭に日本勢はどう挑むか
かつては、日本製であることが精度、耐久性、信頼性の証しだった。しかし、中国メーカーの部品調達力、加工技術、組立品質が向上した今「日本製なら高くても売れる」という前提は崩れつつある。価格を下げれば利益を確保しにくい。一方で、高価格を維持するにはその差額に見合う生産性、精度、安定性、自動化、サービスを示す必要がある。日系メーカーは中国製品と同じ土俵で価格を比較されながら、価格表だけでは伝わりにくい価値を提示しなければならない局面に入っている。
取材した企業の担当者によると、AIデータセンターの補助・非常用電源向けに、大型ディーゼル発電機関連の加工需要も増えている。大型エンジンを発電機として使う案件では、1万台規模の需要が生じるケースもあるという。これは個別企業への取材で得た情報であり、中国市場全体を示す統計ではない。ただ、AI投資が半導体製造装置にとどまらず、電力、エンジン、熱対策、通信設備、精密部品など幅広い製造需要へ波及していることを示す事例として興味深い。
もう一つの注目分野がヒューマノイドロボットだ。関節部品、減速機、モータ、センサ、精密金型、樹脂部品などは、量産段階に入れば工作機械や金型メーカーにとって大きな市場になる可能性がある。中国メーカーは日本や欧州の機械を研究し、主要部品を世界から調達しながら、内製率を高めている。さらに国内市場で販売台数を積み上げ、東南アジアや日本への進出を始めている。
需要の中心には、EV、ギガキャストに加えて、AI、データセンター、ヒューマノイドロボットが浮上した。材料面では、中国の輸出管理によって、受注があっても製品を供給できないリスクが顕在化した。この市場で、日本企業が技術力だけを根拠に高価格を維持することは難しい。必要なのは、機械単体の性能に加え、自動化システム、加工条件、材料、工具、測定、ソフトウェア、教育、保守を一体化することだ。さらに、ユーザーのトラブルに迅速に対応できる権限と現地組織が欠かせない。
かつて中国市場は、日本企業にとって販売先だった。しかし現在は、競争相手を観察し、自社の製品とビジネスモデルを磨く「競争の実験場」へと変わりつつある。AIとヒューマノイドロボットが新たな需要を生み、材料制約が製品設計を変え、中国メーカーが海外へ出ていく。AI需要はGPUや半導体だけでなく、電力設備、冷却設備、大型エンジン、精密加工へと裾野を広げている。一つの需要がサプライチェーン全体を動かす構図が、中国市場で鮮明になり始めた。
日本企業に求められているのは、技術、価格、納期、サービス、供給網を一体として動かす力である。