型技術 連載「巻頭インタビュー」
2026.11.02
日本の“すごい技術”を世界へ 微細加工が拓くモノづくり新時代―微細加工工業会
(一社)微細加工工業会 会長
関 聡彦氏
Interviewer
埼玉大学 大学院 理工学研究科 教授
金子順一氏
「微細加工」を日本のモノづくりのお家芸と捉え、その価値を改めて世界へ発信しようと、多様な業種・業界の企業が結集して2018 年に発足した微細加工工業会。2023年から同工業会の2代目会長を務める関聡彦氏に、工業会設立の背景や活動の狙い、企業間連携による新たな価値創出、そして日本の微細加工技術の未来について聞いた。
金子
まずは関様のこれまでの経歴についてお話をいただけますでしょうか。
関
私は大学卒業後、父の紹介で三井ハイテックに入社しました。ゆくゆくは父の会社である樹脂部品メーカーのhakkai(新潟県南魚沼市)を継ぐ考えだったのですが、卒業していきなり入社というわけにもいかず、でっち奉公で3 年ほどお世話になりました。三井ハイテックは今でこそモータコアが有名ですが、当時は半導体のリードフレームで世界シェア1 位の企業でした。
その後、地元の大学院大学に入学してマネジメントを学び、MBA を取得したあと、1998 年にhakkai に入社しました。そこで父の後を継いで社長に就任したのが2001 年のことです。私の代でやったことと言えば、海外展開に尽きると思います。入社当時、hakkaiが製造していたのは微細で小さいものばかりで、海外の顧客にも日数や発送料をそれほどかけずに納品できていたので、海外へ進出するメリットがなかったのです。しかし、社長就任後の2004 年に新潟県中越地震が起きて、企業としてのリスク分散の必要性を強く感じました。そうしたことも契機となって私の代で海外進出を決意して、タイと中国とメキシコの3 カ国に新たに拠点を構えました。
金子
現在はhakkai の社長は退任されて、会社もすでに別会社へ譲渡されたそうですね。
関
昨年2025 年に大塚化学の完全子会社となりました。私は今57 歳で周りからは「まだ若いし、早いのでは」と言われましたが、コロナ禍の頃から譲渡のタイミングを考えていました。今後の成長を考えると「それをやるのは私ではなくて次の世代ではないか」という思いがありました。ただ、私の息子もすでに別の道を進んでいたし、社内で引き継ぐにも新しいことに挑戦するなら今までの知見や常識が逆に足を引っ張る可能性もあると考えて、まったく新しい視点からマネジメントできる企業へバトンを託したというところです。
金子
50 代の若いうちに身の振り方をぱっと変えられる、その鮮やかな決断はすごいですね。私も50 代ですがなかなかそういう思い切った決断はできません。
「微細こそが日本のお家芸」との思いで発足
金子
関様は現在、微細加工工業会の会長を務めておられますが、この工業会の成り立ちや目的などについてお聞かせいただけますか。
関
当工業会が発足したのは2018 年のことです。近年まで「日本のモノづくりは世界No.1」と海外でも長く評価されてきて、われわれもそれを自負していたはずなのに、最近は完全に米国や中国の後塵を拝する状況になっている。もう一度、日本のモノづくりの素晴らしさを世界に知らしめるために何とかできないか、というところから始まりました。
当時、日本には「微細」を冠する工業会がなかったのですが、「微細こそが日本のお家芸ではなかったか」という思いがありました。おそらく日本人が「微細」という言葉を聞くと、単に「小さい」という意味だけではなくて、クラフトマンシップのようなものを感じるのではないかと思っています。そこには熟練技術者の「暗黙知」に支えられている日本特有の技術があるように考えたのです。
そういった思いから、「微細」という言葉を冠する工業会を立ち上げようということになり、入曽精密(埼玉県入間市)の斎藤清和社長が発起人となって、日進工具(東京都品川区)の後藤弘治社長やNC ネットワーク (東京都台東区) の内原康雄社長など各業界企業の代表の方々が設立メンバーとして加わり、当工業会の設立につながったという流れです。初代会長には設立メンバーの一人だったキャステム(広島県福山市)の戸田拓夫社長が就任しました。
微細加工工業会の設立総会の際の様子(写真提供:微細加工工業会)
金子
設立当初、関様は副会長として参画されたのですね。
関
当時まだhakkai の代表だった頃に、設立メンバーから「関さんのところも微細加工をやっているからぜひ参加してほしい」というお話をいただいたのがきっかけです。
私としては、会員になっていただく企業の皆さんに少しでもメリットを感じてもらいたくて、すでにある他の工業会とは差別化を図るべく、「とにかく多種多様な企業に参加してもらおう」とさまざまな方面に参加を呼びかけました。中小企業だけではなくグローバルに事業展開する大企業にも入ってもらおうとか、加工メーカーだけではなくて生産材メーカーや、表面処理やめっきを扱う企業など、「微細」という1つの傘のもとにつながっている企業をたくさん集めようという観点で声をかけたのです。だから、会員企業の中には、例えばクリーンルームなどで使用する服をμm単位のちり一つなく洗濯できる微細な洗浄技術をもった企業もいます。私もこの業界は長いですけれども、そういう技術を知らなかった。日本にはまだまだすごい技術があるんだなと気づかされます。
日本の微細技術がグローバルの舞台に出ていくことができれば、モノづくりの特定分野では日本もリードできるんじゃないか、というのが当工業会の主旨です。会長の職は2023 年からで、当工業会の設立から5年が経過したのを機に初代会長からバトンを引き継ぎました。会員企業数は2026年7月時点で75社です。
コンテストを通じて協業が生まれる
金子
会員企業としては設計や金型製作、成形加工まですべて一貫で行っているところというより、製造工程の一部分を専門に担う企業が多くて、そうした企業が工業会を通じて協業されているというイメージでしょうか。
関
はい。会員企業同士がつながることの相乗効果というのは思っていた以上にある、という印象ですね。ある事例では、フィルム加工などを行っている企業で、あるフィルムをカットするために必要なパンチが従来付き合いのある企業では製作できなくて、狭山金型製作所(埼玉県入間市)がもっている技術だったらそれができるんじゃないかということになり、協業に至ったことがありました。また、会員ではない企業から「こういう技術をもっている会社を教えてほしい」といった相談や問合せを受けることが月に数件ほどあって、そうした案件は関連する会員企業の皆さんにメールを一斉配信して共有して、直接取引に結びつくといったこともありますね。
金子
金型メーカーの方とお話をすると、他の企業がどんなことをやっているのかを知る機会が案外少ないとよく聞きます。それで型技術協会などに参加して横のつながりをもとうとしています。その点、微細加工工業会の活動はもっと重層的に他の分野にまたがって、こういう新しいことができるのだったら、うちで使ってみようという情報共有や協業の機会が実現されているのかな、と思いました。
関
そこは私としても当工業会としてもすごく意識しているところです。その中でわれわれが注力しているものの一つに「Expert Bisai Creators コンテスト」というものがあります。これは日本の微細加工技術を一般の方にもわかりやすい形で発信し、微細加工市場の活性化につなげることを目的としたコンテストで、学生や若手技術者が微細加工技術を駆使してつくり上げたさまざまな作品を、その美しさや意外性、技術の高さなどの点から評価するというものです。エントリーできるのは工業高校生と大学生、高専生、そして企業入社後5 年程度ぐらいの若手エンジニアです。
今おっしゃられたように、企業の中にいると外の状況が見えづらくなります。そうすると、社員は業界の中で自分の技術や技能がどの程度のレベルにあるのかがわからなくなってしまう。その点、Expert BisaiCreators コンテストは、他の企業の同年代のエンジニアがどんなものを製作してくるのかを知ることで、自分の立ち位置を確かめる良い機会になっていると考えています。
また、コンテストに出す作品が一つの企業単独では製作できないといった場合に、例えば専門分野の異なる2 社で協業してつくり上げるということもあるようです。こうした協業は、例えば金型業界など他業界では会員企業がコンペチター同士になってしまって生まれにくいのではないかと思います。おそらく微細加工の分野だからこそ、こうした協業が実現できているのだろうと思います。
「Expert Bisai Creators コンテスト」の2025 年受賞作品(写真提供:微細加工工業会)
金子
コンテストの参加者はテーマに沿って作品をつくるという感じですか。
関
そうですね、テーマは開催年ごとでいろいろと変えています。フリーテーマで行ったこともありました。2026年度は1インチ(25.4 mm)角の立方体に収まるサイズで自由に作品を製作してください、ということで10月23日(金)まで募集しています。毎回のテーマは、入曽精密執行役員で当工業会の事務局長を務める内田研一さんが提案したものを幹事会の中で話し合って決めています。
金子
審査はどのように行っているのですか。
関
1次審査としてWeb投票があります。サイトにアクセスすれば誰でも投票できます。2 次審査は大学の先生や企業の方などで構成される審査員に対するプレゼンです。製作したものを審査員の前に置いて、使った材料や工具、製作の方法やアイデアなどを発表してもらいます。
エンジニアに限らず、得てして日本人はプレゼンがあまり上手ではないので、その練習の機会をつくろうという思いもあります。そうした審査を経て受賞作品を決定して、表彰式も行います。参加者は、他の技術者のプレゼンも聞けるので、「こんなものをつくる人がいるんだ」、「5 軸を使わずに3 軸でこんなのができちゃうんだ」といった感じで、表彰式の場面でも他の人の作品と見比べながらワイワイやっています。それを見ているとこっちも「よしよし」という気持ちになりますね。
金子
金型や射出成形を使ったコンテストだと設備が大掛かりになってしまうので、特に学生では取り組めるところが限られてきますよね。その点、微細加工であれば工作機械が使えればチャレンジできるので、学生に創造とプレゼンの練習をさせるという意味でも、すごく必要な場所だと感じます。
型技術協会とのコラボも
金子
先ほど微細加工は暗黙知に支えられている技術といったお話がありましたが、そこでは熟練技術者のノウハウをどのように若い人に引き継ぐかということが課題になると思います。工業会としてはその部分へのサポートをされているのですか。
関
現在は月1 回ほどの頻度で講習会などの集まりの場を設けています。テーマもさまざまで、おっしゃられたように製造現場の方への技術的な教育ということもあれば、営業に関するテーマで行ったこともありました。また、そこに参加された異なる規模や業種の会員企業が意見交換をして気づきが得られるような場所をつくっています。あとは、先ほどもお話した当工業会のコンテストも、熟練者の技術や技能を伝えたり、技術的な意見を交わしたりする機会に活用できるのでぜひエントリーしてくださいということをお伝えしています。
金子
型技術協会でも型技術者会議や型技術ワークショップで実施している車座ミーティングなどの企画で若手の人が来られて自社の悩みや取組みについて企業横断的に話し合う機会があります。こういうことができるところは学協会や工業会の意義の一つですね。
関
当工業会でも総会でグループディスカッションを開催しています。参加いただくのは、企業の社長もいれば現場の技術者や営業の方もいますし、年齢もばらばらです。普段接する機会が少ない人たちでディスカッションを行うのですが、おもしろいなと思いながら見ています。
金子
型技術協会と微細加工工業会で何かコラボのようなことをしてみるのもいいですよね。
関
そうですね。単独ではできないこともあるので、団体同士でつながって一緒にやろうかということがあってもいいと私も思います。
金子
それでは最後に微細加工工業会の今後の展望について教えてください。
関
会員企業の多くは、何か新しいことに取り組まなければと考える一方で、先立つものがないというジレンマを抱えています。例えば販路を海外に広げたくても、海外の展示会の出展料はものすごく高い。だから躊躇するのもよくわかるのですが、かといって投資しない限り未来はありません。政府も価格転嫁を後押しして、値上げもできるようになってはきましたが、やはりまだまだです。だから、やはり企業としての「稼ぐ力」をどう培っていくかということがわれわれにとっての課題だと捉えています。
そこにはもちろん、適正価格できちんと支払ってもらうということも大きく関係しています。それができれば新しい挑戦もできるし、新しい暗黙知も生まれてくる。それがひいては日本産業の底力のアップにつながるはずです。当工業会としては、政府と資金的なバックアップに関する交渉を行ったり、適正価格でモノを買うことの重要性を訴えたりすることを通じてこうした課題を解決するための支援を行っていければと思っています。
金子
2010 年頃から行われた「クールジャパン戦略」はひどく批判されましたが、日本の微細加工技術の海外展開を支援するように経済産業省へ訴えることは非常に重要です。適正価格の実現については、ぜひ型技術協会のイベントで登壇いただいて、稼ぐ力を伸ばすための方策を一緒に考えていければと思います。本日はありがとうございました。
関 聡彦(せき あきひこ)
1992 年 埼玉大学 経済部 経営科 卒業
同 年 三井ハイテック㈱ 入社
1996 年 国際大学 国際経営学研究科 入学
1998 年 同大学 卒業
同 年 hakkai ㈱ 入社
2001 年 同社 代表取締役社長
2024 年 (一社)微細加工工業会 会長
2026 年 (一財)Akiba Tech & Art Connect-1 理事