おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
マシニングセンタなしで金型製作?
2014 年頃、とある日本企業の担当者から当社の工作機械の設備一覧を見て、「ジグボーラーって何ですか? マシニングセンタ(MC)なしでどうやって金型をつくっているのですか?」と聞かれたことがありました。当時、当社では三井精機のジグボーラーに専任オペレーターを配置して加工をしていて、自社のことしか知らなかった当時の私にはどう答えてよいかわかりませんでした。
同じ頃、20 年以上経過した古い旋盤の調子が悪く、周辺で旋盤加工ができる会社を探していました。「1カ月は待たされるかもしれないけれど、品質は良い」と紹介された旋盤加工専門の工場は、70 歳前後の老人とその弟子、注文担当を含めた4 名のとても小さな工場でした。木製の机の上に乱雑に山積みされた図面とは対照的に、きちんと整理整頓されている工具の数々、中国の老舗旋盤メーカーである北京机床と沈陽机床の旋盤加工機が5 台並び、壁には国家資格証や表彰状などが飾られていました。「出来上がったら連絡する」という何とも頼りない回答で心配になったのと同時に、当社の先代が日本でやっていた当時の工場のたたずまいと何となく重なったこともあって、毎日その工場に通って加工の現場を見せてもらっていました。さすがにそんなことをする外国人はおらず、迷惑だったのでしょう(笑)、依頼した加工品を数日で仕上げていただきました。この工場は、2017 年に廃業しました。
当時の中国は、急激な経済発展を背景とした需要の高まりから、加工技術や加工設備も変化が必要な時期に入っていたのでしょう。
中国の工作機械メーカー
中国の加工設備の国産化・高性能化は2017 年頃から急速に進みました。2024 年には中国から輸出した工作機械の額が、輸入額を大幅に上回り、中国の立形MC 市場は約118 億元に達したと言われています。
CIMT2025(第19 回中国国際工作機械展覧会)に出展・展示された国産NC 工作機械1,000 台以上の中で、5 軸・複合MC が6 割を超え、その中でも日本の展示会にも出展している北京精彫をはじめ、海天精工、山東豪邁、科德数控、広東創世紀など、5 軸を主とした中国トップメーカーの工作機械の出展台数は、約400 台もあったそうです。国産NC システムやサーボモータを採用する工作機械の割合も4 割以上と報告され、マザーマシンの国産化が進んでいる印象を受けます(表)。
加工現場の工作機械
大規模金型メーカーの現場では、5 軸を主とした中国トップメーカー製の工作機械を数台見かけるようになってきました。小規模な金型メーカーや加工メーカーでは、中国メーカー製の工作機械がずいぶん普及しています。多く目にするのは「模具机(金型機)」とも呼ばれる立形MC で、主軸30 番・40 番に相当する比較的コンパクトな、広東省、浙江省、遼寧省などの老舗メーカーや地元メーカー製です(図)。中国メーカー製は、Y 軸の移動範囲が海外製と比べて大きいという特徴があります。
NC システムはファナックやシーメンス、主軸やガイド・スクリュー部分は日本製や台湾製など、主要パーツ部分は選べることが大半で、サポート体制はIoT による遠隔操作が標準となっています。カスタマイズ内容によって価格や納期に多少違いがあるものの、海外メーカーと比較すると価格は40~60 %程度、在庫状況によっては3 日程度で納品されることもあります。減価償却期間は10 年が基本で、現在は地域や企業規模などによってさまざまな優遇政策があり、増設・買い替えがしやすい環境です。
地元工作機械メーカーが好調な背景として、サービス体制を向上させていることや、動画配信を利用して長所のみならず短所もしっかりと伝えることで信用を獲得していることなども挙げられるでしょう。加工現場でも「普通に使える」、「アフターサービスも悪くない」と、中国メーカー製工作機械へのイメージが変わってきています。
経営者の態度が業界全体を動かす
金型部品加工のみで年商20 億円以上を誇る、とある大規模加工メーカーでは、MC や放電加工機に関しては日本を含む海外メーカー製のみで加工をしています。「安定した加工精度を担保するには、やはり海外製」と言います。一方、ステンレス加工を得意とする社員10 名以下の近所の加工メーカーでは、高精度が求められる加工品の場合は1 台だけ保有している日本メーカー製の工作機械を利用し、通常は中国メーカー製の工作機械で加工をしています。以前は2~3 年を目安に中国メーカー製のものを買い替えていましたが、現在は各加工設備の利用頻度によりますが3~5 年でも使えるようになってきたと言います。メンテナンスして長く使うのではなく、最新の工作機械を利用して「安定した加工精度を担保」しているのです。両社は会社規模や管理体制は違うものの、「適所適材型(設備にあった受注)」で事業を拡大し、市場や環境変化を読みながら「適材適所型(状況にあった設備投資)」をバランス良く推進している点で共通しています。
私が中国に来た2010 年代は、経済の急速な発展に伴い、無理な投資や厳しい価格競争が目立っていました。しかし、2020 年代に入ると、工作機械を使う側である金型企業の経営者が、質の伴わない工作機械を拒否し淘汰させ、自社にとって本当に必要な工作機械を選別し、性能や技術に対して「適正価格」で受注するという価格を重視した態度に変化してきています。工作機械メーカーも金型メーカーも、誰かと戦う生き残り戦争ではなく、自社と真摯に向き合い、それぞれの企業が変革期をチャンスと捉えて、勇気をもってドラスティックな一歩を踏み出し、業界全体を動かしていると感じています。