井手 優輔
1985年7月24日生まれ(39歳)
佐賀県佐賀市 出身
研磨係
3歳と7歳の子育て中のため現在はセーブ中だが、趣味は中学校3年生から始めたエレキギター。オリジナル曲をつくってライブハウスで演奏するなど本格的に楽しんでおり、毎日短時間でも練習は欠かさない。最近は「リアクティブロード」という玄人向けの機材も購入。ますます演奏が楽しみに。
外尾 尭之
1989年11月9日生まれ(34歳)
佐賀県武雄市 出身
ワイヤー係
手を動かすのが好きで最近趣味となったのが「木材のプラモデル」づくり。五重塔や海外の城のようなモチーフが多く、出来上がったものはインテリアとして飾ることができ、完成後も楽しめる。パーツを外していく際も欠けないように特別注意が必要で、そういった「加減の難しさ」もおもしろみの一つだ。
佐賀県に工場を構える聖徳ゼロテック㈱はプレス金型メーカー。得意とするのは電機・電送向け電子部品を製造する、精密順送金型。また同社はトライプレス以外のプレス機械も量産用として保持しており、同社が製作した金型を使用した量産も多く手がける。社内に量産ノウハウを蓄積することで、より現場での使用に即した金型設計・製作、試作検証などを可能にしている。
そんな同社の金型づくりを支えるべく、技術研鑽に励むのは同社で研磨を担当する井手優輔さんと、ワイヤを担当する外尾尭之さんだ。自身の担当する加工技術や機械への理解を深めることはもちろんのこと、その先にある同社ならではの「金型設計」にも、興味関心を深めている。
精密金型の時流とニーズを捉えて
同社で製作される精密順送金型はコネクター端子などの電子部品(電機・電送)製造向けがメイン。対応している板厚は0. 05~6 mm までと幅広く、弱電・強電部品両方の金型製作の受注が可能なのが大きな強みだ。また、同社では量産部門も保持しているため、実際の加工現場での使用状況なども加味した、高精度の再現性と量産性を両立した金型を実現している。プレス加工現場での課題やニーズを取り込むことにも力を入れており、同社が開発した「ハイブリッド金型」は順送とトランスファー金型の機構を組み合わせることで歩留まりを従来の30 %向上。金型と搬送装置が一体化していることでプレス機械間の移動と再設置が容易になっており、BCP対策にも大きな効果を発揮する。近年は空気による吸着機構を応用して薄物の素早い搬送も可能になった「ハイブリッド金型Ⅱ」も発表し、展示会などで注目を集めている。
また、同じくプレス加工メーカーの現場で課題となっている「古い金型」の取扱いにもビジネスチャンスを見いだしている。金型メーカーの廃業が相次ぎ、またプレス加工の現場にも金型メンテナンスを行う人材が不足。依然量産に活用しているにもかかわらず、古い金型をメンテナンスすることができず途方に暮れるプレス加工メーカーが増えているのだ。同社ではそんな古い金型のメンテナンスや、図面なども残っていない壊れた金型をもとにした金型製作なども積極的に行い「金型ドクター」としての機能も確立させつつある。古い金型からは思いも寄らない機構を学ぶこともあり、それがまた同社独自のノウハウとして蓄積されている。
「モノづくり」への関心が背中を押して
井手さんが同社に入社したのは2019 年。入社以来6 年間金型部品の平面研削盤などを使用した研磨を担当している。入社前は溶接、塑性加工関連、家具の製造、そして医療関連機器や訪問介護関連のサービスの紹介や営業を経験。どの仕事もそれぞれやりがいはあったが最後の営業職を経験したときに「やっぱりモノづくりに戻りたい」と思ったのだという。
「モノづくりの一番の成果はやっぱり目の前に自分の『成果』が見えること。今の研磨の仕事は特に今日やりきった仕事がわかりやすいので、向いていると思います」(井手さん)。
一方の外尾さんが入社したのは2023 年9 月。まだ入社して1 年程度だ。手を動かすのが好きなこともあり、愛知県の自動車の組立ラインで働いてきたが、単調な作業に少々辟易し同時にもっと「モノづくり」のおもしろみを感じたい、と思ったという。佐賀県に戻ったのを機に転職活動を始め、同社に出会った。佐賀県に戻ってからポリテクセンターでCAD について勉強していたこともあり、同社の事業である精密金型製作は魅力的に映った。
「金型といえばモノづくりの基本。すぐに興味が湧きました」(外尾さん)。入社から半年はフライスなどを担当したが、現在はワイヤ放電加工機の担当として奮闘している。
上げるべきは自分の感覚の『精度』
現在、井手さんが所属する研磨係の担当者は5 月に入った新入社員を含め3 名。入れ子、パンチ、プレートなど大きさや形状はばらばらの部品が日々舞い込んでくる。入社してからのほとんどのキャリアは「研磨」。仕事にも十分慣れており、新人指導をするまでになっているがそれでも「日々勉強と反省」だという。
「大体±3 μm の精度を狙って研磨するような難しいものは汎用機で仕上げていきます。カウンターを確認しつつz(砥石の高さの位置)とy(砥石が動く前後の距離)を最適な数値に調整するのですが、砥石自体が摩耗していたりすると思ったより当たっておらず、カウンターと実際の位置にずれがあることも。削っては測り、削っては測りを繰り返して少しずつゴールを目指しています」(井手さん)。
しかし一方で、最近自身に必要なのは「いかに多くの仕事を機械にさせるか」という視点だと痛感するという。精度を出すには前述のように少しずつゴールの精度に「にじり寄って」いくことが確実。しかしそれでは時間のロスが大きい。やはりできるだけ測定の回数を減らし、最短で求める精度にたどり着く必要がある。そのために結局必要なのは「勇気」だと井手さんは言う。
「それなりの経験を積んではいるので本当はそこまで測定を挟まなくてもいい。でも、失敗が怖くて計ってしまうという気持ちの問題でもある」(井手さん)。
そこで最近は測定の回数を決め、そのときに出す目標数値もシビアに設定。「次の測定でこの数値を出す、と決めると集中もしますし細かな違いにも敏感になります。最近大きな手がかりにしているのは“音”。きちんと砥石が当たった瞬間の音と研磨がスムーズに始まった音は確実に違う。数値上は当たっているはずでも音が違うと、おや…と思い見直しができる」(井手さん)。
学ぶことはまだまだあるけれど最後に頼りになるのは「感覚」。自分自身の感覚の「精度」を上げるのが大きな課題であり、楽しみでもある。
機械ごとの違いもモノにするために
一方の外尾さんは、ワイヤ放電加工機の担当になってやっと半年。毎日機械に振り回されて忙しいです、と笑う。
「とにかく寸法が出ないので必死です。入社後少しの間担当したフライス盤などは手作業で後から微調整ができますが、ワイヤは設定したらもう後は機械に任せるしかないので、祈るような気持ちになることもあります」(外尾さん)。
現在同社のワイヤ放電加工機の担当者は若手が多い。お互い相談し合いながら設定を決めているが、経験不足がゆえ、トラブルなどの対処法の種類が乏しいのがつらいところ。例えばダイプレートなどは入れ子が入ることもあり特に寸法が±3 μm と特に厳しい。そこでいったん小さめに穴をあけその後、削り過ぎないよう加工スピードを上げて再加工して狙った寸法の穴を仕上げるという方法をとっている。しかし、これでは機械を余分に回すことになり効率が悪い。なんとか最初の調整で「一発で」狙ったサイズの穴をあけたい。
外尾さんがもう一つ難しさを感じているのは「機械ごとの癖」がなかなかつかめないところ。先日、ある超硬のパンチを加工することになったのだが、テストカットができず仕方なく鉄のパンチを加工した際の経験を考慮しつつ加工をした。鉄の加工の際は+気味(+8 μm 程度)に加工できていたため、その数値より少しマイナスになるよう補正値(ワイヤ自体の厚みと電流が流れる際の幅を考慮して足し引きする数字)を入力する。
ところが、「担当する機械にもともと超硬はかなり小さめにカットしてしまう癖があったようで、そこにマイナスの補正値をいれたので完全に寸法外れ。パンチで小さめにカットしてしまうと前工程からやり直しですから落ち込みました。機械のくせと材料の相性。もっと勉強しないといけない」(外尾さん)。
最近では、ワイヤ放電加工機のメーカーが主催するオンライン講習などにも積極的に参加し、まずは加工技術と機械への基礎知識を固めるべく行動している。
もっと金型設計に意見が言える「担当者」に
井手さんの今の目標は「設計にも意見が言える研磨担当者」になること。最近時間を見つけてはよく図面を読むようになった。社内外問わず多くの図面を見ていると類似点や違いが目につき、「本当に研磨でこの精度は必要なのか」と疑問に思うことも。設計担当者に質問しながら疑問を解消するようにしている。「必要のない過剰に厳しい寸法をなくせば、もっと仕事の負担は減り、早く加工をこなして次の工程に回せるようになる。研磨担当の視点も金型設計に役立ててもらって、金型の精度と業務の効率化を両立できるようにするのが今の目標です」(井手さん)。
また、外尾さんも金型設計には大いに興味がある。金型の組みつけの現場は時間があればよく見に行くという。「順番通りに部品がはまっていく様子は単純におもしろく、そのうちのいくつかは自分がやったんだと思うとうれしい。ああいう風に組むから精度が厳しいのか、など勉強にもなります。CAD を学んだ経験を活かしたいので、いつか設計も担当したい」(外尾さん)。
日々の学びと反省、達成感が確実に「金型」自体への興味、そして「貢献」への意識につながっている。