おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
10 月初めの長期連休・国慶節も終わり、年末に向けて今年の「年会」の通知が届く時期になりました。年会とは、主に年末に行われる1 年の締めくくり集会のことです。企業の忘年会も同じように年会や年度大会と呼ばれることもありますが、この時期に届くのは各種団体や協会の主催によるものです。特に今年は第14 次五カ年計画の最終年ということもあり、来年以降の目標・発展の方向など、例年に比べて内容が豊富で開催規模も大きいようです。
具体化する「年会」
新エネルギー自動車関連のネットワーキンググループから送られてきた年会のプログラムを見ると「自動車部品メーカーのロボット部品メーカーへの転身」の見出しが、そしてAM(金属積層造形)3D プリンティ第 13 回年会通知から見るトレンドと変化ング関連団体のものには「AM のコンフォーマル冷却とその投資効果」の見出しがあり、具体的な内容が目立ちます。また、ゲストとして政府系関連団体の代表や権威ある大学教授が含まれ、関連政策や業界動向、新技術の発表や座談会、さらには視察も含めて2~3日間かけて実施される年会もあります。会場には協賛企業の紹介ブースや、ドリンク・軽食サービスのある交流スペースも用意されているようです。
金型関連団体や企業ネットワークの年会でも「ロボット」や「海外進出」というキーワードとともに、今年の事業報告として海外視察や海外注文受注率、SNS などを通じた情報発信数など、国内産業の新たな流れと国外に向けた発信の成果が発表されるでしょう。年末に集まって円卓で食べて飲んで…という形から、効率化最重視のデジタル化を経て、より細分化されたサロン式交流の場へと変化しています(図1)。
図1 安徽省自動車業界協会の年会案内(出所:同協会wechat )
中国企業の自信と悩み
数年前に参加した金型関連団体の年会で知り合った方から、「日本人目線のアドバイスがほしい」という連絡をいただきました。お互いに金型メーカーで成形も自社でやっていることは知っていたものの、今回初めて彼の会社を訪問して、ほぼ同じ製品を製造していることを知りました。彼の会社は、その製品分野において中国でトップ10 に入る有名な企業で、研究開発部門をもち、その研究成果をいち早く製品化するための最新加工設備や検査体制も揃っています。海外からの引き合いも多く、日本企業からの問合せも増えていると言います。日本企業からの提案は、技術協力です。
ほぼ同じ製品を製造していることを話し、「アドバイスをする立場にない」とお断りをすると、彼は即座に「市場を知っているのがわが社の最大の強み。同じ製品をつくっていることなど問題にならないし、コピー製品がつくられる速度よりもっと速く新しい製品を開発するから大丈夫」と言い切りました。そして、「スマートフォンや家電で有名な企業が新エネルギー自動車や家庭向けヒューマノイド型ロボットを発売する時代になって、機械工学、AI アルゴリズム、データ分析やアフターサービスまで考えたメーカーにならなければ生き残れないのに、同じような製品をつくっていることなんて問題になると思うか」と逆に聞かれ、言葉に詰まります。
ほかにもオランダ企業の案件で、リサイクル材利用比率を上げるための協力の一環で生産状況の透明化も進めているそうです。彼の今の最大の悩みは「娘に今の事業を任せるかどうか」。留学先から帰国し、すでに彼の会社に入社しているものの、社長として、父親として、今後どのように育てていくか迷っていると話してくれました。自社の技術力や生産力に自信を見せながらも、その製品や技術をよく知る人の意見を広く求めるアンテナの高さと、情報をオープンにする懐の深さに感心するとともに、60 歳を超えた父親のリアルな横顔に親近感も覚えました。
協力体制の変化
私の会社は、寧波市付近の比較的小規模な1 工程だけに特化した企業、もしくは特定の領域に強みをもつ企業と広く協力体制をしいています。当社を含め、彼らの得意・不得意を共有しているおかげで、ムダな見積もりをつくったり確認作業をしたりする必要がなく、信用を前提とした目に見えないプラットフォーム上で緩やかにつながっています。この体制のもとで、取引先を紹介し合ったり共同で受注したりする案件が増えてきました。
そこに今、海外からの引き合いが増えている、もしくは海外との取引を拡大したいという、独自技術や優れた研究開発チームなどをもつ「尖った」企業が、中国を知り海外事情にも見識をもつ当社との交流を求めてつながってきています。2016 年頃に同じような海外ブームの時期を経験しましたが、2024 年頃から徐々に技術力のある中小企業が海外との接点を拡大しており、物質的な海外進出や「海外から技術を提供してもらって量産は中国」という従来型ではなく、製品開発から販売・アフターサービスまで双方が深く関わるような協力体制に変わってきています。
天候予測とAI を利用した生産管理や、高度に集約されたサプライチェーン管理、ドローンによる植林伐採計画、農薬散布などの事例とともにブランド化された農作物が増え、無人レジやAI カスタマーサービスも珍しくない時代です(図2)。リサイクル分野も、欧州では義務を保障するため可視化が求められ、米国では州ごとに義務化が進むもののブランドイメージ重視、ほかの地域では輸出前提で新しい産業が自国にもたらされ、国際基準を「自国の基準」として採用していくなど、地域でモノや技術の価値基準が異なっています。だからこそ自社が何者であるか、強みは何なのかを誰にでもわかるよう簡潔に説明し、その情報を常に発信し続けることが必要な時代になりました。
図2 広東省の住宅積立金センターのAI カスタマー サービス。役所や大手保険会社、ショッピングセ ンターなどでも見かける
中国の多くの金型メーカーが海外に低コスト以外の価値を探しに出かけ、国内事例研究のために飛び回っていた2025 年。その報告会にあたる年会を通じて情報を共有し、来年以降の自社戦略に役立てていくことでしょう。