icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

プレス技術 連載「世界のなかの日本、日本のなかの世界」

2026.08.27

第21回 「第二の故郷」をつくるJET プログラム

  • facebook
  • twitter
  • LINE

帝京大学 平田 好

ひらた よしみ:外国語学部長 兼 日本語教育センター長。早稲田大学卒業後、1995 年からベトナムを皮切りに世界各国で日本語教育に携わる。2021 年より帝京大学教授。2022 年より日本語教育センター長、2025 年より現職。修士(国際関係学、2000 年早稲田大学)。
 地元の小学校・中学校・高校で、英語を教えている外国人に出会ったことはありませんか。大半は、JET(ジェット)プログラムの英語指導助手です。日本人の英語教員のアシスタントとして、発音モデルを示したり、会話活動を支援したり、教材作成を手伝ったりしています。国内の特定の地域に2 ~ 3 年間滞在して、学校で英語を教えるだけでなく、地域のさまざまな活動にも参加しているはずですから、家族に児童・生徒がいない方でも見かけたことがあるかもしれません。

英語教育を超えたJET の意義

 JET プログラムは、The Japan Exchange andTeaching Programme の略称です。日本全国、約1,000 の地方公共団体がプログラム参加者を受け入れていて、約6,000 名が学校や教育委員会で活動しています。参加者たちの給与や渡航費は日本国民の税金が原資ですから、日本政府が英語教育事業に税金を投入していると言えます。しかし、その意義は英語教育にとどまりません。地域国際化のための公的事業でもあり、世界最大規模の国際交流プログラムと言えます。

 英語教育の専門資格や教員免許は必須ではありません。もちろん、優れた英語運用能力がなければなりませんが、日本に関心があり、地域社会との交流に意欲があることが重要な条件です。

 1987 年にJET プログラムが開始してから、82カ国から8 万名以上が参加しているそうです。プログラムの職種としては、国際交流員やスポーツ国際交流員もありますが、英語指導助手が90%以上を占めるため、これまでに7 万人以上が日本の小中高校で英語を教えたことになります。

元JET が担う日本語教育

 さて、筆者は世界各地で、元JET や、JET で日本に行くことを夢見る若者に出会ってきました。カナダは、アメリカ、イギリスに次ぐ大きな送り出し国の一つです。そのため、中学校や高校で日本語を教えている教員には、元JET が何名もいました。数学、社会科、体育など別の科目を教えていた先生が、日本に関心をもってJET に応募して、英語指導助手として2 ~ 3 年間日本で働き、カナダに帰国後は日本語も教えているというパターンです。

 ちなみに、JET プログラムの英語指導助手への応募では、日本語運用能力があれば有利にはなるようですが、日本語がほとんど話せない英語指導助手もいます。ですから、元JET だからといって日本語運用能力が高いとは限りません。高い日本語運用能力よりも重要なことは、日本に長期間滞在して、地域の人々と交流をしてきた経験です。そこで培われた多様な文化への理解力が、カナダの中学校や高校での日本語教育に活きるのです。

日本理解の窓口に

 カナダをはじめとする英語圏の初中等教育機関での第二(第三)言語教育は、多言語・多文化教育の一環であり、異文化理解、多文化共生、グローバル市民育成を重視しています。そのため、単に日本語運用能力を向上させるだけでなく、日本社会や日本文化を理解するための窓口として位置づけられています。ですから、元JET の先生たちが日本語教育に携わる意義はたいへん大きいと言えるでしょう。

 一方で、JET プログラムに期待して日本に行ったものの、1 年足らずでカナダに帰国したという方に出会ったこともあります。日本語運用能力が非常に高い方でしたが、「派遣された学校で、手足のあるテープレコーダー扱いされた」と憤慨していました。担当の英語教員を悪者にすることはできません。プログラム参加者として、英語指導助手という職種への理解が不足していたのかもしれません。なにかの食い違いがあったのかもしれませんが、自己負担なく日本に渡航して滞在できたこと自体には感謝していました。

カリブ海から日本へ

 そして、カリブ海の島国であるトリニダード・トバゴでは、JET で日本に行くことを目標として日本語を学び続けている若者が多数いました。アニメ、マンガ、ゲームなどを通して日本語を学び始め、ぜひ日本に行ってみたいという気持ちになったときに、JET プログラムはたいへん魅力的です。同国の経済事情を考えると、若者が自己負担で日本に渡航することは、かなりハードルが高いものです。JET という制度を利用して日本に行くことは現実的であり、学習のモチベーションにもなっているようです。

 実は、筆者の職場にも元JET が数名います。アメリカの大学を卒業した後に英語指導助手として来日して、その後、日本で修士号、博士号を取得して、現在、大学教員をしている者にJET の経験を聞く機会がありました。

「第二の故郷」となった離島

 応募したときの派遣希望地は、東京、大阪、名古屋などの大都市だったそうですが、実際に派遣されたのは南方の離島でした。今、振り返ると、それがよかったそうです。地域住民との距離がたいへん近く、学校だけでなく地域行事にも参加することで多くの友人ができて、「第二の故郷」になったと語っています。

 島特有の方言も自然に身につき、小学生に英語を教えることで、言語学の研究への意欲が湧いたそうです。JET プログラムでの仕事が終わった後、東京の大学院に進学してからも、何度も「帰郷」したと、うれしそうに話してくれました。

 英語を教えている外国人だからといって、英語で声をかける必要はありません。土地の言葉で声をかけるだけでも、地域社会との距離はぐっと縮まります。JET で来日した若者たちが、派遣された土地を「第二の故郷」とできるように、受入れ側も積極的に交流していきたいものです。JETプログラムの本質は人と人との交流にあり、小さな出会いの積み重ねが、日本と世界を結ぶ大きな財産となるのではないでしょうか。
(イラスト:奥崎 たびと)

(イラスト:奥崎 たびと)

関連記事