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型技術 連載「金型の未来を拓く技術者たち」

2024.10.07

未来の自動車に必要な一段上の「高精度・高効率」を目指してそれぞれの課題に日々挑む―ニシムラ

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波多野 将成
1994年12月6日生まれ(29歳)
愛知県瀬戸市 出身
製造部製造二課 ワイヤー放電加工機係
家では「黒夢」や「BOØWY」などの90年代~00年代初頭のバンドの曲を聴くのが好き。この年代ではバックミュージックが機械による「打ち込み」ではなく生演奏であるところが気に入っている。

林 卓也
1995年4月24日生まれ(29歳)
愛知県名古屋市 出身
製造部製造二課 治具研磨係
2歳から始めた水泳が趣味で、今でも週に1~2日は泳ぐ。泳いでいる間は「無心」でいられるのが心地いい。大学生までは競泳をしており、高校時代は県大会に出たことも。自己ベストは自由形50mで26秒。
波多野将成さん(左)と林卓也さん(右)

波多野将成さん(左)と林卓也さん(右)

 ニシムラは来年の2025 年には60 周年を迎える精密プレス金型メーカー。時代に求められた「高精度・高精密」な金型に応え続けてきた同社が現在全社を挙げて取り組むのは、水素燃料電池部品(金属セパレータ)の金型設計・開発。金型の製造だけではなく、顧客が求める精度を出すプレス加工技術の確立にも注力している。

 波多野さん、林さんは同じ製造二課に所属。波多野さんはワイヤ放電加工、林さんはプロファイル研削を担当している。両者ともに入社3 年目となり、日々の加工をこなすだけではなくさらなる精度の追求、そして作業効率化による生産性向上などを見据えている。
 精密プレス金型メーカーのニシムラは水素燃料電池用金属セパレータにおいて国内外での高い知名度を誇る。1965 年の創業以来、自動車関連メーカー向けの金型設計・製造を行ってきたが、2000 年代、某自動車メーカーが燃料電池車(FCV)の開発を始めたことを契機に同社内でもFCV 用セパレータの金型製造を開始。しかし、当時専務であった木下学社長は「金型製造1 本に頼らず守備範囲を広げていくべき」と判断。2010 年には同社独自の「テクニカルセンター」を開設しプレス機を導入。電池の中でも特に水素燃料電池の可能性に注目し、専用の金属セパレータの金型設計・製造とともに、金型の精度をそのまま反映できるプレス加工技術の確立に取り組んだ。現在では金型設計・製造から試作を含めたプレス加工までを同社で一貫して行う。

 2024 年1 月にはテクニカルセンターに1, 300 tのプレスも導入。金属セパレータは、水に電気を通すことで水素と酸素をつくりだす水電解装置にも使われており、これらは自動車用の金属セパレータよりもさらに大型。大型プレス機械の導入は自動車に限らない新たな需要を見越した投資だ。

「水素燃料電池は、CO2 を出さない究極の電池。また何より『精密な金型』と『精密なプレス加工』が合わさって初めて成形が可能であるところにニシムラとしてやるべき仕事だ、という手応えを感じています。良い製品をつくりお客様に喜んでいただき、そして環境改善に貢献できるならこれ以上のことはない」(木下社長)。

 また、高精度金型の加工環境改善にも取り組んでおり、4 年ほど前からは金型工場の温度管理に恒温室を設置。中でも2022 年1 月に導入した三菱電機製ワイヤ放電加工機「MP2400」は二重の恒温室内に設置。真夏でも±0. 5 ℃の環境の中で稼働することで、ばらつきを極限までなくした高精度加工を可能としている。
波多野将成さん(左)と林卓也さん(右)

技術をもって働く後ろ姿に惹かれて

 波多野将成さんは2021 年の11 月入社。前職では機械工具の営業をしていたが、当時営業先として出入りしていた工場で機械に向かい合って働く作業者の姿に一種のあこがれを抱いた。「日々求められる数字に答える営業職も充実はしていましたが、それ以上に自分自身に見える“技術” を手にして働いてみたいと思い、製造業への転職に挑戦しました」(波多野さん)。地域柄周辺には多くの加工メーカーがあるが、同社における金型精度追求のためのさまざまな試みを聞き、ほかの企業にはない将来性を感じたという。入社後は一貫してワイヤ放電加工機の担当だ。

 一方の林卓也さんは大学を卒業後2022 年の4 月に入社。理系学部の出身だが、理工学部ではなく農学部の出身だ。勉強してきた専門とはかけ離れた分野の企業だったが、合同の就職説明会でたまたま同社を見かけ、すぐ興味をもったという。「精密加工へのこだわりや、それを持ってしてどうやって水素燃料電池用の金属セパレータが出来上がるのか。そして水素社会がもつ将来性を聞き、わくわくしたのがきっかけ。畑違いですが飛び込んで良かったと思います」(林さん)。林さんも入社後は一貫して治具研磨・プロファイル加工を担当。最近では特にプロファイル研削盤を使用した加工を担当している。
波多野将成さん(左)と林卓也さん(右)

オリジナルのデータベースで追求する±2 μm の精度

 互いに入社から約3 年が経ち、それぞれが目の前の生産をこなすだけではなく、自身の仕事のやり方を振り返り、さらなる精度向上を目指し研究する過程にきている。波多野さんが最近注目しているのは機械メンテナンスの重要性だ。

「例えば給電子部分の摩耗や、ワイヤガイドの汚れや位置がずれていたりすると、断線につながります。社内の若手勉強会でメンテナンスについて改めて学ぶ機会があり、それからはさまざまな人にアドバイスをもらいながら進めています」(波多野さん)。

 また、毎日仕事をこなしていく中で日々業務を教えてくれる先輩社員の仕事ぶりはいい刺激になる。段取り作業1 つをもっても「先の先を見て動いている」のがよくわかるのだ。こなす加工の量も3:7で圧倒的な差があり、これを少しでも縮めていきたいという思いが波多野さんにはある。メンテナンスをきちんと行うだけで加工精度とスピードに大きな差が出てくる。まだまだスキルで追いつけない部分があるなら、まずは基礎をしっかりこなすことで近づいていけたらと考えている。

 また、もちろん加工精度とスピード向上に一番重要な加工条件の設定についても努力を重ねている。

「加工をしたときの電気の強弱や実際に切っていくうえでのオフセット量など、またその加工でどれくらいの精度を出すことができたかといった加工の結果とともに、実績表として記録をとっています。それらが自分なりのデータベースになり、また新しい加工を行う際の参考になります」(波多野さん)。

 波多野さんには決められた公差の中でも「おおよそ真ん中あたり」を出す、というのを自身の目標にしており、精度で言えばおおよそ±2 μm。ワイヤ放電加工機は一度加工をスタートしてしまえば、修正は不可能。「やれる限りの準備をして、あとは自分を信じて加工をする。緊張もしますが、しっかり結果(精度)が出ると本当にうれしい」(波多野さん)。もちろんその成功も、またデータとして記録され次の加工の精度を上げる手がかりとなる。

生産性と自分ができることの両立を

 林さんが最近特に心がけるのは、自身の業務における全体的な時間の短縮だ。

「現在主に担当するプロファイル研削では、量産用のダイやパンチの再研磨を多く担当します。1 日に10 数個は担当するのですが、量産用と言うこともあり、『1 つ何分で終わらせる』というスケジュールが特にシビア。ところがなかなか計画通りに進められず、課題を感じています」(林さん)。

 精度をしっかり出すためには砥石や加工対象の取り付け、芯出しなどさまざまな段取りや条件設定が必要になるが、これがうまくいかないと時間を忘れて集中してしまう。自分で対処できないものは早めに上長に相談すべきだがついつい「一人でなんとかしようと考え込んでしまう」という。

「自分の実力不足を認めて相談すべきラインをしっかり見極めないといけない」(林さん)。

 日々試行錯誤の繰り返し、という林さんだがもちろん自身の成長を感じる瞬間もあり、何よりのやりがいだ。自身の性格上「失敗したものは鮮明に覚えているタイプ」だが、だからこそ以前出来なかった部品の加工がうまくいくと、喜びもひとしおだ。

「日々の加工条件や結果はできるだけメモしているので、明日加工するものと同じものや近いものがあれば前もってメモを確認します。精度もですが、生産効率の向上に課題を感じているので、段取りが早く終わると特にうれしいですね」(林さん)。

 ただ、稀に「前はうまくいったのに、今回はなぜかできなかった」というケースも。求められる精度はすべて1/1000 レベル。そうなると例えばスピンドルを回すモータが熱をもってしまい砥石が安定して回らず絶妙な振動が出てしまうことも。そのほか砥石の状態が悪い場合や砥石の上下スピードを見直すべき場合などもある。さまざまな条件を見極め臨機応変に対応する必要があるのだが、林さんはこの「臨機応変」が苦手だと分析する。

「なかなか上長に相談できず考え込んでしまうのはここに原因がある。きちんと現場の状況を見ながら恐れず質問・相談してその結果を次に活かしたい」(林さん)。
波多野将成さん(左)と林卓也さん(右)

今している仕事の「一段上」を

 波多野さんの現在の目標は、「ワイヤ加工における作業の理解力を上げる」こと。例えば、毎日回ってくる図面も工場長がどこをワイヤ放電加工機で加工すべきか、どう加工すべきかを数値などできちんと書き示してくれている。しかし、それがなければ自分は仕事をどう進めたらいいかわからない、ということに危機感をもっているのだ。「こういう配慮がなくても自分の仕事ができるよう、ワイヤ放電加工以外の、前後の工程についても勉強しないといけないと思います」(波多野さん)。

 一方の林さんの目標は「プロファイル研削盤2 台の同時担当を実現する」こと。先輩社員は1 台の無人で、そして1 台を有人で稼働させているが、林さんはまだ1 台を有人で稼働させているのみなのだ。

「意味がないことはわかっていても不安もあり1台をつきっきりで見てしまう。今日1 日にどんな金型のワークが現場にきているかを見て、全体的な作業効率を考えること。どれが無人でできて、どれならつきっきりの必要があるかを考えて進める必要があります」(林さん)。

 日々、課題はあるが波多野さんも林さんも「やりたいこと」、「できるようになりたいこと」にあふれている。ニシムラ社内にある「精密金型・プレスの技術で未来の社会に貢献する」という空気が若い技術者の背中を押している。