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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.12.24

顧客のアイデアをストローで実現 ニッチ産業でオンリーワン企業へ―シバセ工業

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シバセ工業㈱ 本社営業部 部長
玉石一馬氏

Interviewer
パナソニック㈱ くらしアプライアンス社
製造革新センター 工法開発部 成形技術開発課 課長
山本卓司氏

 医療用・工業用ストローで国内シェア9 割を誇るシバセ工業(岡山県浅口市)。ストローを「薄肉PP(ポリプロピレン)パイプ」と捉え、さまざまな業界の顧客から届いたアイデアを柔軟な対応で製品化し、安さと速さも武器として独自の地位を築いてきた。ニッチ産業でオンリーワン企業を目指す同社の強みと今後について、玉石一馬営業部長に話を聞いた。

山本

最初に御社の創業からの歴史をお教えください。

玉石

当社は1926 年に、米や麦、そうめんなどを販売する会社として創業しました。当社がある岡山県浅口市を含む備後地域では、江戸から大正までの時代に非常にコシの強い麦がとれることが知られていたそうです。特に茎の部分の「麦稈(麦わら)」は強い弾力があって、つまんでも割けたり砕けたりしない。それで組み紐状に編んだものは「麦稈真田」と呼ばれ、麦わら帽子などの材料に使われてきました。それと並行して麦稈を原料としたストローが生産され始めました。ご存じの通り、ストローはもともと英語で「麦わら」を意味します。余談ですが、日本におけるストローの発祥地は実は浅口市なんですよ。
麦稈ストローの生産から始まり、紙ストローを経て、プラスチックストローの生産が備後地域で広まっていきましたが、当社は創業以来の精米麦と製麺業を変わらず手がけていました。それがある大手飲料メーカーから「御社にもプラスチックストローをつくってほしい」と声がけを受けたことをきっかけに、1969 年にストロー事業を開始しました。ただ、当初は順調だったものの、2000 年頃になると国内競合他社や輸入ストローの台頭に押されて当社の生産数は激減しました。そこで、当社は従来の一社依存の状況を抜け出すために、メーカー向けではない飲食店向けの業務用ストロー分野へ進出すべく新たに営業展開を始めました。私が入社したのはちょうどその頃です。

なるほど。では、玉石様のこれまでの経歴についてもお聞かせください。

私は情報系の専門学校を卒業後、ソフトウェア会社でプログラマー、人材派遣会社でコーディネーターを経験して当社へ入社しました。人材派遣会社で製造現場の仕事は経験していたのですが、当初はストローのことを何も知らなくて、一から勉強しました。当社の磯田拓也社長は、当初から私に営業をやってもらおうと考えていたようですが、当然ながら製造のことがしっかりわかっていなければだめだということで、最初は製造部門を担当し、少しずつ営業へ軸足を移していきました。
 当時、新たな営業展開の一環で自社のホームページを開設しました。その頃はストローメーカーでホームページをもっていたところはほかになかったと思います。そのせいか、さまざまなメーカーから飲料目的以外の引き合いが増えるようになった。ストローって、言い換えると「薄肉PP(ポリプロピレン)パイプ」ですからね。そう考えて見てみると用途はものすごく広がる。そうした気づきがきっかけとなって、2008年から工業用ストロー事業を立ち上げ、さらに医療用ストロー事業へと広がりました。私は主にこれらの事業で営業を担当してきました。
ストローを成形する様子(上)と口金から押し出されるストロー(下)。押出直後に水で冷却されて凝固する

ストローを成形する様子(上)と口金から押し出されるストロー(下)。押出直後に水で冷却されて凝固する

医療用・工業用ストローでシェア9 割

その医療用・工業用ストローの分野では御社は9 割以上のシェアを得ているそうですね。御社の強みはどのようなところにあると考えていますか。

営業的な視点でのお答えになりますが、一つは安さと速さですね。お客様は当社の安さと速さにとてもびっくりされる。一般に押出成形ではほとんどの場合で金型が必要になりますが、ストローの場合は金型はいりません。
ストローは、押出機の先端部にリング状の隙間がある口金を取り付けて、そこから溶けた樹脂を押し出しながら内側に空気圧をかけることで成形されます。いわばこの空気圧が金型を代替していて、その調整で口径も決まる。厚みは押し出す速度で調整します。図面も必要ありません。だから生産開始までのスピードが速く、しかも安くつくれます。極端に言えば、初めてのお客様でも試作の依頼を受けたその日に出荷して、翌日にはお客様の手元に届く。これにお客様はびっくりしてすごく喜んでくれます。そうした声はわれわれの強いやりがいになって、もっといろいろなお客様に喜んでもらいたい気持ちが湧いて、仕事にも身が入るわけです。
 もう一つの強みは、当社では所有するすべての技術を隠さずにオープンにしているところです。営業の場面では、うまく採用いただいた例を水平展開して別の企業へ提案しても、お客様のニーズになかなかマッチせず空振りすることが多かった。それで「プッシュ型で行う営業は当社には合わないのではないか」という考えに行きつき、2010 年頃から完全なプル型に変えました。
磯田社長と相談して、動画なども活用しながら当社のすべての技術をホームページなどで公開して、「こんなことができる会社ですが、役立てることはありますか」という姿勢を全面に出したのです。すると、お客様の方で、われわれには思いつかないような「薄肉PP パイプ」の使い方のアイデアを考えてくれるようになって、さまざまな業界企業から声がかかるようになりました。それを見て「そりゃ営業をかけても空振りするよな」と思いました。「アイデアは現場からしか生まれない」ということなんです。

問合せ件数の約8 割が売上げに

そうした顧客のアイデアがもとになってさまざまな製品が生まれたのですね。その中でも、特に印象に残る共同開発のエピソードはありますか。

一つは刑務所のタオルかけですね。これは私自身も非常に驚いた事例です。刑務所に収監された受刑者の中にはさまざまな理由で自ら命を絶つ人がいて、その方法として、洗面所にある金属製の棒状のタオルかけにタオルをかけて首を吊るケースが特に多いのだそうです。それを何とか防ぎたいと考えていたある刑務官の方が「タオルはかけられるが、それ以上の重さがかかったらポキッと折れる素材」としてストローを思いついてくれたのです。やはりアイデアは現場で生まれるものですね。それで当社に話が来たわけです。ちょうどご要望の寸法のものを在庫していてすぐ納品しましたが、それが無事現場で採用されました。
また、コロナ禍の折に爆発的に需要が増えたPCR検査キットの開発事例もあります。PCR 検査というと鼻に綿棒を挿入する方法がよく知られていますが、挿入の刺激でくしゃみが出ることがあって、医療従事者への感染リスクが指摘されていたそうです。そうした中で唾液を採取して検査する方法が開発されたのですが、専用の容器にうまく唾液を集める方法が必要になりました。そこで京都大学医学部の教授がストローを使うことを思いついた。その教授ご本人から当社へ電話がかかってきて、細かな使用状況やコストなどの検討を重ねた結果、タピオカを飲むストローの直径と同様のφ10 mm で、10 cm ほどの長さに決まりました。この検査キットは各地に設置された検査センターで広く使われ、2021 年の東京五輪でも採用されました。
 こうした開発事例はほかにもたくさんあります。お客様からお問合せや見積依頼があれば、おおむね8 割は売上げにつながっていると思います。
ストローを成形する様子(上)と口金から押し出されるストロー(下)。押出直後に水で冷却されて凝固する

顧客のアイデアからさまざまな工業用ストローが生まれている(写真提供:シバセ工業)

それはすごいですね。営業達成率8 割を実現するうえで、顧客とのコミュニケーションで注意していることはありますか。

工業用・医療用ストローで言えば、われわれとお客様両方の情報を共有することが何より大事です。お客様がやりたいこととわれわれができることを包み隠さず詳細に話すところがスタートだと思っています。
一方で飲料用ストローについては、レスポンスが命。消耗品の業界は競合がものすごく多いので、迅速なレスポンスは価値になります。だから当社の営業事務には、問合せが来たらあとで折り返すやり方はせずに、その場で調べて答えるように指導しています。その速さが当社の信頼にもつながります。あとは、どんなお客様でも分け隔てなく対応することを心がけています。問合せでも極端な例では「自分個人が使うストローを10 本つくってほしい」なんてものもあります。それでも話はきちんと聞いて対応する。それが口コミで広がって思わぬ受注につながることもありますから。

なるほど、そうやって仕事の種まきをしているのですね。会社全体で皆が同じ方向を向いていないとできないことだと思います。素晴らしいですね。

プラスチックはストローに最適の素材

御社は「紙ストローはつくらない」と公言されていますが、その背景にある考えをお聞かせください。

「脱プラ」の流行に伴って紙製品は良いものだという考え方が広まり、外食産業などで紙ストローを採用する企業が出てきました。ただ、紙ストローがつくられ始めた昭和初期には、「高コスト」、「加工に手間がかかる」、「保存が利かない」、「安全性が低い」などの欠点が判明していて、「これはダメだからやめよう」と結論が出ていたのです。しかも、リサイクルやリユースができないので実は環境にも良くない。
それでも世の中では紙ストローが売れるので、紙ストローを扱ってほしいという要望も多くいただきます。やれば売れるとわかっていますが、当社では扱いません。これはポリシーですね。われわれはずっとプラスチックが最もストローに適した素材だ、ということをずっと主張してきました。実際、安全性や耐久性、コスト、そしてリサイクルの点でもプラスチックのストローは優れています。そうしたポリシーを曲げたと言われるのが嫌で、磯田社長もその姿勢を貫いているのです。

そうした考え方の中で、バイオマスプラスチックの話になってくるわけですね。

そうですね、今われわれが一番推しているのが非生分解性のリサイクルできるバイオマスプラスチックです。成分は一般のプラスチックと一緒で化学式もまったく同じ。もともとの原料が片や石油、片や植物という違いだけです。当社では2021 年頃からバイオマスストローのアピールを始めています。ちょうどその頃に環境マネジメントの国際規格ISO14001 の認証も取得しました。

バイオマスを使うようになってから、御社の中で環境に対する考えなどに変化はありましたか。

ISO 取得の影響の方が大きいと思います。ISO14001 を取得すると廃棄物の処分方法などで法令を遵守する必要が出てくるので、それに伴って、CO2の排出や使用電力の発電方法などに関しても、ふと立ち止まって考える瞬間が出てくるようになりました。

他社ができないことにチャレンジ

今後20 年後、30 年後で御社の事業をどのように伸ばしていこうと考えておられますか。

当社は「円筒形の薄肉PP パイプにおいて、ニッチ産業でオンリーワン企業になる」ということを目指してきました。それはこれからもずっと続けていきます。当社が行う成形方法でストローを製造するメーカーは国内で5 社程度ありますが、工業・医療向けで寸法精度をかなり制限したお客様に製品を提供できるのはおそらく当社だけです。そんなふうに他社が追随できない状態を今後も継続させていきたい。お客様から「他社もいろいろと探したけれど御社しかつくれません」という話を聞きたいのです。それが実現すれば、市場を当社のものにできますから。

そうしたニッチなところでこれからも成長し続けるということですね。

そのためには、他社ができないことにもチャレンジしていかなければなりません。特に技術力をもっと高めたいという思いがあります。その中で今考えていることの一つの例が、ストローと射出成形の融合です。いったん出来上がったストローを金型に入れて、インサート成形するといったことができればおもしろいですね。そうしたストローと射出成形の融合というのはまだ聞いたことがありません。当社としても、まだ世の中にないものに挑戦しないとつまらないと思っています。

そうした技術的な構想は、今の段階で公にしても問題ないのですか。

はい、むしろどんどんと皆さんに知ってもらいたいです。もしかしたら、「そんなことを考えているならちょっと頼んでみようかな」というお客様から相談があって、具体的な話に進むかもしれませんから(笑)。今まで当社は業界の中で、さんざん後発でやってきました。ストロー事業を立ち上げるのも後発、業務用ストロー市場に乗り出したのも後発と、後発ばかりが続いてきたので、これからは先駆者になりたいという思いがあります。それであとからついてくる企業があれば、一緒に戦いましょうと言いたいですね。
狙うところとしては、医療業界はプラスチックと切り離せない業界と捉えています。プラスチックは安価で、使い捨てがしやすく衛生的に使えます。実際、医療器具は昔は金属製のものが多かったですが、今はほとんどがプラスチック製に変わりました。特に医療器具では管状や棒状のものを結構使うので、それとストローって相性が良いのです。こうしたところに皆さんに喜んでもらえる製品を届けていきたいですね。

今後10 年後、20 年後とワクワクすることばかりですね。お話をうかがっていて未来が明るいと感じました。そういった御社の風土を感じることができました。本日はありがとうございました。
玉石一馬(たまいし かずま)
1987 年 京都コンピュータ学院 情報工学科 卒業
同 年 ダイコク電機㈱ 入社
1999 年 日総工産㈱ 入社
2008 年 シバセ工業㈱ 入社
2015 年 同社 本社営業部 部長

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