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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2025.10.09

第13回 金属製品づくりの技能を生成AI でアシストする― 一菱金属

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 金属製調理用品を製造する一菱金属(新潟県燕市)は、製品のすべての生産工程を可視化し、さらに主な製造工程のベテランの知識・技能を未熟練作業者にAIがアシストするシステムを開発した。「きっかけは3 年前、数年ぶりのリピート品を製造する際、詳細な段取りがわからなかったため、すでに退職したベテラン技能者を一時的に呼び戻して段取り工程を聞き直したことでした」(同社の江口広哲氏)

 頻繁にリピートされる製品ならまだしも、数年間も発注のなかった調理用品だと、加工の詳細や注意すべき点などは作業に携わった者でなければ正確にはわからない。また、頻繁なリピート品なら紙ベースでの製造マニュアルを揃えているが、極少量の発注品ではそれもない。

 今後も少子高齢化で製造現場の作業者は確実に減る。しかし、頻度の多寡に関わらずどんな製品でも発注があれば即座に製造できるようにしておかなければならない。そのためには製造ノウハウのデータ化・可視化が不可欠になる。また、同時に資材の発注と受入れおよび製品の発送も含めたすべての工程(生産工程)を自動化・可視化し、管理状況をひと目で判別できるシステムが必要と考えた。

「これまで資材の発注・受入れと製品加工の発注は電話やファクスでやり取りしていましたが、これでは手数がかかるだけでなく、ある時点の製品ごとの仕掛り状況がわかりにくかったのです」(同)

 そのためにも生産工程をデータ化・可視化して誰もが情報を共有できるようにしたい。それにより仕掛りも含めて在庫をリアルタイムに把握することで欠品を防ぎ、売上機会損失も改善できる。そうした思いも含めて開発したのが新システムだった。

製造工程の状況をリアルタイムで把握

 新システムは、新潟県内の樹脂金型メーカーのカワイ精工と共同で構築した。生産工程の情報共有については、各製品の生産工程を一覧で表示し、各工程をQR コードで紐づけ進捗状況をリアルタイムでわかるようにした(図1)。
図1 QR コード付きの手順書

図1 QR コード付きの手順書

 例えば、トングの製造は、材料をブランクしてからプレス加工し、その後に洗浄、研磨する。そして各工程は自社もしくは協力関係の加工業者が分担するため、従来は各工程の終了後に手順書に複数の必要事項を手記入して次工程へ渡していた。それを新システムでは、各工程の作業が終了したらQR コードに紐づけられた手順書に個数を入力するだけで、次工程へ移行できるようにした。つまり各工程の終了時に手順書に個数だけ入力すれば工程の終了を意味することにし、生産工程の一覧表から誰もがその情報を共有できるようにした。作業報告で人が介在する手間を少しでも減らせれば作業者の負荷も軽くなり、その分、本来の業務である製造に注力できるというわけだ。

 また、QR コードには製造ノウハウも紐づけた。それにより熟練作業者の知識と技能の共有と継承につなげられる。ノウハウの項目には商品仕様、資材仕様、製造工程、工程準備などがあり、作業の様子を写真や動画で見られるようにデータを貼付してある(図2)。特に製造工程の項目には品質基準、注意点、不具合事例と対策など製造ノウハウの要になる情報が入力されている。これらの情報を生成AI(ChatGPT)に学習させ、作業者が作業の不明点を問いかければ回答できるようにした。それにより作業者は未知のことでも生成AI の回答をもとに自ら判断して作業に取り組めるようになる。
図1 QR コード付きの手順書
図2 製造の様子を動画で確認でき、不明点は生成AI に質問すれば回答を得られる

図2 製造の様子を動画で確認でき、不明点は生成AI に質問すれば回答を得られる

「作業でわからないことや不安なことがあっても生成AI を活用すればベテラン作業者に聞かずともその解決につなげられるようになります」(同)

 製造ノウハウを次代に継承し、かつ現場での問題解決にもつなげようというわけだ。

「生成AI ですから、加工事例を1 つでも多く学習すれば常に進化していきます」(同)

 それにより製造ノウハウの蓄積・深化もさることながら品質の安定・向上にもつなげられるようになる。

将来的には経営判断の資料として生成AI を活用

 新システムは約1 年の開発期間を経て2025 年4 月に稼働した。製品アイテム数は約300。各製品の製造工程は約10 工程のため、およそ3,000工程に関するノウハウがデータベース化されている。なお、製造工程のAI 化については同社で手がける工程に限られ、現時点で協力メーカーの情報はデータ化していない。

 今後は製造データを逐次入力することでノウハウをアップデートしていき、生成AI を進化させることで組織としてのノウハウを蓄積して次代に継承していく。また、製造業だからこそ各種の報告など事務作業を少しでも減少させ、その分の労力を製造自体に振り向けることで生産性を向上させていける。さらに将来的に経営判断のツールとして生成AI を活用していくことも視野に入れていると言う。

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