型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2025.08.20
第13回 国境を越えて広がる学生たちの支援の輪
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
技術と教養が融合する学び舎大分工業高等専門学校
大分市の中央部に近い高台に位置する大分工業高等専門学校(以下、大分高専)。大分高専の北方には日本製鉄や昭和電工、住友化学、ENEOS など、日本を代表する製造業の工場群が広がっています。この地の利を活かし、地域産業との強い連携のもと、実践的な技術教育を展開しています。1963 年の創立以来、「技術と教養と愛の精神」を建学の理念に掲げ、創造性豊かな実践的エンジニアの育成に力を注いでいます。
そんな大分高専で今回私が注目したのは、学生たちが取り組んでいる「足踏みミシンボランティア」という活動です。足踏みミシンとは、電力を必要とせず、人力で作動する伝統的なミシンです(図1)。
かつては家庭用として広く使用されていましたが、電動ミシンの普及により現在日本国内での使用率は激減しています。その一方、東南アジアの縫製工場では、足踏みミシンは依然として重要な役割を果たしています。特に電力インフラが不安定な地域では、電気を必要とせず、耐久性が高い足踏みミシンが高く評価されているのです。
そうした背景を踏まえ、古くなって使われなくなった足踏みミシンを各地から集めて修理し、東南アジアの電気の届かない地域や貧困層に贈るというユニークな国際支援プロジェクトが「足踏みミシンボランティア」なのです。ミシンを寄付することで、現地の人たちが縫製技術を身につけ、収入を得る機会を創出しています。その結果、生活水準が上がったり、子供たちが学校に通えるようになったりと、多面的な効果も生まれています。
大分高専では2003 年からこの活動に取り組んでいて、これまで21 年間で延べ550 台のミシンを修理し、約360 台を東南アジア4 カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン)に届けています。
「古きを活かし 新しきを創る」足踏みミシンが育む多様なスキル
先輩から後輩へ、長年にわたって受け継がれている足踏みミシンボランティア。主に活動が行われているのは、毎週木曜日の放課後です。指導教員や上級生から技術指導を受けながら、学生たちがミシンの修理にあたっていました(図2)。
図2 足踏みミシンを修理している様子(写真提供:大分高専)
「足踏みミシンを修理する」という活動内容から、機械系を専門に学んでいる学生さんたちが集まっているのかなと想像したのですが、実際はまったくそんなことはありませんでした。学科や専門など関係なく、「このボランティア活動に興味をもった学生」たちが手を動かしていました。修理方法はすべて先輩たちから学び、何か困ったことに直面したときには先生からアドバイスをもらうのだそうです。
また、ここで学生たちが身につけられるのは、修理に必要な技術的スキルだけではありません。例えば、古い足踏みミシンの部品は入手が困難なため、代替品を探したり、自作したりする必要が生まれます。そういった過程では、問題を解決する力や創造的な思考力を養うことができます。さらに、異なる年齢や専門分野の学生が協力して作業を行うため、コミュニケーション能力やリーダーシップが磨かれるほか、限られた時間内で多くのミシンを修理するため、作業の効率化や品質管理といった、実社会でも求められる重要なスキルを身につける機会にもなっているのだそうです。
届けよう、技術と希望 渡航がつなぐ未来への架け橋
2024 年のとある日、フィリピンの田舎町に大分高専の学生たちの姿がありました。彼らは単にミシンを修理するだけでなく、年に1 回のペースで実際に東南アジアにも足を運び、現地で修理指導を行っています。そうすることで、年月が経って万が一ミシンが壊れたとしても現地で対応ができるので、長期的な自立支援につながると考えているからです(図3)。
図3 東南アジアでの活動の様子(写真提供:大分高専)
と、ここまで聞くと、一見現地の方たちのために修理指導(海外渡航)を行っているようにも見えますが、お話をうかがう中で、この渡航はもっと重要な意味をもつということに気がつきました。若いうちから海外の文化に触れられるというのももちろんありますが、それ以上に重要なのは、学生さんたちが現地で「自分たちが修理したものを使っている人たちと触れ合える」ということではないでしょうか。実際に東南アジアに足を運んだ学生さんにお話をうかがうと、どの学生さんも「贈ったミシンが実際に役に立っているということを感じることができた。達成感を覚えた」という趣旨のことを語ってくれました。
モノづくりの根底には、「困りごとを解決して、『ありがとう』と言ってもらいたい」というのが少なからずあると思うのですが、この活動(海外渡航)では、それを感じることができているのです。こうしたフィードバックが学生さんたちのモチベーションにつながり、「次はもっと喜んでもらえるように」というモノづくり精神に火をつけているのではないでしょうか。
これまでに、大分高専で足踏みミシンボランティアに参加した学生は、120 人以上に上ります(図4)。多くの学生たちが貴重な経験を通し、モノづくりの楽しさを感じて巣立っていきました。この活動を通じて培ったであろう国際的な視野と技術力は、きっと今も世界のどこかで、誰かを笑顔にしていることでしょう。
図4 2024 年度の「足踏みミシンボランティア」参加メンバー(写真提供:大分高専)