自動車のドライブトレイン部品成形用各種金型の設計・製作を手がけるアイジーエヴァース(愛知県刈谷市)。高品質な自動車部品製造現場に欠かせない高精度の金型を設計・製作するメーカーとして蓄積してきた知見と技術は、大手自動車部品メーカーからの信頼が厚い。近年は高機能・高生産性の工作機械を導入する生産技術を高める取組みに加えて、それらを活用するための人材の教育体制を整える。明るく前向きに取り組む技術者とリーダーシップを発揮する技術者、広範囲な知識を蓄積して自己の能力を高めようとする技術者がそれぞれの立場、それぞれの持ち場で誠実に金型づくりと向き合っている。
物事の関係性・意味を考えて行動する
自動車の走行という基本機能に加えて、加速の滑らかさや乗車者が感じる音、振動などの乗り心地に関係するのが、トランスミッションやデファレンシャルギヤといった「ドライブトレイン」と呼ばれるユニットである。そうしたユニットを構成する歯車やシャフトを成形するための冷間鍛造金型に加え、射出成形金型やダイカスト金型など多種多様な金型の製作を手がけるのがアイジーエヴァースである。鍛造金型の設計・製作技術を活かし、燃料電池セパレータ金型といった新たな製品分野の金型に加え、最新の自動車の試作部品や航空・宇宙、医療向けなどの部品の製作も手がけるなど、機械加工分野の事業領域を広げている。
自動車の燃費向上や騒音・振動の削減に関する技術の進歩に伴い、ドライブトレインユニットを構成する部品に求められる形状や表面粗さなどの品質も高度化し、それらの源泉である金型に求められることも高度化している。金型ユーザーの依頼に対応するために、アイジーエヴァースは、5 軸マシニングセンタ(MC)や高機能放電加工機など、高効率・高品位な加工が可能な工作機械を戦略的に導入して生産技術力を高めるとともに、人材育成の仕組みを整えてきた。専門教育を受けた人材だけでなく、業界未経験の転職者、地元の若い人材を積極的に採用し、モノづくりに関する興味・関心を促すために、原則・基本をていねいに教えながら、自主性を引き出す指導で寄り添う。そうした取組みの中で、着実に力をつけてきた技術者たちがいる。
製造本部PD-1 グループの槌谷俊三さんは5 軸MC のオペレーションを担当し、金型部品や各種試作部品の製作に携わる。加工データをもとに、加工の進め方を検証・確認後、切削工具を取り付けたツールホルダをMC 内のオートツールチェンジャー(ATC)に収納し、加工する材料を載せたパレットをオートパレットチェンジャー(APC)に収納する一連の段取りを手早く確実にこなす。滞りなく、効率的に業務を進める技術者として、現場に欠かせない存在である。
大手自動車関連メーカーで組立て作業員を経て、入社した。「工具をセッティングすることや機械操作の手順など、覚えることは多かったのですが、自分が操作した機械が材料の形を変えていく様子は興味深く、おもしろく感じました」と入社時を振り返る。前職とは違うやりがいを感じることができた。一方で苦い経験もした。
「ある部品でキー溝形状を加工するときに不良を出してしまいました。切削工具と加工材料(ワーク)のびびりによるものでした。ワークの固定手段が適切でなく、その不備に気がつけたのであれば、加工データの作成担当者に問い合わせなければならず、その役割は自分でした。何も考えず仕事をしてしまったのです」(槌谷さん)。失敗を反省し、謙虚に学び他責にせず、自分がするべきだった行動を考えて次の仕事の進め方に活かす。
確かな加工データで信頼を得る
確かな形状を、ムリ・ムダなくつくるために、高機能工作機械や知見・経験が豊富なオペレーターは欠かせない存在であるが、工作機械の能力を十分に引き出し、安全なオペレーションを行うには品質の良い加工データの存在もまた欠かせない。安藤陸さんは生産技術部CAD/CAM グループでMC の加工データの作成を担当する。
「自分が作成したデータの不備による加工不具合や機械停止による後工程の停滞をさせないこと」と堅実な意識で自分の担当業務をこなしながら後輩のフォローもする、周囲からの信頼が厚い技術者である。
「最近、加工担当者と打合せする際に、アドバイスや意見を求められることが増えてきました。少しは信頼されるようになったのかもしれません」と控えめに自己を評価する。これまで不具合のある加工データの修正依頼があると、焦りからまた別なミスをする「2 次誘発」を起こしてしまいがちだった。そうしたことが最近は起こらなくなった。
「不具合や加工不良につながる原因や要素のおよその見当がつくようになりました」と手応えを感じている。工具負荷や工具の形状外れ、加工時の主軸の回転数不足、切削工具の突き出し量の見込み違いなどである。
「加工データは作成しながら悩むことができるので機械オペレーションに比べると恵まれています。『これまでにやったことがない、新しい形状だ』と思っても実はほかの人が経験していることが多いので、部署内でコミュニケーションをとって、聞いたり、ほかの方の仕事に関心をもったりすることでも結果が違うと思います。あとは、単純なミスを防ぐこと。その点に関してはやるべき確認をすること。当たり前のことをやることだと思います」と自分なりの仕事術も確立しつつある。
「加工中のトラブルや失敗に関して、自分が関係していなくても『明日はわが身』と思って、緊張感をもって仕事をしています」と気を引き締めている。
社内プロジェクトで得た手応え
加工実務の部門とその現場に必要な加工データを作成する部門で、自分に求められる役割を理解し、金型づくりと向き合う技術者の存在に加え、素直な思いで自ら意欲を高める若い技術者の存在もまた、アイジーエヴァースの金型・モノづくりのさらなる飛躍に欠かせない存在である。
金型の磨きや精密部品のバリ取りなどの最終工程を担当する小野田茜さん。入社後は3 次元測定機のオペレーターとして品質管理を担当したあと、現在の部署に異動になった。自分の担当業務を確実にこなしながら、年長者と新入社員の間に入り、職場の雰囲気が明るくなるように意識的に立ち振る舞う。そんな小野田さんはここ最近、モノづくりに対する興味を深め、意欲を高めるきっかけがあった。
アイジーエヴァースでは日常の加工実務にとどまらない、製品開発・設計力の向上や高度な加工技術の開発を目指す「R&D チーム」で社内での最新プロジェクトを実施している。チームのメンバーは稲垣徹也社長をはじめとする経営層が各部門から選抜。そのメンバーらはディスカッションを行いながら、現状保有する加工技術や踏み込んだ条件で形状をつくり、工作機械メーカーが主催するコンテストで上位に入賞することを目指す。そのプロジェクトのメンバーに小野田さんは選抜された。
「工作機械のオペレーションの経験はありませんでしたが、加工技術の基本やサンプル製作する際の仕事の進め方などをていねいに教えてもらいました。自分の発案した形状を加工担当者に依頼して完成品が出来上がったときは非常にうれしかったです」と素直な喜びを語る。コンテストや展示会向けに高難度で斬新な展示品を製作することは、小野田さんにとっては大きな経験だった。
「加工技術の基本を知る機会になり、普段の自分の業務の役割についても理解が深まりました。チームで企画した形状はコンテストで上位入賞を果たして、仕事のモチベーションも高まりました」(小野田さん)。賞や知識の獲得とは違う手応えも得た。
それぞれの立場、それぞれの持ち場で役割を果たす
任された業務を着実にこなし、社内プロジェクトへ選抜されたことをきっかけに意欲を高めた小野田さん。「MC やワイヤ放電加工などの操作を担当したい」という新しい希望・目標が芽生えた。
「ほかの部署の同僚に聞けば、工作機械のことや仕事内容を教えてくれるのでありがたいですね。自分で学べる知識は自分で学ぶ意欲をもって、工夫しながら学べば定着すると思います」(小野田さん)。「工作機械の温度変化による主軸の伸縮とそれが加工物に与える影響」や「ワイヤ放電加工のワイヤのたわみ」など、現象を同僚から説明してもらい、実際に出来上がったものを確かめて理解する実践型の学びに取り組む。「仕上げ工程を担当することで手作業による精密加工の感覚・技能には手応えがあります。自分の強みも活きると思います」と小野田さんは前向きだ。上司の岡本桂吾工場長は「学ぼうとうする意欲、理解と定着が早い。本人の希望をかなえるために準備をしないといけない」と評価する。
また、槌谷さんも新たな意識をもつようになった。自分以外のことに気を配る意識である。「5 軸MCを夜間の無人の状態で運用していることや大手メーカーとの取引き実績も出ていますが、自分も含めて日常業務にはまだ甘さもあります。部署の同僚の気が緩みがちになるときは、年長者として指摘してトラブルなく業務を進めていきたい」とリーダーシップを発揮していくつもりだ。槌谷さんの上司である三浦洋揮グループエキスパート(GX)は「間違いを繰り返さないクレバーさがある。今後はもっと視野を広げた仕事を意識してほしい」と期待を込める。
安藤さんも後輩をサポートする意識をもって取り組む。「後輩が困っていることは自分が過去につまづいたことである場合が多いので、自分ができるフォローはしっかりしていきたい」と周囲に気を配り仕事を進めていく。そんな安藤さんに上司である加藤知GX は「複合加工機の加工データ作成も任せたい」と後輩を助けながらより高度な専門性の獲得を促す。
アイジーエヴァースは主力の金型設計・製作に加えて、航空・宇宙や医療などの分野に対応できる技術力の向上に本格的に取り組んでいる。事業領域を広げ、独自の加工技術を確立するための欠かせない人材が着実に力をつけている。