*ありもと かずまさ:Custom Solution Technical Account Manager
はじめに
現代の製造業において、品質管理は企業の競争力を左右する重要な要素である。製品品質を維持、改善していくためには統計的手法を駆使したデータ分析が不可欠であるが、この点を課題としている企業は少なくない。HexagonのQ-DAS(QualityData Analysis System:キューダス)は、製造プロセスにおける品質データの収集、解析、報告を効率的に行うための強力なツールとして広く認識されている。本稿では、Q-DASの基本的な機能とその適用範囲について詳述し、特に製造業における品質管理の向上にどのように寄与するかについて述べる。本稿が、製造業の皆さまの品質管理業務の一助となれば幸いである。
日本の自動車産業における近況
近年、日本の自動車産業においてIATF16949 の導入が増加している。IATF16949 は自動車産業向けの品質マネジメントシステムの国際規格であり、ISO9001 をもとに自動車業界特有の品質要求を追加している。この規格はグローバルにおけるサプライチェーン全体の品質向上とリスク管理を目的としており、日本のサプライヤーはIATF16949 の導入により、国際市場での取引機会を広げ、グローバルな顧客要求に応える能力を高めている。これにより、品質管理の標準化、効率的なプロセス管理、継続的改善が進み、顧客満足度の向上にもつながっている。
IATF16949 運用における課題
日本の自動車産業においてIATF16949 の導入が増加している背景を受け、ここではその運用における課題と製造業への影響について述べる。
IATF16949 は、自動車産業の品質マネジメントシステムの国際規格であり、その実施において重要な「コアツール」と呼ばれる手法が存在する。コアツールは、品質管理とプロセスの改善を支えるために使用される。その中で品質における重要な項目であるSPC(統計的プロセス制御)とMSA(測定システム解析)において、いくつかの課題が存在し、日本国内においては主に以下の課題が挙げられる。
まず、教育とスキルの不足が挙げられる。SPCとMSAの効果的な運用には、統計的手法やデータ解析の知識が必要であるが、これらのスキルを持つ人材が不足しており、特に中小企業では専門的な教育やトレーニングの機会が限られている。
次に、データの質と管理の課題がある。SPCやMSAでは、正確で一貫性のあるデータが不可欠であるが、データ収集手法が不十分な場合や、データ管理システムが整備されていない場合、品質の高いデータを得ることが難しい。また、日本の企業文化では経験や勘に頼る傾向が強く、データに基づく意思決定やプロセス改善が浸透しにくいという文化的な障壁も存在する。
さらに、コストとリソースの制約も重要な問題である。SPCとMSAの導入にはソフトウェアや機器の購入、トレーニングの実施などにコストがかかり、特に中小企業ではリソースが限られているため、導入が進まないことがある。
加えて、新しい手法やシステムの導入には既存プロセスの変更が必要であるケースが多く、そのためには従業員の抵抗感を克服し、組織全体で受け入れを促進することが重要である。
MSAでは測定システムの信頼性と精度が重要であるが、古い設備や不適切な管理が行われている場合、信頼性のある測定データを得ることが難しい。また、SPCとMSAは継続的なプロセス改善のためのツールであるが、改善活動が一時的に終わることも多く、持続的な改善サイクルが確立されていない場合もある。これらSPC、MSAの運用における課題は自動車産業のみならず、製造業全体に共通する問題であると言えるだろう。
製造業における品質管理の進化
近年、日本の自動車産業ではIATF16949 導入の増加もあり、ソフトウェアを活用したSPCとMSAの導入が進められている。しかし、SPCとMSAの運用には人材不足、データの質と管理、企業文化、コストとリソース、設備の老朽化、改善サイクルの未確立などの課題が存在する。これらの課題を解決するのが、Hexagonの品質管理ソフトウェアQ-DASである。Q-DASは、製造プロセスにおける品質データの収集、解析、報告を効率的に行うためのソフトウェアであり、SPCとMSAの運用を効率的に支援する機能を備えている。Q-DASを活用することで、企業は大量のデータから迅速かつ正確に異常を検知し、原因を分析することが可能になる。これにより、製品の信頼性と安全性を向上させ、さまざまなリスクを低減することができる。また、Q-DASはデータ分析と評価を体系化し、異なる測定機間の互換性を高めることで、OEMやサプライチェーン間でのデータ共有と連携を強化することを可能としている。これらの取組みは品質管理の精度を高め、産業全体の競争力強化に貢献する。
さらに、Q-DASは製造プロセスにおける継続的な改善を促進する。プロセスの安定性を監視し、異常を早期に検知することで、タイムリーな改善策を講じることが可能となる。また、収集したデータを分析することでプロセスの改善点を特定し、より効率的で高品質な生産体制を構築することができる。これらの改善活動はコスト削減、生産性向上、顧客満足度向上など企業の経営全体に好影響をもたらす。加えて、Q-DASは統計的手法の活用を促進することで、データに基づいた客観的な意思決定を支援する。経験や勘に頼った従来の品質管理から脱却し、データドリブンなアプローチを導入することで、より効率的かつ効果的な品質管理体制を構築することができる。
これらは企業における品質問題の発生を未然に防ぎ、顧客に高品質な製品を提供することに貢献する。
Q-DAS の特徴的な機能
Q-DASはフォルクスワーゲン社やゼネラルモーターズ社をはじめとする欧米の自動車市場において品質管理ソフトウェアのデファクトスタンダードとしての地位を確立している。また、自動車業界のみならず、航空機業界や精密機器業界にも数多く導入されており、56カ国以上の国々において、採用企業数は8000社以上にもなる。その理由は数多くあるが、Q-DASの特徴的な機能について3つ詳しく説明する。
1.評価戦略機能
「評価戦略機能」は、品質管理プロセスのデータ分析と意思決定を効率化する機能である(図1)。この機能により製造業における品質データの収集、分析、評価を体系化し、プロセスの改善が可能となる。また、企業のニーズに応じて評価基準や分析方法をカスタマイズでき、特定の業界標準や規制に対応した評価基準を設定可能である。これによりSPC やMSAを用いてデータの分析と評価を行い、潜在的な問題を早期に特定できる。当機能では必要な処置や数式が登録されており、企業のコンプライアンス遵守を支援する。設定後、自動的に各測定項目に適用されるため、品質評価における専門性の高さや属人性の問題が解消される。
図1 評価戦略機能 実際に適用された手法の把握が容易にできる
2.カタログ機能
「カタログ機能」は、品質管理プロセスにおけるデータや用語の標準化と一貫性を確保する(図2)。この機能によりデータや用語の整理や管理を効率化し、分析や報告の精度を高めている。これらの入力や管理が効率化されることで、作業時間を短縮し、入力ミスを削減する。標準化されたカタログを使用することで異なる部門や企業間でのデータの一貫性を保持できる。
図2 カタログ機能の登録例 作成されたカタログは同じソフトウェア間での共用が可能
3.測定器データの統合による管理の効率化
Q-DASは100を超える測定器メーカーとパートナー契約を結んでおり、広範な互換性を持っている。これにより異なるメーカーの測定器からのデータを一元的に管理し、統計的プロセス制御や品質管理に利用できる。Q-DASはパートナー企業の測定器からのデータを取り込むためのインターフェイスを提供し、データの互換性を確保している。また、パートナー企業のソフトウェア内にQDASファイルの出力機能を持つものも多く、具体的な対応機器やインターフェイスの詳細はQDASの公式ウェブサイトやサポートに問い合わせることで確認ができる。ただし、メーカーやモデルによっては特定の設定や追加のソフトウェアが必要な場合があるので注意が必要である。
これらの特徴により、Q-DASは品質管理の効率化と精度向上に貢献し、多くの企業にとって不可欠なツールとなっている。統計的手法を駆使したデータ分析および管理は、今後の製造業においてさらに重要性を増すと考えられる。
Q-DAS を活用した品質管理の運用効率化
ここではQ-DASを活用したSPCとMSA運用における標準化の例を紹介する(図3)。
図3 ソフトウェアを活用したデータ取得~評価の流れの例
まず、測定現場での装置使用に問題がないかを確認し、記録するためにMSAモジュールを使用する。このプロセスにより、装置の適切な状態が保証され、データの信頼性が確保される。Q-DASのMSAモジュールは、MSAの実施に必要な機能を備えており、Cg/Cgk、%GRR、直線性、安定性の分析が可能である。さらに、AIAG*1 のMSAマニュアルに記載された手順や自動車業界のほかの多くのガイドラインがモジュール内の評価戦略機能に組み込まれており、VDA5*2にも準拠している。
*1: 全米自動車産業協会(AutomotiveIndustry Action Group)が策定した、自動車産業における品質管理のガイドラインや基準。AIAGは、北米の自動車メーカー(OEM)とそのサプライヤーで構成される団体である。
*2: ドイツ自動車工業会(Verband derAutomobilindustrie e.V.)が策定した、自動車産業における一連の品質管理基準およびガイドライン。
次に、測定器から出力されるデータはさまざまな手法を経てQ-DASファイル(DFQファイル)として出力される。このファイルを活用することで、現場での結果評価も可能である。出力されたファイルは、サーバー上に設置されたファイル監視モジュールによって自動的にアップロードされ、サーバーに保存される。これにより、データは一元的に管理され、アクセス可能となる。データ管理者はQ-DASのSPCモジュールを用いてサーバーにアクセスし、蓄積されたデータを管理し、それを活用することで工程のマネジメントが可能となる。
工程能力に問題が発生した場合には、サーバー上の統計結果管理モジュールが自動的に関係者に報告メールを発信する。これにより、問題発生時に迅速な対応が可能となり、トラブルの拡大を防ぐことができる。
これらの機能を活用することで、企業はSPCとMSAの効率化およびトレーサビリティの可視化を促進させ、品質管理や生産プロセスの最適化を効果的に進めていくことが可能となる。
グローバルで戦い続けるために
Q-DASを活用したSPCとMSA運用の効率化の例を踏まえ、ここでは品質管理において今後、グローバルで戦うために必要なことについて考察する。
今後、企業が品質管理で変化に対応するには、データの一元管理と可視化、教育とスキル向上、データ品質の改善、コストとリソースの最適化、改善サイクルの確立、国際標準への対応が必要である。統計解析ソフトウェアを活用し、データを一元管理し可視化することで、迅速な問題発見と対応が可能になる。
特にQ-DASは、SPCとMSAの効率化およびトレーサビリティ向上を実現し、品質管理の全体的な向上を図る。これにより、生産プロセスの最適化と品質向上が効果的に進む。次に企業は教育やトレーニングを通じて社員のスキルを向上させ、データに基づく意思決定を促進することで、従来の経験や勘に頼る方法から脱却することが必要である。統計的手法を用いた品質管理はプロセスの安定性を監視し、異常を早期に検知することで、継続的な改善を実現する。さらに、IATF16949 などをはじめとする各国際規格への準拠を進め、グローバル市場での競争力を高めるため、評価基準を設定し、品質管理の標準化と効率化を実現する。これにより、企業は品質管理体制を強化し、顧客満足度と競争力を向上させることができる。