icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2025.09.24

精密板金加工技術と異業種企業の技術を融合 新事業・新市場の創出を目指す―タシロ

  • facebook
  • twitter
  • LINE

㈱タシロ 代表取締役
田城功揮氏

 1966 年創業のタシロ(神奈川県平塚市)は、医療・食品機械から各種FA 機器まで幅広い機械・装置の部品を手掛ける精密板金加工メーカー。これまで積極的な設備投資を背景とした短納期戦略で急成長を遂げてきた。さらに最近では、異業種企業とのコラボレーションにより新事業・新市場の創出を狙うなど次代に向けて攻勢をかけている。同社の三代目社長 田城功揮氏に町工場の在り方と、これからの戦略について聞いた。

板金加工のコンビニを目指す

『プレス技術』編集部

どのような製品を作っていますか。

田城

医療器械・食品機械から産業機械に至るまで幅広い装置・器具の板金部品を作っています。現在、1 カ月あたり40 ~ 50 社と取引させていただいていますが、レーザからベンディング、さらに切削・表面処理・溶接(組立)に至るまで一連の工程をワンストップで引き受けることができます。数量的には半数以上が1 点から数点物です。量産対応では200 ~ 300 個前後の数量が多いですが、最大700 個までと、品物ごとに大きく変動するロットに対応できるのが特徴です。
ドラム缶の洗浄機械部品

ドラム缶の洗浄機械部品

筐体製品

筐体製品

御社の強みは。

超・短納期のサービスが得意なところです。板金加工の「コンビニ」を自称していますが、即日見積り、翌日納品に対応し、同業他社と比べて、おおよそ1/3 ~ 1/5 の納期で対応できると自負しています。それが可能となる要因として段取りスピードの早さがあります。例えば、生産ロットが2000 ~ 3000 個以上となってくると、一点物が飛び込んできても段取りを考えて二の足を踏まれるケースが多いはずです。その点、当社の場合、取引の大半が数点物なので何ら問題なく対応できます。
もう一つは従業員の多くが多能工であることです。レーザ、曲げ、溶接、ボール盤加工から配送まで1 人が複数の業務を担えるスキルを持っています。最後に情報の共有化が徹底されていること。いわゆる報・連・相が行き渡っていることがあります。その時々で終わっていない作業があれば、そこに人を集中させて停滞を解消することができます。
溶接工程

溶接工程

どのように生産統制を取られていますか。

専用の管理システムを導入しています。作業指示書にバーコードを付与し、ある仕事が今どこまで作業が終わっているか、現場に行かなくとも画面上で確認できるようにしています。そのほか、現場の作業者が毎日、例えば午後3 時などと時間を決めて、その時々の生産状況や課題を管理者に報告する仕組みにしています。こうしたことが職場全体の改善につながり、工場全体のスループットを高める方向に働いていると思います。

自社製品の開発・製造・販売をされています。

コロナ禍だった2020 年5 月に最初の製品を上市したのを皮切りにおおよそ3 カ月ごとに新商品を出し続け、現在までに16 種類28 点の商品を開発、自社EC サイトで販売しています。ラインナップにはアウトドア用品やインテリア・雑貨などが多いのですが、特にアウトドア用品である「3WAY ピザ窯」は2022 年2 月のギフトショーのLIFE x DESIGN アワードでグランプリを獲得し大きく売上げを伸ばしたほか、当社が名前を知られるきっかけにもなりました。今後もラインナップを増やしていくつもりなので、煩雑化を防ぐために事業部や販売専門の会社を設置して運営することも視野に入れて考えています。
「3 WAY ピザ窯」。焚き火台、燻製器、ピザ窯と1台で3 役をこなす。在庫を持たず都度生産できるのが強み。

「3 WAY ピザ窯」。焚き火台、燻製器、ピザ窯と1台で3 役をこなす。在庫を持たず都度生産できるのが強み。

自社製品が会社の窮地を救う

創業のいきさつは。

大手運送会社に勤務していた祖父(田城俊雄氏)が車好きが高じて自動車を修理して販売する仕事を始めたのが当社のスタートです。最初の2 年ぐらいは修理と整備だけでしたが、やがてプレス加工やスポット溶接などを使った部品加工を開始したそうです。さらに父(現会長 田城裕司氏)の代になってレーザやタレパンなどを導入したのを機に、より高付加価値な精密板金の世界に参入しました。複合加工ができることで大幅に生産効率が向上したと聞いています。その後のリーマンショックで一時、業績は下がったのですが、設備投資はその後も継続して実施していました。
マシニングセンタ

マシニングセンタ

ご自身は家業を継ぐおつもりでしたか。

最初はまったくそのつもりはありませんでした。会社を経営するなら「機械」よりも「人」に関わる会社を自らが創業したいという想いが強かったからです。実際、私が当社に入社する時期に前後して二足のわらじで人材関連会社の起業も果たしていました。

家業に専念しようと決断した理由は。

直接的にはコロナ禍がきっかけです。当社の売上げが前年同月比の半減してしまい、このままでは賞与も出せないという事態になりました。自分をここまで育ててくれた家業と、それを支えてきてくれた社員への想いもあったので立て直したいと思ったからです。家業に専念することを決意したと同時に、当社の現実を目の当たりにしてこれは私自身が社員に認めてもらうため試金石だと思うようになりました。

どう立て直しましたか。

最大の課題は人手不足でした。コロナ禍で技能実習生が獲得できなくなったことが大きな要因です。加えて在籍していた実習生も帰国できるようになると一斉に離職してしまい、現場がどうにも回らない状態でした。配置転換だけでは追いつかないため、新たな人材確保が必須でしたが、すでに最新鋭の加工機が導入していたこともあり、ベテランよりも飲み込みの早い若い人材が必要でした。

取組みの中身は。

一つは働きやすい職場にすること。そのために労務管理の改善や、業務効率化のための改善を実施しました。前者では土日を完全休業とし、月40 時間あった残業をゼロにし、代わりに基本給を上げて、残業分の給料が下がらないように配慮しました。後者では多能工化の実施や、生産情報共有の仕組化(定刻報告、違和感報告など)のほか、目標管理の導入やビジネスマナーの講習会の実施、また全員に名刺を持たせたりするなどして社員の意識改革にも取り組みました。
さらにもう一つ、自社製品開発の取組みも開始しました。若い人を採用するために何をすれば良いかと考えた結果です。当社は若い社員でもチャレンジができる環境にあるということを示したかったからです。

取組みの成果は。

当初こそ低調でしたが、ブランディングが浸透するにつれて効果が表れ、「3WAY ピザ窯」が受章した22 年には120 名、23 年には200 名と就職希望者が一気に増えました。特にここ最近は新卒を含めて毎月新入社員を採用している状況が続いています。いずれも20 代の若手が中心ですが、なかには設計と検査の技能を持つベテランも加入してもらえるなどピンポイントな補強も実現しました。また、既存の社員の間にも変化が現れました。第二弾、第三弾…と皆が自主的に関わるようになるなどやりがいを感じるようになったのです。
マシニングセンタ
新製品「ねこのひっかけ」。ドアにひっかけて使う。女性が考案した猫好きにはたまらない製品。

新製品「ねこのひっかけ」。ドアにひっかけて使う。女性が考案した猫好きにはたまらない製品。

おしゃれな蚊取り線香ホルダー「BONSEKI—盆石—」

おしゃれな蚊取り線香ホルダー「BONSEKI—盆石—」

自社商品ビジネスの今後は。

自社製品事業自体の売上げはまだ全体の1%程度に過ぎませんが、出し続けることでB toB の新規の引き合いにもつながってきています。ただ、あくまでもメインはB to B の仕事ですので、それに支障をきたすことのないようにバランスを取って続けていくつもりです。

社員育成に対する考え方は。

社員の皆には「メタルクリエイターになろう」と呼び掛けています。世間ではまだ技術者・技能者とデザイナーなどとを分けてカテゴライズしていますが、「技術・技能」を知っていれば喜ばれる物が作れるわけではありません。人と交わり、そのなかから新たな物を生み出せるクリエイティビティを高めてほしいと思っています。これはBtoB の部品でも自社製品でも同様です。当社がビジネスマナー研修に力を入れているのはそういう意味もあります。町工場だから機械を操作して物は作れるけど、先方との対話や交流ができないというのでは何が望まれているのかわからないからです。せっかく縁があって、ものづくりの世界に入ってきたので、より高い能力を身に付けてほしいと願っています。

仕事がないなら作り出せばいい

当面の目標は。

今後10 年間で現在2 億円の年商を5 倍の10 億円、さらに従業員数も5 倍程度に増やすことが当面の目標です。そのためにも新社屋の建設を検討しています。今の工場が手狭になっていることもあり、市内に3000m2 以上の土地を探しています。工場にある程度のキャパがないと今後、人も設備も入り切れなくなるからです。

目標達成のためのポイントとなるのは。

既存のお客様からだけでなく、新たな仕事を増やす活動がキーになると考えています。自社製品事業もそのうちの一つです。それとは別に私は「共創」と呼んでいますが、分野やジャンルを超えた異業種とのコラボレーションを通じて生み出される仕事もあります。社会には数多くの課題がありますが、その中にはものづくりが解決できる案件も多くあります。1 社では解決できなくとも町工場らが力を合わせれば解決でき、それがビジネスになります。

どんな方と一緒にコラボされていますか。

今は地元の人たちとのコラボレーションを念頭に活動しています。地元からほど近い藤沢駅前(神奈川県藤沢市)に起業家や様々な専門家が集まる「イノベーションスナックみらぼ」という店があり、ここが地域の異業種交流の拠点となっています。日替わりでママを務めるのは私のような経営者やメンターたち。お客の中には県庁や市に勤める公務員、それに技術者やデザイナーもいます。お店での出会いが即、新たなビジネスに結びつく例もあります。当社のガチャガチャマシン「カプセルトイマシン」もそのうちの一つです。各地のイベントやカプセルトイの開発で共創できるように作ったものです。

オープンファクトリを構想されています。

地元企業10 社ぐらいと協力して、例えば予約制で1 日2 ~ 3 社を回れるような仕組みとしたいと考えています。土曜日に開催することでBto B、B to C を問わず、近隣の方々や家族連れが参加できるイベントを目指しています。一般の方にとっては町工場の仕事を知っていただく良い機会になりますし、「町工場」のブランディング向上に一役買いたいと思っています。
たしろ こうき:1992 年生まれ。32 歳。大学卒業後、大手人材紹介会社を経て、2019 年入社。2023 年、代表取締役就任。趣味はバスケットボール、旅行。

関連記事