中小製造業の経営において新規事業への挑戦はリスクを伴う。既存事業と分野・客層が違えばなおさらだ。サッシや門扉などの建築関連、避難設備関連の金属加工を手がけるKOJ(埼玉県草加市)は、人生の終末期に関わる製品・サービスを扱う「エンディング産業」で顧客開拓を目指している。培った板金加工技術を活かし、石材に代わる金属製の墓および寺院の維持管理に使われる金属部品製品を提案する。松岡功次社長が目指す会社のこれからの姿とは。
『プレス技術』編集部

板金メーカーでありながらエンディング事業を手がけています。参入のきっかけは?
松岡

十数年前に「積雪地域の墓を覆う屋根をつくってもらえないか」と知人から頼まれたのが最初です。そのときは話を聞いただけでしたが、ずっと心に残っていて、コロナ禍で仕事が減って新しいことをやらなければならなくなったときに思い出しました。
2021 年に事業再構築補助金を申請する際、今後需要が伸びるであろうエンディング事業が当社の持続的成長に有効だとアピールし、採択されます。金属材料や部品を購入して当社工場で墓の屋根を製作し、工務店やゼネコン、石材店などを通じて消費者に届けるというビジネスモデルを考えました。屋根をつけることで風雪から墓石を守れるし、高級感も演出できます。
その後、屋根だけでなく墓そのものを金属でつくることを思いつき、ステンレス製の墓「美堅墓(びけんぼ)」を試作。2023 年8 月に開催された「エンディング産業展」に出展し、本格的に事業をスタートしました。
見た目の美しさとリサイクル性を両立させた「美堅墓」

金属の墓とは斬新なアイデアです。

私も当初は需要があるのか疑問でしたが、調べてみると石材の墓にはいろいろと問題があることがわかりました。弔い方に対する考えが変化し、いわゆる“墓じまい”をする人が増え、それに伴って不要になった墓石の不法投棄が問題になっているのです。
金属の墓なら不要になったらスクラップにすればよく、美堅墓は25 年の使用期限を設けています。57 歳で30 歳上の親を亡くしたら、25 年後に供養する側は82 歳。そこまで親の法要を続けるでしょうか。いつまでも残る石材の墓を重荷に感じる人が増える中、使用期限付きの金属製の墓が受け入れられやすくなっています。

エンディング産業展での手応えは?

完全に無視されるだろうと覚悟して臨んだのですが、思いのほかいろいろな意見を聞くことができました。もちろん、「こんなものは墓ではない」という全否定の意見もありましたが、「屋根だけをお地蔵さまを覆うために使いたい」と話す寺院関係者もいたし、「『使用期限付き』の発想はいいが、すぐには売れないだろう」と評価する業界関係者もいた。美堅墓自体が売れることはありませんでしたが、「こういうものができるのなら」と寺院の維持に必要な部品を1 件受注できました。結果的に出展してよかったと思います。2025 年9 月のエンディング産業展にも新モデルを出品します。
25歳で板金設備一式を購入

改めて御社の沿革についてお聞きします。社長ご自身が立ち上げたとか。

正確に言うと、父はプレス金型屋を営んでいたので、できれば継がせたいという気持ちがあったと思います。私自身は大学の工学部を卒業後、技術系派遣会社で設計者として働きました。バブル景気真っただ中で、試験で名前を書けば入社できた時代です。派遣会社を1 つのステップとしてメーカーに転職してもいいし、ゆくゆくは父の会社を継いでもいいと気楽に考えていました。
ところが就職してしばらくたった頃、ある医療機器メーカーが埼玉県内の工場を閉鎖するという情報を父が掴んだんです。工場で使っていた板金設備一式を買い取らないかという話が父のところに来た。それが創業のきっかけでした。1993 年、私が25 歳のときです。

板金設備一式を買ったのですか。

若かったし、失敗してもたいしたことはないかと思って(笑)。買ったと言っても二束三文です。突然の話なので購入資金などはなく、自分の車を売って調達しました。ベンダーとシャーリング、コーナーシャー、タレットパンチプレス、溶接機は私が使用し、切削加工系の設備は父に譲りました。父の工場の一角を借りてのスタートです。最初の仕事も父の会社の下請け業務でした。その後は景気が落ち込み、父の会社も倒産してしまいましたが、開業のためのレールを敷いてくれたことに大変感謝しています。

設備はあっても1 人での創業ですよね。加工技術はどうやって習得したのですか。

独学です。たまたま派遣会社の研修で板金を学ぶ機会があり、実習で工具箱をつくりました。もちろんそれだけの知識なので最初は失敗もありました。例えば、サッシは図面の描き方が特殊で、製品の半分しか描きません。サッシは窓ガラスをはめ込む“枠”なんだから半分では用をなさないのに、その省略された図面を見てその通りにつくってしまい大失敗しました。当時は理解がまったく足りていませんでしたね。

現在は建築関連が主力ですか。

ええ。棒状のアルミ形材を加工する八潮工場(埼玉県八潮市)と板材を加工する草加工場(同草加市)の2 拠点体制で製造しており、八潮工場では小規模ビルやマンションに設置される門扉を主に製造しています。大型のマシニングセンタがあり、門扉の材料であるアルミ形材を切断し、ビスでとめて組み立てるのが主な業務です。
草加工場では門扉に付随する部品やサッシのカバー、避難器具を収納するケースなどを製造します。ベンダーやタレットパンチプレス、レーザパンチ複合機などを保有しており、アルミニウムのほかステンレスや鉄の板材を扱います。板厚は0.8~6mmに対応可能です。
皿加工やタップ加工、ルーバ加工を1台で完結できるレーザパンチ複合機を保有
リスクのある仕事に商機

板金メーカーとしての強みは?

技術力で抜きん出ているとは思っていません。板金加工は最新設備を導入すればある程度はできますから。ではどこで差別化するのか。私は「バラ図」がなくても対応できる点ではないかと思っています。
当社の主要顧客である建築業界の慣習では、部品の図面(バラ図)ではなく製品全体を表した「製品図」が渡されます。つまり、製品全体の中から自分たちが担当する部品を拾い出さないといけません。その拾い出し作業は、例えばサッシメーカーの下請けを専門にやっている企業ならやりますが、当社のようにいろいろな製品を手がけ、かつバラ図にする作業ができる板金メーカーは少ない。ときには製品の姿図を渡されて、「後は考えてつくって」と言われることもあります。その場合も当社で構造を考え、「こんな構造でどうでしょうか」と提案できます。

顧客にとっては手間が省けます。

そこが売りです。一方、製品図を読み解いてバラ図を作成したり構造を考えたりする仕事にはリスクが伴います。必要があれば顧客の承認を取りますが、基本的には自分たちの判断で物事を進めなければならないからです。
それでも競合他社が多く価格競争に巻き込まれやすい“図面どおりにつくるだけの仕事”よりは魅力を感じますね。顧客とのやり取りが発生する仕事の方が継続的な受注につながりやすいですし。ただ、すべてそういう仕事ばかりだと業務負荷が大きすぎるので、図面どおりにつくるだけの仕事とのバランスを考えながら受注しています。

人材育成にも独自の考えがあるとか。

「根本を理解することの重要性」を従業員に説くようにしています。ここで言う「根本」とは、自分のつくる製品がどんな働きをするのか、なんのために、どんなシチュエーションで使われるのか、ということです。

根本を理解することが大事な理由は?

仕事が楽になるからです。例えば、駅に設置する柵を考えてみてください。この柵をつくる際に一番注意しなければならないのは、「人が手で触っても絶対にけがをしないこと」です。それがわかっていれば、「面取りが必要な場所を理解して製作する」ことを考えます。つくる側は楽だし、受け取る側も安心です。

顧客の意向を把握することが重要。

そう思います。レーザでブランクを抜き、曲げていけば確かに形にはなるでしょう。でも製品として十分な機能を備えているかは別問題です。また、根本を理解していないとトラブルが起きたときに解決できません。当社でも何かトラブルが起きたとき、なぜ起きたのかを答えられる人と答えられない人がいます。

その考え方をどのように浸透させていますか。

この数年は年初に会社としての目標を印刷して渡すようにしています。2025 年は①危険予測をしよう、②根本理解をしよう、③プロ意識をもとう、④基本の3S を実行、⑤共有と仕組み化の5 点を掲げました。トラブルが起きたときは改善のチャンスと考え、「製品の根本を理解していれば起きなかったよね。根本の理解が大事だよ」と伝えます。当社にはベトナム人の機械オペレーターやCAD/CAM 担当者も働いているので、印刷して渡す紙にはベトナム語も併記します。全員で目標を理解し、取り組めればと思っています。
事業継承は柔軟な考えで

今後、どんな会社を目指しますか。

当社の理念は「私ができることを引き受けます。私ができないことをお願いします。ともに協働しましょう」です。この理念に賛同してくれる方と協働の輪を広げていければと思います。また人口減少が続く中、現在の主力である建築関連の未来はあまり明るくありません。エンディング関連の仕事は現状ではほとんどありませんが、人が必ず死を迎えるという意味で市場としては持続性が期待できます。将来、建築関連とエンディング関連の割合が逆転するかどうかはわかりませんが、時代の変化に合わせつつ“人があまりやりたがらない仕事”を手がけられればと思います。

事業継承に対する考えは?

現在はさまざまな手法があると思います。後継者は親族や社内から募ってもいいですし、M&A(合併・買収)という手もある。いろいろな考えで事業継承の方法を模索します。ただ、創業者として従業員に今後の心配させないように、正しくレールを敷いてからバトンタッチしたいですね。
まつおか こうじ:1968年8月2日生まれ、57歳。東海大学工学部を卒業後、技術系派遣会社勤務を経て93 年ケーオージェーエンジニアリングワークス(現KOJ)を個人開業。趣味はゴルフ。愛車は赤のフェアレディZ。