丸正精工(名古屋市守山区)は、ワンボックスカーのシート部品の加工に用いるプレス金型を主に手がける金型メーカー。近年、金型製作の受注が減少していく中で、主に部品加工現場にロボットなどのFA 設備を提供する省人化事業を開始した。現在では同社の売上げの8 割を占める主要事業にまで成長している。
300 t プレス機でハイテン材を抜く金型
丸正精工の創業は1970 年。現社長で2 代目となる今吉智彦代表取締役(図1 左)の父・榮氏が航空機部品を製造する会社として立ち上げた。その4 年後の74 年、取引先からの助言をきっかけに自動車部品製造向けの金型を製作する会社に転身。以後、約半世紀にわたり金型専業メーカーとして歩みを重ねてきた。
同社が主に手がけるのは、ワンボックスカーを構成する部品「シートレール」の加工用プレス金型。ワンボックスカーの後部座席は前後に特に大きくスライドする構造を備えているが、この動きは座席の底部に設置された、カーテンレールに似た機構をもつシートレールが担っている。シートレールの加工では、1 本につき300 個ほどの穴をあける工程があり、同社はそれらの穴をワンショットであけるためのパンチ金型を製作する。「メインとなるのは200~300 t の順送プレス向け金型です」(今吉社長)。
シートレールには安全性や低床化の点から最大120 kg のハイテン材が用いられているが、同社には加工に800~900 t のプレス加工機が必要なハイテン材を300 t 程度のプレス加工機で打ち抜く金型を製作する技術がある。「ハイテン材の知見が多くあり、金型構造の工夫や金型材料の改善などで、負荷の大きい加工を可能にする金型を実現しています」(今吉社長)。
金型製作の受注減からSIer 事業を開始
長らく金型一本で事業展開を進めてきた同社だったが、2008 年のリーマン・ショック以降、金型製作の受注が減少し、「金型だけでは会社として残っていけない」と今吉社長は危機感を抱くようになった。その中で、同社がさまざまな模索を経てたどり着いたのが、生産現場にロボットなどのFA 設備を提案する省人化事業、いわゆるロボットSIer(以下、SIer)事業だ。
同社がSIer 事業へ参入するヒントを得たのが、主要顧客企業からのある発注だった。「自動車のヘッドレストを固定するヘッドレストガイドの金型で、複数形状のものを1 つの金型でつくれないかというものでした」(今吉社長)。今吉社長と製造部の長谷川信製造部長(図1 右)は、要望に応えられる金型構造を検討する中で、プログラム制御によって金型内部の部品が移動し、複数品種の成形に対応できるものを考案。システム構築を外注することで無事実現した。「この経験は『こうした省人化の提案ならわれわれでもできるのでは』と思える強いきっかけになりました」(長谷川部長)。
そうした中、20 年頃からのEV の先行き不透明化や半導体不足などが影響し、自動車の新車開発が停滞。同社の金型事業への危機感はリアルなものへとなっていった。「金型以外の事業を始めなければならないと考えた中でまず手がけたのが、金型製作の技術が活かせる治具の設計・製作でした」(今吉社長)。
こうして部品加工を行う企業へ治具を展開していく中で、顧客から治具と関連が深い協働ロボットの導入にも力を貸してほしいという声がかかるようになった。当然ながら、同社にロボットを扱う経験はなかったが、「協働ロボットは従来の産業用ロボットと比べればシステム制御がしやすく、まずは私がワーク搬送など簡単なところから実践ベースで学んでいきました」(長谷川部長)。
ロボットを積載する架台や専用機を製造する技術をもつ同社は、これらをまとめて新たな事業の柱となるSIer 事業として提案することを決めた。「SIer のほとんどは、システム構築はできてもモノをつくることが得意ではありません。金型で培ったモノづくりの技術がベースにあるという点にSIer としての当社の優位性があると考えています」(長谷川部長)。
板金加工が必要になるSIer 事業のために、金型メーカーではあまり見られないレーザー加工機も導入した(図2)。また、ブランディングも意識し、SIer事業に「CRAEVO(クラエボ)」のブランド名を冠した。さらに24 年4 月には、同社の近隣にショールームを開設(図3)。ファナック製の協働ロボット「CRX シリーズ」が3 台(可搬質量5 kg、10 kg、20 kg)並び、訪れた顧客は実機に触れて実際の動きを確かめたり、導入を検討する工程での事前検証を行ったりすることができる。「CRAEVO は自動車部品関連の企業からの引き合いが多く、導入事例も増えています」(今吉社長)。
図3 省人化事業のブランド「CRAEVO」のショールーム(左)では協働ロボットの実機を展示する(右)
これまでに、旋盤の工具の自動交換や、量産加工品における工作機械へのワークセット作業の完全自動化などを実現してきた。現在、売上げ割合は金型事業が2 割、SIer 事業が8 割と、同社の主要事業となるまでに成長している。
SIer事業にこだわらず時代の先端を狙う
SIer 事業を展開していくにあたってポイントとなったのは、「社内でいかにこの変化を共有するかだった」と今吉社長は振り返る。「社員からすれば、金型事業が厳しいと頭で理解できても、実際に変わるとなると難しさが伴います。経営者が社員を巻き込んで、売上げ情報も社内で共有して、一緒になってやる気になっていくことが大事です」。また、ロボット人材の育成も一つのポイントになった。「当初は私の知見を伝える形で教育を進めましたが、若いと吸収も早い。若手のロボット人材は現在2 名。すでに私よりロボットを理解しています。納入先の顧客の喜ぶ顔が直接見られることもやる気につながっているようです」(長谷川部長)。
今後について、今吉社長は「今は金型の仕事が少なくなっている状況ですが、再び需要が高まれば金型製作も当然しっかりとやっていきます」としたうえで、「社員の待遇をより良くするためにも、当面は省人化事業を中心として利益を高めていくことが大事だと考えています」を話す。一方で、長谷川部長は「協働ロボットを活用した省人化は3~4 年で頭打ちになるのでは」と慎重だ。「省人化事業にこだわるのではなく、次に来るであろう時代の先端分野を躊躇なく狙っていきたい。ロボットに取って代わるものが何なのか、今から模索しています」。
自動車業界が変化していく時代の中で、金型メーカーにも新たな生き残り戦略を実践することが求められている。