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型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2026.09.11

第27回 未来をつくる“理系のワクワク”は、 岩手の小さな研究室から広がっていく

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フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
 岩手県南部に位置する一関市。北上川の流れと奥羽山脈の稜線に抱かれたこの地域は、古くから文化と産業が交わる場所として発展してきました。市街地から少し離れると、田園風景の向こうに白い校舎が姿を見せます。ここが一関工業高等専門学校(以下、一関高専)。地域とともに歩み、未来の技術者を育てる「モノづくりの拠点」です。

理系の楽しさを届けたい!想いをカタチに

 この学校で、今、広がりつつあるムーブメントがあります。それは、理系の学びを難しいものではなく、身近で楽しいものとして伝えようとする取組みです。きっかけは、学生たちが自ら企画し運営するワークショップやサイエンスイベントでした。スイーツづくりやアクセサリー制作、地域の特産品を題材にしたデザイン体験など、思わず参加したくなるテーマを入り口に、科学のおもしろさを体験として届ける工夫が詰まっています。参加者の年齢も小学生から高校生まで幅広く、初めて一関高専のキャンパスに足を踏み入れる子供たちが、緊張しながらも目を輝かせて実験に向き合う姿が印象的です。

 この活動の中心にいるのが、未来創造工学科の木村寛恵准教授と、女子学生でつくる「STEAM-nitic(スティームニティック)」のメンバーです(図1)。
図1  木村寛恵准教授(写真中央)を囲むSTEAMniticのメンバーたち(写真提供:一関高専)

図1  木村寛恵准教授(写真中央)を囲むSTEAMniticのメンバーたち(写真提供:一関高専)

 木村准教授は一関高専の卒業生で、大学編入、企業勤務、産総研での研究、そして子育てまで、多様な経験を積んできた人生の先輩。専門は機能性ナノ材料で、カーボンナノチューブなどの先端研究に携わりながら、学生たちの挑戦を温かく後押ししています。STEAM-nitic は、理工系に対する偏見をなくし、次の世代に魅力を伝えたいという思いから学生自身が立ち上げた団体で、ワークショップの企画から運営までを担い、参加者に寄り添う存在として活動しています。

スイーツと科学で理系の扉を開くきっかけを

 スイーツづくりと生成AI、そして地域の老舗菓子店が組み合わさった「サイエンススイーツ開発」は、一関高専ならではのユニークな取組みです。地元の老舗和菓子店・松栄堂と連携し、女子中高生が同店の銘菓「ごま摺り団子」のパッケージデザインに挑戦しました。AI に指示を出し、出力された案を比較し、思い通りにいかない部分を何度も調整しながら形にしていく過程は、研究者が日々向き合う試行錯誤そのものです。

 完成したデザインは高専祭で実際に販売され、来場者の投票や購入者アンケートを通して、どのデザインがどの層に支持されるのかを確かめる機会にもなりました。中高生が生み出したアイデアが地域の店頭に並び、実際に評価されるという経験は、学びが社会とつながる実感をもたらしています。自分の手でつくったものが誰かの手に渡り、選ばれるという体験は、参加者にとって忘れられない成功体験となっています(図2)。
図2  学生たちがパッケージデザインを行ったごま摺り団子が実際に販売された!(写真提供:一関高専)

図2  学生たちがパッケージデザインを行ったごま摺り団子が実際に販売された!(写真提供:一関高専)

 もう一つの人気企画である「サイエンスカフェ」では、スノードームづくりを通して再結晶の原理を学びました。参加した子供たちは、実験そのもののおもしろさに加えて、高専の学生や先生と直接ふれあうことで、理系の世界をぐっと身近に感じられるようになります。さらに、数学や英語が得意でなくても挑戦できるという安心感から、「自分にもできるかもしれない」という前向きな気持ちが少しずつ芽生えていくのだそうです(図3)。
図3 大好評となったサイエンスカフェ2025の様子(写真提供:一関高専)

図3 大好評となったサイエンスカフェ2025の様子(写真提供:一関高専)

 こうした体験が、理工系への興味や進路選択のきっかけとなり、次のステップへ踏み出す力につながっています。参加者の中には、帰宅後に自宅で再び実験を試したり、学校の自由研究に発展させたりする子もいて、学びが生活の中へ自然に広がっていく様子が見られます。

地道な活動が生んだ確かな変化

 一連の取組みは、数字にも確かな変化として表れています。令和7 年度入学生の一関高専の女子比率は15 %でしたが、令和8 年度には29 %へと大きく伸びました。推薦入試ではワークショップに参加した女子生徒が多く受験し、その中にはSTEAM-nitic の活動に憧れて一関高専を志望したという声もありました。

 中学生の頃に参加したワークショップで理系の楽しさに触れ、高専に入学し、今度は自分がティーチングアシスタントとして次の世代に魅力を伝える側へと成長していく姿は、この学校で生まれている好循環を象徴しています。憧れが次の憧れを生み、挑戦が次の挑戦を呼ぶ。その循環が確実に広がっているように感じられます。

 理工学は特別な人だけのものではなく、日常の中にある不思議や仕組みを解き明かすための道具でもあります。スイーツの色が変わる理由やアクセサリーの素材の性質、VR の仕組みなど、身近なものの背景には必ず科学があります。ワークショップに参加した子供たちは、身の回りのものに理系の視点が潜んでいることに気づき、実験で使う道具や酸性・アルカリ性の違いを理解することで理科がより好きになったと話していたそうです。

 難しそうという印象がおもしろいという実感に変わる瞬間をつくることこそ、一関高専の活動が目指しているものです。理科が得意かどうかではなく、「まずはやってみたい」という気持ちを大切にする姿勢が子供たちの背中をそっと押しているのです。

 木村准教授は、一関高専は東京から新幹線で2 時間、寮も整っており遠方からでも安心して学べる環境だと語ります。地域に根ざしながら未来を見つめる学校で、学生たちは理系の楽しさを体験として伝える役割を担い、その姿がまた次の世代の憧れとなっています。一関高専で育まれているのは、理系のワクワクを次へつなぐ新しい文化です。静かな地方都市の一角で生まれた小さな挑戦が、やがて大きな未来を動かしていく─そんな確かな予感を抱かせてくれます。

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