おがた あきこ:董事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役
神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業界経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
日本人にとって馴染み深い大連
JETRO の統計によると、大連市における日本企業の数は2023 年現在で約1,700 社、約3,000 人の日本人が住んでいるそうです。大連市には中国最大の日本語教育施設である大連外国語大学があり、日本語人材が豊富であることに加えて、海に面した地形や気候など、日本人にとって活動しやすいエリアの一つでもあります。また、中国東北地区で日本企業の進出が最も多く、その約60 %が製造業であることから「日本製造業の北の集積地」と言われています(図1)。
タフな金型産業ネットワーク
1990 年代に日本のメーカーが経済技術開発区に拠点を構えていく中で、特に金型用部品の製造・販売企業の進出がきっかけとなり、地元金型企業と日本のメーカーの交流が活発化していきました。
大連の金型工業協会は、経済技術開発区や市の工業技術交流センターなどの協力のもと、日本の技術者やメーカーとのコミュニケーションを重ねながら、日本の品質管理や生産管理、技術を学び、材料や表面処理などを手がける地元金型関連企業との関係づくりにも積極的に取り組んできました。日本品質のものが何でも揃う地元の金型関連産業のネットワークは、金型工業協会の大きな収穫であり、特色の一つになりました。
こうして日本の多種多様なビジネス習慣を柔軟に受け入れたことで、大連では中国のほかのエリアとは違った、強靱な金型産業ネットワークが構築されました。メンバー同士で得意分野の情報を共有し、国内外の展示会へ共同出展するなど、緩やかな協力体制が形成されています。
「大連を離れる理由がない」
大連鴻森精密模具有限公司は、ダイカスト金型製作をメイン事業として2006 年にスタートした企業です。当時、大連には中大型ダイカスト金型の設計から製造まで対応できる企業が数社しかなく、自動車関連などの成長産業は主要な顧客となりました。
規模拡大を続けながらも、新技術の研究や製造と検査の一体化を進め、治具製作にも積極的に取り組み、会社設立10 年にも満たない2014 年にはダイカスト成形部門を設立、金型設計から成形まで幅広いサービスの提供を始めました。ISO9001、14001、IATF16949などの「国際規格に沿った管理」と、「積極的に技術を向上させて市場に還元する取組み」、顧客ニーズを満足させる「ワンストップサービス」の対応など、安定した経営を続けています。中国が2001年にWTOへ加盟して国際資本が国内に流れ込み、中国経済全体が急速に発展していた時代に、その流れに乗りながらも今自分たちがやるべきことを判断し、自分たちのペースを保つことは経営者にとって勇気のいる選択だったと思います。
同社の于丽娜副総経理は、「金型関連サプライチェーンが完全に整っていて、サプライチェーン全体の質も高い。大連を離れる理由がない」と言い切ります。ダイカスト成形部門を立ち上げたことで、金型材料やメンテナンスへの意識がさらに高まり、新しい加工方法や治具の開発にも着手しています。今では40 人近くの技術者が在籍し、関連特許も数多く保有しています。最適な焼入れやめっき処理など、外部の専門家たちのネットワークという「後ろ盾」があるからこそできることが増え、自信をもって進んでいけたのだと思います。2020 年にはプラスチック金型や成形に強みをもつ企業を正式に傘下に収め、業務の幅はさらに拡大しています。
日本にいる錯覚を覚える金型メーカー
「金型設計・製作」から「金型設計・製作+成形」、「金型設計・製作+成形+R&D」へとビジネス形態を変えて約20 年間を歩み続けている同社の、1 万㎡以上ある敷地の門をくぐると、静かでほっとするような落ち着きを感じます。と言うのも、工場内には合計で100 台以上の成形機や工作機械、検査用設備などがありますが、ゆったり設計で5S 活動が行き届いているのが一目瞭然だからです(図2)。稼働していない設備はほぼなく、音はしているのになぜか「静かで落ち着く」工場で、日本の工場を見学しているような錯覚を覚えます。
工場内を説明してくださる于副総経理は口数が多いタイプではなく、周囲のサプライヤーと切磋琢磨しながらともに成長し、違う文化をもつ企業と一体になって突き進んでいくようなパワーの持ち主にはとても見えません。しかし、最近力を入れている成形品(図3)や精密な深穴加工、今後の改善点などの前向きな話題になると、控え目ながら熱意と電気が走るような強い意志が伝わってきます。
華東地区へ進出してきた外国企業を中心に長年にわたって日本式の対応を続け、近年やっと日本企業でありながら地元企業との交流を増やす努力をはじめた当社と、東北地区で国際化の波に乗って地元地域と一緒に工業化戦略を考え、ネットワークを構築しながら外国企業の商習慣を理解・吸収し、自分たちのやるべきことを多角的に考え邁進してきた大連鴻森精密模具有限公司。立場は違うものの、中国の急速な経済発展の歴史の中で国際化や地域の影響を強く受けた金型メーカーだと思います。
中国に国際市場が開放されて20 年以上が経過し、当社が30 年前に日本から中国に目を向けたように、中国の金型メーカーや金型関連産業も海外へ目を向け始めています。中国に来た外国企業という立場から、中国企業と海外進出についてお話をする機会も増えてきました。改めて自社を認識し中国と海外を見つめ、経営戦略を立て直す必要があると日々感じています。
■取材協力
大連鴻森精密模具有限公司
遼寧省大連市経済技術開発区天華路7 号
URL:
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